知っているようで知らないボブ・マーリーと2024/5/17公開・映画『ONE LOVE』
神ではなく人間としてのボブ・マーリーを描く一大ミュージック・ビデオ
ボブ・マーリーの伝記映画『ONE LOVE』がまもなく日本でも公開される。
ドキュメンタリーではないが、妻でシンガーのリタ・マーリー、息子のジギー・マーリーはじめマーリー・ファミリーがプロデューサーとして参加。
またザ・ウェイラーズを実の息子たちが演じるなど、関係のあるミュージシャンや二世が多数出演しており、半ドキュメンタリーのようなリアルさがある。
ボブ・マーリーを演じたのはキングズリー・ベン=アディル。公民権運動をテーマにした「あの夜、マイアミで」(Amazon prime videoで配信中)ではマルコムXを演じていた。
ああ、あの人かとはピンときたものの、正直言って、あのボブ・マーリーを俳優が演じるなんて、との思いはあった。
でもそれは杞憂に終わった。
むしろ演じてくれたことによってワンクッションができ、人間ボブ・マーリーに対するイマジネーションが拡がった気がする。
先に、“あの”と表現したが、これまでボブ・マーリーは伝説の中で語られ、神格化されてきた。
しかし、この映画の中にいるその人はもっと人間臭い。弱さもあれば、身勝手さもある。
まずそうした弱い自分を鼓舞し、愛する家族の心の平和と自由のために必要だったのが音楽だったのだろう。
そしてそうした愛する人たちとの暮らしが平穏であるためには、故郷ジャマイカも、また世界も平和でなければならなかったのだ。
そのことに気づいて私はむしろ安心したし、一つひとつの歌を今いちど噛みしめることができた。
命を賭けてステージに立つ意味 音楽に力はあるのか
映画は1976~78年に焦点を絞って描かれる。
76年と言えば、二大政党の対立で混乱するジャマイカに微笑みをとのメッセージのもと「スマイル・ジャマイカ・コンサート」が開かれた年。そして激化する対立の中で、リハーサル中にボブが狙撃された年でもある。
これまでブルースやソウル・ミュージック、ヒップホップなどを聴いて来た私は貧困や不条理、暴動の中から音楽の生まれる様を、映像や資料を通してであったが、たくさん目にしてきたつもりだった。
しかし小さな島国で人々が対立する当時のジャマイカの状況は違う意味で激しく、厳しい。
こんな環境の中で音楽を創り出し、命を賭けてステージに立ち続けなければいけないのか。
銃撃され2日後にはステージに立つボブ・マーリーの姿に、よく言われる「音楽の力」について考えずにはおれない。
また随所に表現されている、歌が生まれ作られていく過程はとてもスリリングだ。
阿吽の呼吸で合わせていくバンド、セットリストのないステージ、さらにはボブが一人でギターを弾きながら曲を仕上げていく様子は音楽性の豊かさを再認識させてくれる。
妻リタ・マーリーから見たボブ
またこの映画では、妻のリタ・マーリーの存在が強い印象を残す。ボブとリタ夫妻の物語と言ってもいいかもしれない。
マーシャ・グリフィス、ジュディ・モワットと共にアイ・スリーズとしてボブのバンドのコーラスも務めたリタは、自身もシンガーとして開花することを夢見ながら、ボブの妻として多くの葛藤を抱えて生きていた。
そのあたりのきれいごとでは片づけられない状況も描きつつ、彼女の言葉でボブの担った役割もきちんと説明している。
女優も好演しており、このリタ目線に共感する人もいるかもしれない。
https://www.youtube.com/watch?v=22xPZ4FZE60
私たちの中にボブ・マーリーはいる。
私たちの多くはラスタファリではないし、聖書の言葉を引用されても、心の底から理解できないところもある。でもそれはたいした問題じゃない。
ラスタカラーをまとわなくてもいい。
この映画が、一人ひとりの中にいるボブ・マーリーを形にすることで、それぞれが授かった生命をどのように生かすのか、そして社会とどう向き合うのかを問いかける機会になればよいのではないだろうか。
その上で興味があれば追々調べていけばよいのだ。なぜアフリカに行きたかったのか、父親が白人だったことの意味すること、そしてたった一度の日本公演のことも。
『ONE LOVE』には、ボブ・マーリーの代表曲がほとんど折り込まれている。
これまで親しんできたつもりだったが、和訳を確かめながら大音量で聴いた今、改めてあの曲たちと向き合いたいという気持ちになっている。
試写会で挨拶したジャマイカ大使は、対立と分裂が蔓延る時代にへ剥けた普遍的なメッセージは永遠であり、平和・連帯・正義に向けたエネルギーと表現した。
今、この生きづらい世界にとまどい、未来に不安を抱く世代にこそ響くものがあると思う。
もちろん現実を前に、ボブ・マーリーの目指したものは夢でしかないと感じる人もいるだろう。でもあきらめるのは簡単だ。少なくともボブは信じてあきらめなかった。
今から何ができるかわからないけれど、少なくともあきらめずに正しいと思う方向へ歩いて行きたい。
◆Universal Music Japan Internationalが「One Love」のミュージック・ビデオ、「Get Up, Stand Up」と「I Shot the Sheriff」の字幕が付いた3曲の動画を公開
https://www.universal-music.co.jp/bob-marley/news/2024-03-21/
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