コロナ禍での都知事選
2020.7.6
2020年東京都知事選は現職小池都知事の圧勝に終わった。
開票速報が流れる午後7時59分、カウントダウン後と同時に画面に現れた再選確実という文字に私は唖然とした。
その後、その日の夜中までかかって行われた集計を見た。どの地区も完全に2位以下をかなりの票差で引き離していた。圧勝といえば圧勝だが、今回の小池都知事の圧勝の圧が、弾圧の圧に思えてならなかったのは私だけだろうか。
コロナ感染拡大に伴い、のっけから密を避ける為の街宣はしませんと述べた小池都知事。そして、コロナ感染拡大の為公務が忙しく、討論会などのメディア出演は難しいと述べた小池都知事。マスコミには選挙に関しては平均的な報道が義務付けられている為、小池都知事はほとんど<公務>でテレビに出るが、他の候補者はほとんど取り上げられることがなかった。取り上げられたとしても、候補者自らが政策を語るものではなく、あちこちでインタビューされたり、SNSや配信などで公開された言葉などをかいつまんでリポーターが組み立てた記事による紹介のみであった。
しかし、今回は史上最多22人の候補者が出馬した都知事選である。都民がその22人の候補者の政策などを確かめる為の手段が、政見放送、SNS、Youtube配信などに限られていてこれほどまでにメディアで報道されない選挙戦は今までに経験したことがないと多くの人たちの不信感は強まり、最後の方では逃げるな小池、とまで騒がれるようになっていた。
言うなれば、小池都知事の選挙活動は、4年間のメディア露出による知名度に重きを置かれ、4年間の政策の不完全な部分などについての他の候補者からの言及を完全に封じ込め、コロナに関しても何かやっている感だけが、SNSには関心がなくテレビだけで都政を見てきた多くの人たちに有効な票になったのではないだろうか。コロナによる密を避けなければならない状況は各候補者たちにとっても同じ課題だ。でもそれをしなければならない状況をやむなく強いられたということも現実にあった。
もちろん小池支持派の方達は、小池さんの実績や政策に心から賛同して票を入れた方もいらっしゃると思うが、それを言うなら、同時に、他の候補者の政策なども同じように多くの方達に伝える場所が限られてしまったことに公平さに欠けた選挙であったと思えてならない。
日本のトップの都市である東京都のリーダーを決める選挙がこれほどまでにアンフェアなものであったことは非常に残念であると同時に、投票率50%の現状に落胆を覚えた。
開票結果を開票所別に一覧にしたものを見ると、その地域もぶっちぎりで小池票が集まっているが、私は2位以下の方達の票の方がより興味深かった。
私がずっと応援してきた小野都知事候補の票を見ると、今回まったく無名で立候補した人には思えない票の伸びがあった。そして、それは演説した地域で特に感じた。知名度がなく、遊説にも行けなかった地域ではほとんど票を得ることができなかったが、票が取れたところ、特に東京23区の至る所での得票数には目を見張るものがあった。その地域は小野都知事候補が声を大にして東京の未来を叫び、政策を訴えた場所だった。つまり、小野都知事候補に集まった票は知名度に関係なく、明らかに政策に賛同する票だったのだと思う。知名度では恐らく小池さんの次に来る山本太郎氏とほとんど互角だったが、内容は政策の差ではなく、知名度の差だった。
必死で政策を訴え続けた候補者がメディアで報道されず、選挙以外のことで目立ってメディアに出つづけ、これからの都政について生きた言葉で政策を語ることがなかった現職が、勝って当たり前の選挙が存在することがそもそも大きな間違いなのではないだろうか。何の為に選挙期間があるのだろうか。小野都知事候補は200回にも及ぶ演説を繰り返した。山本太郎候補も密を避けるという名目でゲリラ作戦を取った。街宣をした候補者たちは自ら頭を下げてうちわやチラシを配り続けた。それが選挙活動であり選挙期間なのだ。それなのにすでに最初から結果が決まっていた都知事選などと言われては選挙の意味など存在しない。耳障りの良いキャッチフレーズや果たせない公約を掲げる候補者が後を絶たないのはそうした選挙のあり方に問題があることに本気で向き合わなければ、いつまで経っても日本の政治不信を解消できるはずがない。
政策を実際に生で聴かせ、きちんと判断してもらうだけの回数もなく、人々に心の叫びを訴えることをしないで、ただ準備された文章を各地域の人に読むだけのたった2分余りの長さで作成された動画を選挙活動に当てた現職には、本当の選挙のあり方は微塵も感じられなかった。
投票に行かなかった方が5割もいたことは残念だが、その5割のうちの6割が小池票になったことは事実だ。それがこの国の現実だ。せめて小池都知事が本物の都民ファーストの精神で都政に臨んでくれることを願う。
昨日の開票日会見で小野都知事候補は、「やり切った、悔いはない、」とすがすがしささえ感じるほどだった。本当の目標が日本の政治のあり方、本当の民主主義のあり方を見直すということだと強く語っていた。
この文章を書いたのは、この3週間あまりの心境をまとめなければ気持ちがおさまらない、そんな気持ちからであり、1人のそれこそ泡沫みたいな意見にすぎない。だが、今回の選挙で、日本の首都東京のトップを決める極めて大切な選挙が、民主主義からかけ離れた選挙であったことが浮き彫りにされたことを多くの人たちが自分ごととして受け止め、投票に行くことで政治に参加していくことができるという認識を高めていけたらと願う。