20250109 凍てつく寒さと熱源たるもの 雑記
仕事を終えた。
かなり集中できたし、思考と精神と身体のギアが嚙み合ったので、一瞬に感じた。
毎日こうならいいのに。
帰りの電車で、病み上がりの友人から中華料理を食べに行こうとの連絡があった。
頻繁に会う仲だが、彼はインフルエンザに罹患していたので、しばらく会えていない。
また、今日は今季一番の冷え込み具合である。本当に寒い。加えて私は冷え性だ。
ゆえに私も、彼の具合が心配だったし、熱源たりえる食事を求めていたので、OKの返事をした。
本当に冷える、電車内でさえ寒い。
電車を降りると、尚更だ。
なんとか足を動かす、そういうレベルの寒さだ。
自然が敵に回ったようにさえ感じる。自然に敵味方もなく、ただ私たちが属するものでしかないのだが。
彼のいきたい中華料理屋はバイクで行く距離に位置しているので、バイク用の防寒着を身に着けてから本来出発するべきなのだが、自分の今の気力ゲージの残量と外気温から考えるに、
一度帰宅するともう外出する気が起きなくなることは明白であった。
よってそのままバイクに跨る。
走る。本当に寒い。
時速50kmで走るということは時速50kmの向い風を浴び続けるということだ。
翼竜に毛が生えた経緯を思い出した。彼らは鳥にはなれなかったが。
目的地の中華料理屋に着くころには歯がガタガタ言っており、身体が小刻みに震えていた。
店前で二人で合流したが、店は臨時休業であった。
頼む、俺に熱をくれ。今すぐに。
すぐに別な個人経営の中華料理屋へ向かった。
店内は混み合っており、日本語はひとつも聞こえてこない。
友人が言うに、中国人留学生に人気のお店だそうだ。
店員さんもみんな中国語だ。
店内は暖かいはずなのだが、身体が芯から冷え切っており、私だけが震えている。
友人も寒い寒いと言っているが、その実、首元にはモフモフがついている。くそう。
メニューを開き、おいしそうではなく、熱になりそうなものを選んだ。こんな指標でメニュー表を見るのは初めてだ。
頼んでから周囲を見るとみなメニュー表にないものを食べている。彼ら独自のメニューや注文方法があるのだろうか。
目耳鼻からの情報に頼りすぎると、我々が中国の下町に旅行に来たとさえ錯覚する。
唐辛子だらけの料理が出てきて、あっという間に平らげた。
食べ終えると、頭皮にじっとりと汗が浮かぶ。少し額に垂れてくる。美味かった。麻には特殊耐性を持つ私だが、辣は人なみである。腹と舌が熱いと言っている。
お会計が意外と安いこと、通貨が元でないことに安心した。
このままでは舌がひりついて話にならないので、近くの公園で甘い缶コーヒーと煙草を摂取することにした。
普段煙草を吸う彼だが病み上がりゆえ今日は控えるとのことだった。
人を待たせながら吸う煙草はあまり美味くない。
先ほどかいた汗が急速に冷え始めるのを感じた。このままではまずい。
我々のルーティンだとこのまま銭湯に行くのだが、今日は行ったとて帰りに湯冷めし、髪が凍るのは明らかだった。解散し、足早に帰ることにした。
ここまでもここからも意識がずっと曖昧かつ朦朧としている。脳の動きが寒さで阻害されている。何を考えるにも、一度、「寒い、寒すぎる」が挟まる。
脳のメモリが強制的に食われている状態は、先に患った鬱によく似ていた。
2人でバイクの駐輪場へ向かう道中、チェーンの古本屋を見かけた。ここで衣服の間に暖かい空気を挟んでから、バイクに乗って帰ろうと思った。幾分かマシになるだろう。
店内を2人でそれとなく歩いていると、別な友人Yの家に置いてある好きな漫画が、まとめて安く投げ売りされていた。
物を買うのに長考する傾向がある私なので当然悩むが、横で病み上がりの彼が、先ほどの料理で胃をやられた故早く帰りたいと訴えている。中華料理を求めたのは彼の方なのに、いったいどういうことなんだ。笑える。
彼は本を買うことに躊躇いがない人種なので、買え!と急かされて、曖昧な意識のまま購入してしまった。
そして別れの挨拶と今日の総括もほどほどにして、それぞれバイクに跨り家路についた。
帰る際の記憶さえ凍てついている。
帰宅。体が震える。
まずお湯で指先を温める。さすがに霜焼けは起きないが、悴んでどうにかなりそうだ。
部屋中の暖房をつけ、震える身体を温める。
料理によって胃だけが熱い。胃の形がわかる。
が、身体は一向に温まらない。
埒が開かないので、布団に潜り込むことにした。やっと暖かみを感じる。私は本当に毛布を愛している。その気持ちはライナスにだって負けていない。
布団の中で暖をとっていると、意識が輪郭と主体性を取り戻し始めた。
そういえば、と思い立ち、この漫画が好きな例の友人Yに自分もなぜか成り行きで手に入れてしまった旨を伝えた。彼はたいそう嬉しそうにしていた。
そして、そういえば、と、我々が好きだった解散したはずのバンドが10年以上ぶりに再結成するらしい、という連絡がきた。
その瞬間再び意識の輪郭と主体性が失われた。気が遠くなる。10年前に戻る。
間違いなく私の人生を狂わせたバンドだ、上の世代にとってのナンバーガールにほかならない。
なんて日だ、と呆然としていた。
目が覚め、気づいたときには朝方になっていた。
そして今これを勢いだけで書いている。