【政党解説2024】旧「NHKから国民を守る党」ってどんな政党?
「NHKをぶっ壊す!」という台詞で話題になった、旧「NHKから国民を守る党」(以下:N国党)をご存知ですか?今回は、そのような旧・N国党について解説します。
基本情報
旧・N国党は、2023年から執筆時点の2024年2月に至るまで、斎藤健一郎氏・立花孝志氏と大津綾香氏の間で代表権限をめぐる争いが続いています。現在は、斎藤氏が代表、立花氏が党首を務める「NHK党」と、大津氏が代表を務める「みんなでつくる党」の2つの政治団体に分かれて活動しています。
NHK党
NHK党の基本情報を、以下の表に整理しました。[1][2]
みんなでつくる党
みんなでつくる党の基本情報を、以下の表に整理しました。[1][2]
*衆議院、参議院の会派名は「NHKから国民を守る党」です。
政党の変遷
旧・N国党は、2013年6月に、元NHK職員の立花孝志氏によって「NHK受信料不払い党」という政治団体として結成されました。当初は「NHKのスクランブル放送(※1)の実現」という論点のみを掲げていましたが、2024年現在は外交、経済政策などにも活動分野を広げています。[3]
下図のように、旧・N国党は頻繁に党名変更を行っており、この狙いについて立花氏は「NHKのやっていることを一人でも多くの国民に考えていただけるのではないかという意味で、途中失敗して良かったのではないかと考えている。」と記者会見で述べました。[4]この後も、2023年3月にガーシー氏が参議院を除名されたことで立花氏が引責辞任し、「政治家女子48党」に党名が変更されました。[5]その後、立花氏と大津氏の間で人事や資金運用をめぐって代表権争いが起こり、2023年4月7日に立花氏は大津氏の除名を決定しました。[6]しかし、大津氏は除名・党首解任に応じず2023年11月に「みんなでつくる党」と党名を変更し、変更は結党以来9回にも及んでいます。[7]
「みんなでつくる党」には斎藤健一郎氏、浜田聡氏の2名の参議院議員が所属していましたが、政党交付金申請のための書類を提出しなかったことから2024年1月18日付で2名は除名され、政党要件を失っています。[8]
(※1)スクランブル放送…放送を暗号化し、契約者だけが見られるようにする方式。
政党の主義主張
次に、政党の主義主張について紹介します。旧・N国党は前述したように、「NHK党」と「みんなでつくる党」の2つの政治団体に分裂し、別個の主義主張を掲げています。
NHK党
NHK党は、公共放送であるNHKの改革と自由の保護・拡大を掲げていて、以下の4点を「基本政策」として挙げています。[12]
NHKのスクランブル放送の実現
税率引下げと特別国債発行でインフレ2%へ
交渉・防衛力の強化 敵基地攻撃能力の保有
安全かつ安定的なエネルギーの確保
みんなでつくる党
一方で、「みんなでつくる党」は、「基本方針」として以下の5点を掲げています。[13]
政治の透明化により、国民の信頼を回復
税制の見直しで、国民生活の支援と経済の活性化
誰もが人としての権利を尊重される社会の実現
社会保障制度の見直しで、次世代にツケを残さない
若者が参加したくなる政治づくり
いずれも、公正な政治と国民の経済的負担の軽減を重視していることが読み取れます。一方で違いとしては、「NHK党」は政治・経済のムダをなくすことや外交における自立を重視しているのに対して、「みんなでつくる党」は社会保障制度をより重視していることがあると考えられます。
特徴的な政策
続いて、特徴的な政策を紹介します。
NHK党
「NHK党」は重要な政策分野として、以下の13点を掲げています。[14]
NHK党の功績の周知とNHKスクランブル放送の実現
・受信料不払いコールセンターの設置など、党の業績を周知・継続
・NHKの受信料制度を廃止、スクランブル放送へ改める北朝鮮による日本人拉致問題
・ブルーリボンバッジの普及などの周知活動
・北朝鮮当局と密接な関係を持つ団体への厳正な対応を求める
3.新型コロナ等感染症対策
・感染拡大に注意を払ったうえで、外国からの観光客受け入れを拡大
・感染症対策の司令塔組織の設立を提案する
・予防接種行政透明化のための委員会を設立
・看護師により幅広い医療行為をする資格を与える制度を提案
4.税率引き下げ等の経済政策
・消費税をはじめとした税率の引き下げを優先的に求める
・政府支出の削減を求める
