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『呼吸をふわっと整える』 まえがき より
呼*吸のあいだに何かが起きる。” 呼吸 ” の現場で起きるミステリーを追う
私も、整体の現場で40数年間、日々呼吸の動きと身体のバランスの変化をつねに見、感じとってきました。しかしあらためて、整体の中で呼吸をどう扱ってきたのかを見直してみますと、これまで呼吸を意識する、あるいは観察するといっても、真正面から見るというよりは、“ 横目で ” 見てきた気がします。
たとえば、相手の呼吸の動きを観たり、感じたりしていますが、呼吸数や呼吸の長さをカウントしたりはしていません。そこで今回、“ 呼吸 ” を書くにあたって、呼吸のテンポ、長さをちゃんと測ってみようと、あらためて思い立ちました。
ところが、そこで予期しないことに出会いました。
呼吸をただ<吸>の頭のタイミングに合わせて、「い~ち、に~い、さ~ん…」と、30秒とか1分間数えてみました。「ごく簡単!」そうです。しかし、数をちゃんと数えようとすると、時間経過、または数のカウントのどちらかが、意識からフッと飛んでしまうのです。簡単にできると思っていたのに、ここまでむずかしい…とは !
これはちょっと驚きでしたが、一つの “ 発見 ” でもありました。整体中の自分自身の動きはほとんど自動化、無意識化していて、関係のないことが思い浮かんだりもするし、会話もできるのに、身体の反応(呼吸)そのものを客観化、言葉として明確化しようとすると、どうやらその根本で抵抗が起るようです。
「いったいどうなっているんだ ?」 何度もトライしてみて、だんだんなんとなく見えてきました。呼吸を観ているというだけで、観ている側の意識が、相手の呼吸と同化していってしまうようなのです。やれやれです。
でも、この身体の動きと意識のあいだを、なんとか言葉にしたい。ここに何かあるのではないかと思うのです。これまで整体の中で、「呼吸を “ 横目 ” で観てきた」ことにも、どうやら関係がありそうです。
問題の在り処は、<呼>と<吸>のあいだ、とくに<吸>の直前の “ 間(ま) ” です。整体の原点=初心、” 無心 ” の中で起きた、身体が変わる瞬間の静かな驚きも、そこにあります。
身体の変化は、劇的というよりは何気なく、スッと起こります。何度くり返してもスッと通り過ぎる。くり返すうちに、それは呼吸の “ 間 ” で起きるということだけは、分かってきました。
身体と身体のあいだに起きる ” 無心 “ の反応、動き。それは整体を始めた ” 初期衝動 “ そのものといってもいいと思います。
呼吸の<呼>と<吸>の“間”をどう捉え、そこで何が起きているのか?
呼吸の ” 間 “ をめぐって、整体の核心にある意識と ” 無心 “ と呼吸の関係を洗い出していきます。
『呼吸をふわっと整える』は2019年10月16日 河出書房新社から刊行予定です。Amazon では9月7日より予約開始