【橋本聖子氏】【ジェンダー】組織委員会新会長 橋本聖子氏ってどんな人?
はじめに
今回のnote記事はTwitterアンケート企画第二弾!ジェンダーに関連して、東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会新会長の橋本聖子氏について紹介していきます。
第一弾の森前会長発言についてはこちらのnote記事をご覧ください。森前会長の人となりから、女性に対する偏見に基づいた問題発言について分析しています。
森喜朗東京オリンピック・パラリンピック組織委員会前会長の辞任を受け、2021年2月18日に橋本聖子新会長が理事会によって選ばれました。
このnote記事では橋本聖子氏について過去の記者会見等での発言を参考にしながらオリ・パラ関連、特にジェンダーに対する考え方に焦点をあてまとめ、橋本聖子氏就任後の組織委員会について紹介しています。
橋本聖子氏の経歴
スポーツ選手として夏季・冬季あわせオリンピックに計7回出場、また政治家として5期25年に及ぶ参議院議員歴があることが分かりました。
(用語出典 2010/9/22 自民党HP>ニュース 自民党のシャドウ・キャビネットが動き出しました。)
組織委員会会長として
森前会長の例の発言がジェンダー平等を訴えるオリンピック・パラリンピックの理念に反しているとされ、世論の批判を浴びて会長を辞任したことも考慮され、新会長の選考委員会では以下のような選考基準が適用されました。ここではその各基準を橋本氏の言動に照らし合わせ、検討します。
1. オリンピック・パラリンピック、スポーツへの造詣の深さ
上記の経歴からわかるように、橋本氏はスポーツ選手として複数回のオリンピック出場経験があることから、この項目を満たす十分な素地を持つことが分かります。これに加えて、
オリンピック・パラリンピック、そして様々なスポーツの主役はアスリートです。アスリートを支える方がいて、そういう舞台を作り上げる方がいます。私は教育、文化、芸術、環境問題、観光など様々な分野や産業を、スポーツの力で結びつけることができると考えていて、そこにはスポーツにしかない価値があると思います。自分も選手を経験し、選手を支えてきた側として、アスリートの存在は産業だけではなく、人々の心を支えることにおいて、ものすごい力を持っていると思います。
(2021/2/18 組織委員会 インタビュー 太字筆者)
と述べていることから、選手としての経験をその運営に役立てることを意識しており、またその考え方がオリンピック憲章に記載されるオリンピズムの根本原則1条,4条 (10頁参照) に一致しています。
2. ジェンダー・イコーリティー、ダイバーシティ、インクルージョンなどオリンピック憲章や東京大会の理念を実現し、それを将来にレガシーとしてつなげていくことができる人
上記経歴にあるとおり、自民党の野党時代に設けられたシャドウキャビネットにおいてスポーツに関わる大臣役職を想定され、東京大会開催決定前からその理念について触れる機会を持っていたと推測されます。2019年に大会担当大臣に任命されると、記者会見でオリンピック憲章や大会理念に対する理解を示す発言をしていたことが確認できます。
私はこのオリンピック、そしてパラリンピックというもののすばらしさというのは、誰もがバリアフリーの世界を築いていくということが夢なんだというふうに思うんです。
(2019/9/12 大会担当就任記者会見 太字筆者)
「誰もがバリアフリー」というは発言に加え、心のバリアフリーにも就任会見や決算委員会で言及しており、オリンピズムの根本原則6条 (11頁参照) を尊重する姿勢がうかがえ、これがジェンダー平等に対しての基本的な考え方を形成していると考えられます。
今回のロンドン・オリンピックというのは、女性というものを更に魅力ある、そしてスポーツの良さを引き出していくために、女性の生き方という観点からスポーツをとらえていたテーマというものが非常に良かった
(2012/8/26 文教科学委員会 太字筆者)
(ソチ大会を受けて) 特にこれからは、そういう女性特有の問題ですとか、女性特有の直面する課題というのがたくさんあるものですから、アスリートの支援と同時に、これからは女性コーチの支援、これをしっかりとやっていく必要があるのだろうと思います。
(2014/3/13 文教科学委員会 太字,括弧内筆者)
