酒とナンパとスピリチュアル〜歌舞伎町哀愁伝〜

酒を飲んで落ち込まないことがない。

飲み始めてはや15年になるが、分別のついてきた近年の方が、その落ち込みの度合いがひどい気がする。
若い頃は、合コンで暴言を吐こうが、記憶を無くしてマンション前の側溝で寝ようが、国道の中央分離帯でタコ踊りをしようが（実話）、ナンパしてきたBMWのフロントガラスに「氷結レモン」をぶっかけようが（やめて）酔いが覚めればけろっとしていた。

終電前に宴席がお開きになる。
そしてシンデレラの魔法が解けるように、夜風に当たって酔いが覚めるに従い、怒涛の後悔が押し寄せる。
当然、翌朝もダメ押しで死にたくなる。
何も、狼藉を働くわけでもなければ、暴言を吐くわけでもないし、店で暴れて出禁になるとか、そんな壮大なスケールの話でもない。

ただ、喋りすぎて落ち込むのである。
ああ、なんてくだらない自分語りをしてしまったのだろう！あの時、変なことを言ってしまった。馬鹿げた自己主張をしてしまった、つまらない自慢話をしてしまった、サブい冗漫を言っちゃったな。死にたい！
と、星空の下、とぼとぼ歩きながら、或いは翌朝、タイトな二日酔いの中で羞恥心にのたうちまわる。

昔の私のように、どんな醜態を晒しても寝れば忘れてケロっとしている人がいる一方で、
我ながら、じつに面倒くさい人間だと思う。

飲みすぎたあとの気分の落ち込みは、
自分の見苦しさと戦ってる気分の落ち込みなのだが、
もっと言えば理想の自己像との剥離に苦しんでいる過剰な自意識のあらわれでもある。
あの場にいたのはすべからく私と同じ酔っ払いで（下戸なのに飲み会にフルタイム参加するツワモノもいるが）、私の言ったことなんざ恐らくいちいち覚えていないのだが、
だれが覚えていようとなかろうと関係なく、自意識が傷ついて、自分に失望して落ち込むのだ。
私は一体いつから、こんな理想を背負い込むことになってしまったのだろう。
毎度毎度叶えられなくて泣きたくなるような「大人の私」という虚像を、いつのまに作り上げてしまったのだろう。
そしてその虚像にはどれほどの価値があって、もっと言えばそれは誰に対しての価値なのか。

「分別のある大人の私」という自己像が一体誰のために存在するのかと言えば、
私のためである。
もっとも、「物分かりのいい魅力的な大人」という他者からの承認を介して満たされる私の自己肯定感のためにある。くだらない自分語りで私が満たそうとしたものと、なにひとつ違わない飢えがそこにはある。

酒に塗れた夜の底辺で、誰一人として覚えていないであろう自分の発言を反芻しながら、
私は鏡の中の私と孤独に戦っている。　
馬鹿げた見栄を張る自意識を、色合いの違う虚栄心で殴りつけながら。

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ところで、
その自虐的羞恥心に加え、その夜は更に不快なことがあった。
しつこいナンパを無視していたら、その連れの男に「たいして可愛くもねぇだろ」と暴言を吐かれたのだ。
結果的に、私はふつうに歩いていただけなのに見知らぬ男に絡まれた挙句、容姿を罵倒される可哀想な人になってしまった。通り魔被害もいいところである。
これぞ世の不条理。

私も私で、咄嗟に「うるせぇわ、チビ」と、ベーシックな差別用語で応酬してしまった。
暴力が暴力の連鎖を生む、この世の負の原理を見た気がした。

しかしなんて愛のないエネルギーの交換なのだろう。
波動高い系の人が見たら憐れみと恐怖で震える光景である。
しかしこれぞこの世のリアル。

私はスピリチュアルな生き方の実践者だが、
世界の全てが愛だとも思わない。
そしてその事を大したことだとも思っていない。

どれだけ高潔な次元にアセンションプリーズしたところで、
私たちの肉体は事実として多くの命を犠牲にし、それをゴミとして排泄する弛みない循環によって営まれている。
それぞれに欲があって自我があって、事実として戦争もいじめも横領も性犯罪もゲスナンパも無くならない。
悟ろうが悟らまいが、
天使の導きがあろうがあるまいが、
陰陽の原理はひっくり返らないのだ。
白の中に黒を見ること。
黒の中に白を見出すこと。
全てを黒で塗りつぶすことと同じくして、白だけしか見ない生き方もまた、ある種の歪みを生むものだと思う。

大事なのは多分、美しさと陰惨さに彩られたこの世界を、透徹した眼差しをもって泳ぎきること。
そしてより自分自身と強く繋がる事を諦めないこと。

だから私がブスだろうとバカだろうと、そんな呪いとは関係なく私の価値は揺るがないのだし、
私を無意味に刺しに来た、（恐らく）連敗続きのゲスナンパ野郎にも相克のための学びが用意されていて、
そして当然ながら彼の命にも等しく価値がある。
猥雑さと美しい魂のフィールドは共存する。
愛によって何かを害悪視するのはもはや愛じゃない。

都会の夜の底辺は、その陰陽のコントラストによって大事なものを見せてくれる大事な学びの場なのだ。

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（ハッシュタグがカオス）