日本の弾き語りブルースバラエティCountry Blues Heaven Vol.6
2023.07.22. Country Blues Heaven Vol.6
横浜Thumbs Up
気がつけば、あちこちでブルース・イベントが開催される昨今だが、意外にギター1本で勝負する人たちばかり出演する企画は少ない。
そのレアな企画の代表「Country Blues Heaven」は、東京・練馬のバー「江古田倶楽部」により2009年に第1回が開かれ、以後、2011年、2014年、2016年。そして2017年の豊橋大会を含めると、今回が6回目となる。
残念ながら「江古田倶楽部」は2021年、マスター出原義史氏の逝去により惜しまれつつ閉店してしまったが、イベントを引き継ごうと横浜サムズアップに場所を移しての開催となった。MCを務める垂水秀人さんも引き続いての登場だ。
正直に言えば「カントリー・ブルースなんてやってる人いないでしょ」なんて軽口叩いたこともあった。でもフタを開けてみれば、意外なほど皆それぞれのルーツであるブルースを素直に表現していた。反省します。
“プリミティヴなブルースの世界観やエナジーを自分に投影させた弾き語り”というのが、広い意味での日本流カントリー・ブルースなのかもしれない。そしてその代表選手を集めたのが、このContry Blues Heavenなのだ。
◆ROIKI
現在は高知市に拠点を置くROIKI。あがた森魚のサポートなども務めており、まさに知る人ぞ知る実力の持ち主。2018年にロバート・ジョンスンのナンバーを中心にしたアルバム『Bootlegger』をリリースしているが、この日も“Cross Road Blues”“Hellhound On My Trail”といったロバート・ジョンスンの曲を中心に構成。中でもエレキに持ち替えてのスライド・ギターが激しくほとばしる“Shake 'em On Down”が見事だった。
艶のあるギターといい、さりげない歌といい、ROIKIさんのプレイは、これ見よがしじゃない。ただパッションを四方八方に投げつけるのとは違う。曲はどろどろなんだけど品がある。
そんなROIKIさんは「大勢の前でやれるのがうれしい」
と会場を見渡し、しみじみ繰り返していた。
そう、この日の横浜サムズアップは満員だった。日ごろ、小さなバーで演奏することが多い面々だけに肌で感じた100名ものお客様の熱気もまた、モチベーションを十二分に引き出したにちがいない。
◆菅原広巳
ミシシッピ・ジョン・ハートのようなフィンガー・ピッキングを駆使する菅原さんは、<コケイン・ブルース><セントジェームス病院>はじめ、セカンドアルバム『Fのゴスペル』で磨きのかかった語り部として惹きつける。
“プリ・ブルース”とも呼ばれる古い伝承歌も歌う菅原さん。木訥な歌い口の中にも確かなドラマとメッセージを感じる日本語のトーキング・ブルースだ。会場全体に目配りしたトークで客席もなごむ。
◆銀次郎
フロム豊橋。現地での当イベントを企画するなど縁は深いが、東京シリーズには初参加だ。
立ち姿が絵になる。カントリー・ブルースだろうと、シカゴ・ブルースだろうと、やっぱり佇まいもかっこよくなければ。
オリジナル曲で構成されたアルバム『三日月が低くのぼる夜』と異なり、この夜は2本のギターを使い、ロバート・ジョンスン(“If I Had Possession Over Judgement Day”)はもちろん、チャーリー・パットン、ロバート・ジュニア・ロックウッドといったデルタ・ブルースの流れで攻めた。
“Baby Please Don't Go”ではハーモニカも披露。
このあたりのブルースを丁寧に聴き、追求し、自分らしく伝えたいとの姿勢が感じられるステージだった。
◆ベア・ホーク・ウルフ
タップダンス×ブルース、ボードビル的なタッピン・ブルース・スタイルで知られるベア・ホーク・ウルフ。Tボーンばりの股割りに拍手が起きる。初めて観て独特な匂いと、アクションに驚いた人もいたようだ。
以前から讃岐うどん、ブラック企業、浅田真央と独特の題材を歌ってきたが、最近は大阪のキャバレーで出会った女性が十八番。他にも「川の流れのように」「サニー・サイド・オブ・ザ・ストリート」をカヴァーしたり、より大衆エンタテイメンとの様相を示している。まもなく予定されている新作は、バンド編成とのことで、さてどんな内容なのだろう。
◆なにわのてつ
