【2021衆院選】過去10年の予算からみる政府の方針(前編)
1.概要
予算や決算を見ることで国のお金の使い方などを見ることができます。そこで本記事では過去10年の予算・決算を振り返りながら政府のお金の使い方を分析していきたいと思います。
2.予算の仕組み
2019年の予算成立までの流れをまとめました(i)。
①今年の予算をどこに重点を置いてつくるか等、政府が大まかな方針を決めます。
②各省庁に、「あなたの省庁は上限いくらまでなら予算を使っていいですよ」ということが知らされます。
③各省庁が予算を決め、財務省に提出します。
④財務省が審議した予算をもとに、政府案が閣議決定されます。
➄政府案が国会で審議され、成立します。
⑥当初予算の成立後、予算が不足すると考えられた場合には、補正予算という形で補います。
3.予算の変遷
まずは過去10年の予算の内訳を振り返ってみましょう。
ちなみに予算には一般会計と特別会計の2種類があります。
記事中の予算データは、「(一般会計+特別会計−重複額)で求められる純計金額」を使用しました。また、借換国債を控除する前の金額です。なお、記事内のグラフは全て100万単位での金額表記です。
※特定の歳入と特定の歳出を一般会計と区分して経理することにより、特定の事業や資金運用の状況を明確化することを目的として、一般会計の他に特別会計を設置しています。しかし会計のわかりやすさなどの観点から、行政改革の一環として特別会計は廃止・統合の流れにあります。
それぞれの予算規模以下の通りです。会計間でのやりとりが存在するため多くの重複部分が存在します。
過去10年間(2012年度から2021年度)の予算の変化をグラフにしました。全体の金額と内訳を確認することができます。予算全体の金額は若干の推移はありつつ、大きな変化はありません。項目別に見ていくと、国債費が半分以上の割合を占めていることがわかります。続いて社会保障関係費、地方交付税交付金、その他の事項関係費、公共事業関係費の順となっています。
例年予算規模に変動はなかったですが、2021年度予算は前年から100兆円増加しています。これは主に国債費の増加に起因しています。(国債費が50兆ほど増加)
なお、本記事で歳出予算を解説するにあたり主要経費別分類という分類を用いました。主要経費別分類とは政府の施策に着目した分類です。国債費や社会保障関係費、文教及び科学振興費など17項目に大別されます。
歳出予算の分類には主要経費別の他、目的別分類と性質別分類があります。
目的別分類は、主要経費別分類と似た分類方法です。明治初期から同じ基準で分類しているため、長期的な分類が可能です。使途別分類は、経済的性質による分類です。人件費や旅費、物件費など7つがあります(i)
4.セグメント
ここでは主要項目について詳しく分析していきましょう。
a. 国債費
まずは国債費からです。国債費とは、国の借金とその利子を返すためのお金のことです(ii)。
現状、国が1年に使うお金は、税収とその他収入だけで賄うことはできていません。そこで、不足分を公債(国が発行する国債という債券と、地方公共団体が発行する地方債という債券を指す)を発行することで補います。公債は毎年発行されており、したがって、その元本と利子を返すためのお金(=国債費)も毎年の予算に計上されています。
正確には、国債費は「債務償還費・利子及割引料・国債事務取扱費」から構成(iii)(iv)されています。それぞれの定義は下記の通りです(v)。
・債務償還費(公債等償還/借入金償還):借金(国債)の元本返済にあてられる費用。
・利子及割引料(公債利子等/借入金利子/財務省証券利子):国債(借金)の利子の支払いにあてられる費用。
・国債事務取扱費:公債の発行及び償還に関する事務取扱いに必要な事務費(vi)。
2020年度まではやや減少傾向にあったものの、2021年度は大幅に増加しています。これは2020年度、新型コロナウイルスへの対応のために、短期国債を増発し、その償還の時期を迎えるためです。(vii)
b.社会保障関係費
続いて、社会保障関係費について見ていきましょう。
社会保障とは、” 私たちが安心して生活していくために必要な「医療」、「年金」、「福祉」、「介護」、「生活保護」などの公的サービス(3)”を指します.
現在の社会保障関係費の内訳は以下の通りです。
・年金給付費:厚生年金、国民年金、福祉年金といった公的年金制度にまつわる費用。
・医療給付費:国民皆保険制度に基づく医療保険の適用にまつわる費用。
・介護給付費:介護保険制度に基づく要介護者が種々のサービスを受けるための費用(viii)。
・少子化対策費:少子化対策基本法に基づく、子どもを産み育てやすい環境をつくるための費用(ix)。
・生活扶助等社会福祉費:憲法25条(生存権の保護)に基づき生活困窮者を保護するための費用(x)。
・このほか、保健衛生対策費、雇用労災対策費。
※2015年以前は上記とは異なる内訳が定義されていました。変わった背景には、社会保障改革推進法に基づく社会保障・税一体改革があります。財源である消費税が、社会保障4経費(年金、医療、介護、少子化対策)それぞれにどれだけ使われるかを明確にするため、現在の内訳となりました。統計を見る際は、定義の変化にお気をつけください(xi)。
2021年の内訳では以下の図のように年金給付費が半分以上を占め、医療給付費がそれに続きます。
それでは社会保障関係費の変遷をみていきましょう。グラフから、この10年間増え続けていることがわかります。その背景には何が起こっているのでしょうか?
社会保障関係費は自然増が見込まれる予算です。自然増は、⾼齢化とその他要因(医療の⾼度化による増加分等)の2つによって起こります。現在の推計では、毎年6,000億円ほどの自然増が見込まれていますが、政府はこれを歳出改革努力によって抑えようとしています。その歳出改革努力は、社会保障関係費の実質的な伸びを「高齢化による増加分(平成 31 年度+4,800 億円程度)におさめる」という⽅針のもと行われています。
…と、長くなってきましたので、前編はここまで。
後編では、地方交付税交付金、公共事業関係費、文教および科学振興費、防衛関係費、予備費、上記以外の項目、歳入、財政の諸問題について扱います。
後編はこちら
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参考文献(i)財務省ウェブサイト 用語の解説
(ii)国税庁ウェブサイト 税の学習コーナー 発展編 [国の財政] 財政のしくみと役割
(iii)財務省 平成31年度予算のポイント PDF版
(iv)財務省 日本の財政関係資料(平成30年10月)我が国財政の現状 PDF版
(v)財務省ウェブサイト 平成31年度財務省所管予算概算が決まりました
2018年12月21日掲載
(vi)財務省ウェブサイト 日本の財政を考える>用語集
(vii)2021年度予算案 一般会計の総額が過去最大に おさえておきたい数字をチェック|NHK(viii)厚労省PDF 我が国社会保障制度の構成と概況 PDF版
(ix)内閣府ウェブサイト 第1部 少子化対策の現状(第2章 第1節)
(x)金融広報中央委員会「知るぽると」Ⅲ.公的扶助等