実際に自らが女性アスリートであった経験から、女性の競技シーンにおける困難に熟知しており、ジェンダーフリーがテーマの一つであったロンドン大会について上述のような発言も見られました。ただし、あくまでこれらが大会に関する質問の一部に過ぎなかったことには注意が必要で、ジェンダー平等を第一に主張する姿勢とは異なるものと言えます。
このような公式会見の記録がある一方で、ジェンダー平等に関して、2014年の男子フィギュアスケート選手に対する言動がセクハラとして問題視され取りざたされることが散見されます。この件はその後謝罪の談話が発表され、相手選手も「セクハラ、パワハラとは思っていない」とコメントしたことなどから、公式に処罰の対象にはなりませんでした。
また、東京大会の基本コンセプトの一つでもある、大会をレガシーとして未来に継承するという点においても言及があります。
東京都、そして組織委員会、そしてそれぞれ開催を受け入れていただいた開催地、地方自治体、そういったことと、あとはホストタウンですとか、そこも含めて、いかにそれぞれの持つ能力というもの、そしてその思いというものを結集させて、そしてそれを最終的にレガシーに持っていくことができるかということが重要だというふうに思います。
(2019/9/12 大会担当就任記者会見 太字筆者)
持続可能な大会を開催するために東京モデルとしてのレガシーとなるようにしっかり提言したい。
(2021/2/18 組織委員会会長就任記者会見 太字筆者)
(3)国際的な活動の経験があり、国際的な知名度や国際感覚があること
上記経歴からわかるとおり、20代から国際大会を多く経験し結果を残しています。また2008年から2009年にかけ麻生内閣で外務副大臣を務め、世界各国の大使らと会談を行ったり、外遊を行ったりしています。
(4)東京大会のこれまでの経緯や準備状況について理解していること
橋本氏は東京大会の招致活動に2005年から携わり、また2009年にJOC理事に就任し2019年に大会担当大臣に就任したことにより同副会長を辞任するまでの間、その運営に携わってきました。また繰り返し述べている通り、組織委員会会長に就任するまで大会担当大臣を務めていました。
(5)組織運営能力や多様な関係者の調和を図る調整力を備えていること
組織委員会の会長は大会の運営を行う中心的な存在であることから、ここでいう調整力とは、オリンピック・ムーブメントを主導するIOCやJOC、国際競技連盟、また開催地の各行政主体それぞれと対等に連携をとることであると考えられます。
橋本氏が務めていた政府の大会担当大臣という立場は、オリンピック・パラリンピックに関わる各省庁の施策などの調整を行う役職であると言われています。調整力という点では組織委員会の会長に、より国際的な感覚が求められ、ここに先述した選考基準(3)が関わってくることになります。
以上から選考委員会は、東京大会に対し深い理解があること、国際的な経験をあわせ持つことという前提を踏まえたうえで、問題になったジェンダー平等について、女性としての視点を持つことを評価したものと考えられます。
橋本氏就任後の組織委員会
最後に橋本氏就任後の組織委員会がどのように変わったのかについて紹介します。
先述したとおり、森前会長の例の発言がジェンダー平等の観点から問題視され批判されたことを受け、ジェンダー平等に対する取り組みが二つ実施されました。
一つ目は組織委員会理事に占める女性割合の20%から42%への引き上げです。森前会長の例の発言でも言及されているとおり、政府の発表するスポーツ団体向けのガバナンスコードでは以下のように目標が設定されています。
(1) 組織の役員1及び評議員の構成等における多様性の確保を図ること
① 外部理事の目標割合(25%以上)及び女性理事の目標割合(40%以上)を設定するとともに,その達成に向けた具体的な方策を講じること
求められる理由
理事による権限の行使及び監督が適切に行われるためには,様々な知識・経験を有する多様な人材によって組織が構成されることが重要である。
(中略)
女性競技者の増加等を通じた競技の更なる普及発展や,スポーツを通じた女性の社会参画・活躍を促進する観点から,女性理事の目標割合の設定及びその達成に向けた具体的な方策を講じることにより,女性の視点や考え方をより積極的に取り入れていくことが求められる。