・児童手当や補助金が必要な際は、所得制限をかけないよう求める
5.電波周波数問題
・予算の増大と事業者・政府の癒着解消のため、電波オークション(※2)
を提案
6.規制緩和
・国民の経済活動の自由化を提案
・重大な影響を及ぼす可能性がある法律については、影響を定量的に
見積もる制度を提案
7.外交・安全保障
・防衛費をGDP(国内総生産)の約2%に引き上げ
・国民と財産を守るために必要な程度の戦力の保有に関する法整備を求める
・対外情報機関の創設に関する議論の準備を進める
・核共有・核武装の議論を積極的に進める
8.原発・エネルギー
・安定的なエネルギー供給のため、多様なエネルギー源を採用
・特に原子力発電の再稼働の検討を求める
・日本における石炭火力発電の技術力を周知し、温室効果ガスの
抑制につなげる
・太陽光発電の急増による諸問題(土砂災害、景観の損失、
廃棄パネルの増加など) の解決策を模索
9.子育て支援・教育
・児童手当の所得制限撤廃を求める
・国立大学の運営交付金や研究への助成金の拡大を求め、
国内の研究環境を向上し、優秀な研究者の海外流出を防ぐ
10.年金・社会保障
・生活保護受給が困難な方々の相談体制の整備を党として進める
・医療費の自己負担額や年金受給開始年齢を引き上げ、持続可能な
社会を目指す
・ベーシックインカム(※3)は実現が困難であることを考慮し、行政改革のために導入の議論に加わる
11.憲法
・憲法改正に関する議論を積極的に促し、国民の政治参加の機会を生み出す
・野党による国会召集の要求が認められない問題の解決のための
法改正を提案
・国会の会期(現行法では150日間)を、通年にするための議論を提案
12.国民の積極的な政治参加
・若者の政治参加を促すために、選挙に立候補できる年齢の引き下げを提案
・党独自に、国会の調査室や法制局を利用したり、意見を伝えたりすること ができる制度を整備する
13.ジェンダー・多様性
・同性婚法制化については、憲法改正も視野に入れつつ国会での議論を
求める
・選択的夫婦別姓制度の導入について、前段階として例外的に結婚後も別姓とすることを認めることなども検討するように提案する
この中でも特徴的なものは、通信に関する政策です。「NHK党の功績の周知とNHKスクランブル放送の実現」では、2019年に国政政党となって以来NHKを見ないから受信料を支払いたくない方々向けの制度を整えたこと、またNHK集金人の訪問行為の見直しを促進できたことを挙げ、最終的には不合理な受信料制度を改めスクランブル放送(放送電波を暗号化して、受信料を払う世帯のみ解読して視聴できるようにする放送形式)を実現すると述べています。[15]また、テレビや携帯電話などの通信に使われる電波周波数の許認可制を見直し、電波オークションの導入によって予算の確保と政府と事業者間の癒着解消を図るとしています。[16]
(※2) 電波オークション…通信や放送に利用される電波を周波数ごとに、
オークション(競売)で最も良い購入条件を提示した事業者へ割り当てる
方法。
(※3)ベーシックインカム…全ての国民に一定の金額を無条件で支給する制度。
みんなでつくる党
一方で、「みんなでつくる党」は以下の5点を掲げています。[17]
かつてのNHK集金人問題に象徴される「詐欺的行為や脅迫・強要等の撲滅」
放送法を根拠としたNHKに象徴される「特殊法人制度の改革」
公共放送を独占するNHKに象徴される「公共サービスの改革」
NHK視聴料負担に苦しむ若者や高齢世帯に象徴される「公共料金・税負担の軽減」
かつてのNHK集金人問題の被害者に象徴される「社会的弱者の地位向上」
NHK問題の解決を政策課題とするシングルイシュー政党としての原点を重視しながら、問題の本質を深く掘り下げ、解決に向けて様々な団体・有識者や実務家等との連携を図りながら実現すると述べています。[18]このように、NHKの受信料をめぐる強引な集金、低所得層の経済的負担といった問題の解決から、国全体の政治・経済制度の改革につなげることを目指していることが分かります。
他の政党との関係性
旧・N国党と他党との関係性を考えるうえで大きな動きとしては、2023年3月のガーシー氏の参議院からの除名が挙げられます。
