なつかしい×あたらしい なにわブルースフェスティバル2020“配信”観戦記 その1
9月12日(土)13日(日)。なんばHatch。
今年は現地に行けなかったため、2日間を配信で楽しんだ。
なにわブルースフェスティバルは、2016年に当時の浪速区長、玉置賢司氏の発案で始まったイベントで、現在はNPO法人なにわブルージーが主催。有山じゅんじ、清水興の両氏がプロデュースを務めている。
大阪ならではのブッキングはもとより、「あたらしい×なつかしい」のキャッチコピーらしく、様々な世代が出演するのも特徴。
http://naniwabluesfestival.com/
◆1日目 (9/12)
===============================
金子マリ(森園勝敏、石井為人、KenKen) | 木村充揮 | 香西かおり | 桜川春子 | ザ・たこさん+衣美(EMILAND,ex.zukunasi) | ナオユキ | Ba-Chilli(有山じゅんじ、三代目魚武濱田成夫、清水興、高木太郎) | BIG HORNS BEE(金子隆博、河合わかば、佐々木史郎、小林太、織田浩司、石川周ノ介) | Maica_n(小田原豊、根岸孝旨、友森昭一) | 正木五朗 | リクオ 臼井ミトン with 中條卓 + 沼澤尚
◆あたらしいを、なつかしいにつなぐ
80年代生まれの臼井ミトンでライブはスタート。リズム隊はもちろん中條卓と沼澤尚だ。録音機材を担ぎアメリカのあちこちをたった一人で放浪し、ジム・ケルトナーやヘンリー・バトラーらを訪ねてアルバムを作ったという話を耳にして、そんな若者がいるんだ・・・と驚いたのはつい5年前だった。
今は貫禄さえ感じさせ、ピアノのキレも最高。ニューオーリンズやアーシーなアメリカ音楽の匂いを纏ながら、自分の歌をうたう。まさに“あたらしい”と“なつかしい”をつなぐミュージシャンだと思う。
初日は、清水興さん、正木五朗さんのぶっとい柱に加え、BIG HORNS BEE(金子隆博、河合わかば、佐々木史郎、小林太、織田浩司、石川周ノ介)、が、ハウスバンド的な立場を務める。
そのBIG HORNS BEEが居並ぶステージに、ボーイッシュな女の子がギターを抱え、躍り出る。昨年デビューしたばかりのMaica_n(マイカ)だ。19歳になったかならないかだが、父親の影響でザ・ビートルズやザ・バンドといったロックを聴いて育ったという。
R&Bフィーリングを感じるものの、ブルースやロックの影響を露わにしたシンガーではない。本人もそこまで意識はしていないだろう。でもホーンセクションの圧を背中に受け止めながら、堂々と歌い切ったし、カタチだけのブルースに飲み込まれるよりよほどよい。
合閒のインタビューで、Maica_nにBIG HORNS BEEのフラッシュ金子こと金子隆博が“くいだおれ太郎”の人形をはさんで、“みんなに愛されるブルースやファンクのようなルーツとなる音楽を受け止めて、今を生きるマイカらしい音楽を”と、話しかける場面があった(ちょっと言葉どおりではないかもしれませんが)
どこまで響いたのかはわからない。でも最若手の立場でFUJI ROCKじゃなく、この空気に触れることが、後々効いてくるんだと信じたい。
そしてこうした若い世代をブッキングする、この「なにわブルースフェス」の心意気!
◆ずるいな。くいだおれ太郎
しかしなぁ、大阪はずるいなぁ。
今回、イメージキャラ的に随所に使わているのが、くいだおれ人形。
大阪としか言いようのない人形が、大阪としか言いようのないブルース&ソウルを象徴している。
東京なら、なんだろう。東京タワーか? 雷門の提灯か?