(スポーツ庁 スポーツ団体ガバナンスコード<中央競技団体向け> 原則2 15頁参照 中略,太字筆者)
早急に組織委員会の風土を改善する必要性から、上述のガバナンスコードなどが参照され、定款の改定により理事に占める女性比率が40%以上に引き上げられました。
二つ目はジェンダー平等推進チームの立ち上げです。アーティスティックスイミング (旧シンクロナイズドスイミング) の代表としてソウル五輪などに出場した小谷実可子氏をヘッドとし、組織委員会でジェンダー平等について専門に取り組む部署を設置しました。
(1)これまでやってきたこと、これからやることを、しっかり「見える化」してもらい、発信いただきます。
(2)それから、ステークホルダーを巻き込んだ、ムーブメントを起こしていきます。
(3)そして、政府・東京都とも連携しながら、レガシーに繋げるべく、活動を進めます。
(2021/2/24 IOC理事会後の橋本聖子会長コメント)
以上を活動の原則としています。具体的な活動内容はこちらのリンクからご覧ください。
ジェンダー平等に対し即効性、継続性のある二軸の対応を実施したことが分かりました。
おわりに
ここまでいかがだったでしょうか。ご覧いただきありがとうございます。この記事ではオリ・パラ組織委員会会長の橋本聖子氏についてまとめました。
ジェンダー論をはじめとする多様性を重んじる考え方が社会的に浸透しつつあるなかで、オリンピズムの根本原則に同様の理念を掲げているオリンピック・パラリンピックを運営する組織委員会の長として、皆さんの目に橋本氏はどのように映りましたか?
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執筆 森田 馨
参考文献
参議院議員橋本聖子オフィシャルサイト https://www.seiko-hashimoto.net/
参議院議員橋本聖子オフィシャルサイト 平成28年05月02日 決算委員会
時事通信社 【詳報】橋本聖子新会長就任会見 東京五輪・パラリンピック組織委員会 (2021/2/18)
読売新聞 五輪組織委の新会長に求める「五つの資質」…初会合で8人の検討委員がまとめる(2021/02/16)
HUFFPOST 橋本聖子氏「女性理事40%の実現だけでは意味ない」ジェンダー平等を若者世代に向けて語る (2021/2/23)
東京新聞 【会見動画ノーカット】橋本聖子新会長 セクハラ報道「軽率な行動、深く反省」(2021/2/18)
JCASTニュース 橋本聖子会長「甚だ軽率であったと反省」 「キス」騒動でコメント発表 (2014/8/23)
首相官邸 橋本聖子東京オリンピック競技大会・東京パラリンピック競技大会担当女性活躍担当内閣府特命担当大臣
首相官邸 政策会議 大臣記者会見(令和元年9月12日)
朝日新聞 橋本聖子氏がJOC理事 (2009/11/18)
東京新聞 「顔」と調整役 五輪組織委会長と五輪相って何が違うの? (2021/2/20)
IOC オリンピック憲章
公益財団法人東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会 大会ビジョン
公益財団法人東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会 橋本聖子新会長インタビュー 「様々な分野や産業を、スポーツの力で結びつける」 (2021/2/18)
公益財団法人東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会 国際女性デーに寄せて 橋本聖子会長「ジェンダー平等を発信し、社会の意識を変えていく」 (2021/3/8)
外務省 外務副大臣 過去の記録 橋本聖子外務副大臣
スポーツ庁 スポーツ団体ガバナンスコード<中央競技団体向け>
東京新聞 【全文】橋本聖子氏が新会長に就任 東京五輪組織委 男女平等は「スピード感持ってやる」 (2021/2/18)
公益財団法人東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会 第43回理事会 決議事項
いずれも2021/3/31最終閲覧
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