国会には「懲罰」という制度があり、憲法58条によって衆参両院が院内の秩序を乱した議員に対して、重い順に①除名(議員の身分を失う)、②一定期間の登院停止、③陳謝、④戒告の懲罰を科すことができると定められています。[19]ガーシー氏は2022年7月に当選して以降、一度も国会に出席せず、陳謝にも応じなかったことから、参議院本会議で除名され、議員の資格を失いました。[20]
出席した議員236名のうち235名の圧倒的多数の賛成によって可決されており、他党は概ねこの決定を支持しています。例えば自民党の世耕参議院幹事長は「懲罰に至り大変遺憾」、立憲民主党の田名部参議院幹事長、日本維新の会の藤田幹事長、共産党の穀田国会対策委員長は「当然である」と述べました。[21]一方でNHK党からは反発の声があり、大津氏は「必要な議員だった」、浜田氏は「一方的な報道で世論が形成された」とそれぞれ述べています。[22]
このことから、旧・N国党は他党とは距離を置き、独自の路線をとっていると考えられます。
強い支持層
最後に、NHK党とみんなでつくる党の支持層について見ていきます。
NHK党
NHK党は、40代以下、特に10代〜20代の若者の支持が強い傾向にあります。例えば2021年に行われた衆議院議員選挙の比例代表選挙で投票した有権者の割合のうち、最も多かったのは北海道の18・19歳で約4.5%、2番目は東京の20代で約3%でした。[23]
また、NHK党は若者、特に男子高校生の間で人気があると指摘されています。例えば、マーケティングアナリストの原田曜平氏は高校生へのインタビューを取り上げ、人気の背景としてYouTubeなどのエンターティンメントの要素が充実していて「面白い」と受け取られていること、また政策も分かりやすいことがあると述べています。[24]
このように、SNSを積極的に活用して親しみを持たせていること、また政治についてあまり詳しくない人にも分かりやすい政策を掲げていることから、NHK党は若者の支持が強いことが分かります。
みんなでつくる党
一方で、みんなでつくる党の支持率は、2023年12月に行われたNHK世論調査では0.1%でした。[25]
みんなでつくる党は主に現役世代に向けて、旧・N国党時代の反省も生かした戦略を考えています。例えば大津氏は選挙ドットコムのインタビューで選挙に向けた戦略について尋ねられた際、頻繁な名前の変更などで支持が離れたことを反省しながらも、できることを行っていき、NHKを改善するための議論を真剣に行う必要があると述べています。[26]
主なターゲット層は現役世代で、「次の世代や現役世代に何を残したいか、残したくないか」と言う論点を掲げ、社会保障や税制改正を積極的に主張したいと考えているそうです。[27]また大津氏は、2022年の参議院選挙で28万票以上を集めたガーシー氏に代わるアイコンとして、自身で選挙制度や体験を説明し、若者や今の政治に不満がある有権者にアプローチしたいと考えていると述べています。[28]
このように、みんなでつくる党は地道な選挙活動を行い、若者や現役世代を中心に支持を広げようとしていると考えられます。
まとめ
いかがでしたか。
旧・N国党は党名をはじめ、体制の変化がしばしばみられたことが伺えます。また、NHK受信料問題をシングルイシューとして扱う政治団体として結成されたこともあり、放送・通信の改革に積極的であることも特徴的です。
今後も旧・N国党の動向をぜひ注視していきましょう!
参考文献・リンク
[1]衆議院.会派名及び会派別所属議員数.2024年2月1日掲載.
https://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_annai.nsf/html/statics/shiryo/kaiha_m.htm
[2]参議院.会派名及び会派別所属議員数.2024年2月14日掲載.
https://www.sangiin.go.jp/japanese/joho1/kousei/giin/211/giinsu.htm
[3]NHK党.綱領.
https://www.syoha.jp/%E7%B6%B1%E9%A0%98/
[4]産経新聞.NHK党、5回党名変更で衆院選へ.2021年8月30日掲載.
https://www.sankei.com/article/20210830-IKAAUF6GZJLGLNX2JS52FL2XSE/
[5]NHK.NHK党 立花党首が辞任以降表明 ”ガーシー議員陳謝応じず引責” .2023年3月8日掲載.