なぎらけんいち、大塚まさじらのサポート・ギタリストとしても信頼の厚いのが、“なにわのてつ”こと藤縄てつやさん。軽妙なトークとギター・テクを惜しみなく盛り込んだ、楽しいパフォーマンスはこの日も絶好調。隠れ男前な歌声とともに、客席にも和やかな笑いが拡がっていく。
軽口と裏腹に?その世界は深く、リゾネイター・ギターのボディを叩きながらのワイルドなブルースから、確かライ・クーダーやレオン・レッドボーンもやってた“Big Bad Bill is Sweet William”や笠置シヅ子まで、彼ならではの目利きによるセンスが光る。
弱気を悟られないよう(?)「あと2曲です」「次の曲はオリジナルです」と言わないようにしていると笑わせたが、この日の“あと2曲”は、軽快な<僕は特急の機関士で>、そして最新アルバムのタイトル曲でもあるオリジナル<大器晩成>へ。
ーーいつか時代はオレのもの
ギターと夢を背負ってライヴを後にする背中が見えるような歌に「泣けるね」とほろりときたミュージシャンの声が聞こえた。
◆W.C.カラス
ここのところロック・バンドWild Chillunのメークに派手な衣装のカラスというイメージが強かったが、やはり自分のグルーヴで歌うカラスは格別だった。
スーパーマーケットを舞台にしたスキップ・ジェイムス風<S.M.ブルース>からスタート。続いて<上り坂ブルース>。決して顔をゆがめたりせず飄々とスライド・バーを滑らす。
一番影響を受けたのは、富山で観たジョン・リー・フッカーだという。ブルースがどうこうではなく、ジョン・リーのカリスマ性に憧れてここまでやってきたのだと改めて自分の姿勢を言葉に。
指一本でくいっとお客さんを夢中にさせたジョン・リーよろしくワンコード・ブギ<軍手の煮びたし>で、次々にお客さんが立ち上がる。ブルース・ライヴだからといって媚びずに
自分のスタイルを貫いたところがよかった。
ここでおしまいかと思いきやMCの垂水さんのリクエストで<うどん屋で泣いた>を。
「楽しかった!」との声が聞こえる。ブルースに詳しくない人たちも楽しんだようだった。
◆コージー大内
さてトリを務めるのは、2022年に日比谷野音で行われたブルース・カーニバルで男をあげたコージー。あれからお客さんも増えたと聞いた。
どろどろのブルース・トーンと、ゆるいトーク。「ふぅうう~」と深いため息をつくだけで、空気を変えてしまう人はなかなかいない。
酔っているのか素面なのか分からないマイペースっぷり。
「みんなが幸せの青い鳥にしか見えんね」
と客席を見渡し、「ん~、くっくくっく~ くっくくっく~」と、ダークなブルースに乗せ青い小鳥ちゃんへの愛を歌うもんだから、皆、思わず笑ってしまう。それでいて<大鶴村のサイレン>で、ほろりとさせることも忘れない。
コージーの中にある経験が、惚れ抜いて血肉になったライトニン・ホプキンス調のギターとばっちり共鳴している。何を歌ってもブルース、ってコージーのことを言うんだろうな。
コージー大内のでっかさを再確認した。
コージーの元にウォッシュボードを抱えたなにわのてつ、そしてタップダンサーとしてベアホークウルフが加わる。
アンコールは、垂水さん、江古田倶楽部とは縁の深いENZOさんのハーモニカも加わり、全員参加で“Mojo Workin’”。といってもそこはコージーがリードする替え歌だ。予定調和なんて言わせない、なれ合いじゃないユーモラスなブルース破壊が痛快だ。
◆“なんとない”弾き語りと“強い”弾き語り
江古田倶楽部とは縁のない横浜での開催ということで、老婆心ながら心配もしたけれど、終わってみれば出演者もお客さんも、みんないい顔で帰路についた。
弾き語りにも、なんとなはなしの雰囲気もの、ストレスを発散しているようなもの、揺るぎない強さをもつものといろいろある。
この日、集まった7人はまさに強かった。
ブルースの何かに魂をつかまれ、歌い始め、格闘した痕跡が見えた。
変わりダネという見方もできるが、おそらくロバート・ジョンスンやチャーリー・パットン、あるいは映像で観たライトニン・ホプキンスの暮らしたようなあちこちのコミュニティにもいろんな変わりダネがいただろう。
人と違うことをやりたい。自分をアピールしたい。自分だけの演奏で楽しませたい。理由はどうあれ、人の数だけブルースはあった。
常識でははかれない、その色とりどりの個性。そこがCountry Blues Heavenの楽しさ、そしてブルースの面白さなんだと、すごく納得できた夜だった。
そう、江古田倶楽部のマスターが求めていた音楽も、きっとそういうことだったんだろうな。
※撮影・文 妹尾みえ