少なくともスカイツリーではないな。タワーや提灯一つとっても、あっちは太陽の塔だし、づぼらやの提灯だもん。パンチが違う。
『ぼちぼちいこか』のジャケットで、上田正樹と有山淳司(じゅんじ)の間で、メンバーみたいな顔をして映っていたのも、このくいだおれ太郎だった。
今回のインタビューは、このくいだおれ人形をはさんで2人ずつの絵がほとんどだった。ぼちぼちいこかのコンセプトを暗に踏襲しているのだとしたら、にくいねえ。
◆芸人さんも板の上で音楽と一つに
ナオユキや桜川春子といった芸人さんを幕間にはさんで、何の違和感もないこと。これも私にとっては、大阪だ。
ナオユキさんがスポットに浮かび上がる前、あのイントロだけで歓声があがるのだから。拍手の温かさも
桜川春子さんのどぎついキャラ、でもギターかかえ歌はしっかり。これも最初見たときびっくりした。
これも東京だったら、誰になるんだろう。最近、講談師や落語家さんとのコラボもときどき見かけるけど、ここまで音楽と一本線で馴染むのはあまりないと思う。
◆シンガーソングライターじゃなくシンガー金子マリ
<Ba-Chilli>は、有山さんが90年代に加川良さん、藤井裕さん、ロジャー高橋さんと組んでいたファンキーなロック・バンド<TE-CHILI(テッチリ)>へのオマージュ。三代目魚武濱田成夫さんが身を投げ打っての熱演。清水興さんも熱を入れて歌う。唯一のオリジナル・メンバーの有山さんがとても楽しそう。
無精髭のリクオさんは、ピアノ1台で一気に空気を変える。いや、一気にというより今回はじわじわとリクオ色に染まっていく感じだったかもしれない。お客さんは皆いつしか、リクオさんの見つめる先と同じ景色に自分を重ねていく。ラストは去年から何回も泣かされてきた<オマージュ-ブルーハーツが聞こえる>。音楽が好きでよかった。
金子マリさんのセットではKenKenと正木五朗のリズム隊で、森園さんが四人囃子の<レディ・バイオレッタ>を弾く。ものすごい贅沢な空間だ。そしてマリさんの歌う<彼女の笑顔>はいつも本当にすてき。金で買えるものなん安っぽいの“安っぽい”をこれほど説得力持って歌えるシンガーはマリさんしかいない。だからこそ裏側にある彼女の価値が輝く。自分が書いた歌を自分で歌うのがシンガーソングライターなら、やっぱり金子マリは数少ない日本のシンガーだ。
一方で歌い手やギタリストだけでなく、KenKenのような若いベーシスト、あるいはドラマーもどんどんあたらしい風を吹き込んでほしいな。
同じブルースのカヴァーでも、若いエネルギーで繰り出すそれはやっぱり勢いが違うから。 渋いなと言いながら聴いてる“昔のブルース”だって、実は若い人たちが演奏したりしているのだ。
◆ 新生ザ・たこさんからトリへ
そのリズム隊が新メンバーとなったのが、ザ・たこさん。加わったのは若手というより百戦錬磨のメンバーだが、リズムが変わるとやはり新鮮。さらに今回は元ズクナシ、今EMILANDの衣美ちゃんがゲストで参加。おっかさんの貫禄が出てきた衣美ちゃんと安藤さんとのかけ合いでによる<Think>は、ブルース・ブラザーズを彷彿とさせる。
失礼ながら、安藤さんはいつも新人みたいで、不安を払拭するかのように汗だくで突っ走る。そこが鮮度の秘密か。山口さんのギターも変わらずよかった。
トリは華のある2人、木村充輝+香西かおりの両名。
BHBも加わってホーンセクションと聞く
なにわブルーズン・ソウル・ショウだ。
すごいなと思ったのは、新曲が用意されていたこと。
世界一水割りをおいしそうに飲む木村さんは、右手に水割と左手に新曲の歌詞カード(あれ、逆だったかな)でそれを歌った。この歌、生で聞きたい。来年も歌ってほしい。