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20230308/k10014002441000.html
[6]時事ドットコムニュース.政女党、立花氏が「党首就任」大津氏を除名、主張食い違い.2023年4月7日掲載.
https://www.jiji.com/jc/article?k=2023040700867&g=pol
[7]産経新聞.政女党から「みんなでつくる党」 党名変更9回目 大津氏「もう変えない」〝炎上政党”脱却アピール.2023年11月6日掲載.
https://www.sankei.com/article/20231106-FPICXCSGUVGXDB54CGSZZKDIUU/
[8]讀賣新聞オンライン.みんなでつくる党、国会議員ゼロになり政党要件失う…2人の議員を除名.2024年1月19日掲載.
https://www.yomiuri.co.jp/politics/20240119-OYT1T50180/
[9]産経新聞.NHK党、5回党名変更で衆院選へ.2021年8月30日掲載.
https://www.sankei.com/article/20210830-IKAAUF6GZJLGLNX2
[10]讀賣新聞オンライン「NHK受信料を支払わない国民を守る党」に党名変更…略称は「NHK党」のまま
https://www.yomiuri.co.jp/politics/20220121-OYT1T50251/
[11] NHK政治マガジン.N党「NHK党」に党名を変更.2022年4月25日
https://www.nhk.or.jp/politics/articles/lastweek/81657.html
[12]NHK党.綱領.
https://www.syoha.jp/%E7%B6%B1%E9%A0%98/
[13]みんなでつくる党.基本方針.
https://www.mintsuku.org/
[14]NHK党.公約. https://www.syoha.jp/%E5%85%AC%E7%B4%84/
[15]NHK党.NHK党の公約について.NHK党の功績の周知とNHKスクランブル放送の実現
https://www.syoha.jp/%E5%85%AC%E7%B4%84/nhk%E5%85%9A%E3%81%AE%E5%8A%9F%E7%B8%BE%E3%81%AE%E5%91%A8%E7%9F%A5%E3%81%A8nhk%E3%82%B9%E3%82%AF%E3%83%A9%E3%83%B3%E3%83%96%E3%83%AB%E6%94%BE%E9%80%81%E3%81%AE%E5%AE%9F%E7%8F%BE/
[16]NHK党.公約.電波周波数問題.
https://www.syoha.jp/%E5%85%AC%E7%B4%84/%E9%9B%BB%E6%B3%A2%E5%91%A8%E6%B3%A2%E6%95%B0%E5%95%8F%E9%A1%8C/
[17]みんなでつくる党.綱領・政策.基本政策.
https://www.mintsuku.org/declaration/
[18]みんなでつくる党.綱領・政策.基本政策.
https://www.mintsuku.org/declaration/
[19]西日本新聞me.ワードBOX.議員に対する懲罰.2006年3月2日掲載.
https://www.nishinippon.co.jp/wordbox/4425/
[20]NHK政治マガジン. ガーシー議員「除名」2000万円超支給 前議員バッジ交付されず.2023年3月15日掲載.
https://www.nhk.or.jp/politics/articles/statement/96904.html
[21]NHK政治マガジン. ガーシー議員「除名」2000万円超支給 前議員バッジ交付されず.2023年3月15日掲載.
https://www.nhk.or.jp/politics/articles/statement/96904.html
[22]NHK政治マガジン. ガーシー議員「除名」2000万円超支給 前議員バッジ交付されず.2023年3月15日掲載.
https://www.nhk.or.jp/politics/articles/statement/96904.html
[23]TBS NEWS DIG.「10代と20代は圧倒的に自民党?!」「れいわを一番支持するのは東京の40代?」〜データから見えてくる選挙の意外なリアル、投票する前にちょっとのぞいてみませんか?〜. 2022年7月7日掲載.
https://newsdig.tbs.co.jp/articles/-/88854?page=3
[24]PRESIDENT Online.男子高校生が「N国党」を圧倒的に支持するワケ「政策も理論武装されていると思う」. 2019年12月12日掲載.
https://president.jp/articles/-/31386?page=1
[25]NHK.各党支持率 自民急落 政権復帰後初めて30%下回る NHK世論調査.2023年12月11日掲載.
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20231211/k10014284771000.html
[26]選挙ドットコム.「きっかけをくれたガーシーに『ありがとう』」みんなでつくる党大津綾香党首が語る今後の展望!選挙ドットコムちゃんねるまとめ.2023年11月24日掲載.
https://go2senkyo.com/articles/2023/11/24/89232.html
[27]選挙ドットコム.「きっかけをくれたガーシーに『ありがとう』」みんなでつくる党大津綾香党首が語る今後の展望!選挙ドットコムちゃんねるまとめ.2023年11月24日掲載.
https://go2senkyo.com/articles/2023/11/24/89232.html
[28]選挙ドットコム.「きっかけをくれたガーシーに『ありがとう』」みんなでつくる党大津綾香党首が語る今後の展望!選挙ドットコムちゃんねるまとめ.2023年11月24日掲載.
https://go2senkyo.com/articles/2023/11/24/89232.html