児童が好きなことを好きなだけ取り組んで、大きな花を咲かせた立川児童館での「FMたてかわ88.8MHz」

子ども達だけのラジオ放送局遊びを1年間かけて育て、彼ら子供たちの手によって企画・運営が行われるまでになりました。
墨田区立立川児童館では、年間に様々な行事が企画・運営されています。公立の児童館として体系だったプログラムの提供がなされており、年間計画により、月間行事、中間行事、そして年内のいくつかのところに記念的に行われる行事、そして日々の行事が組み立てられています。

子供たちの遊びの力は、指導員や学童保育のそれぞれの担当者がぴっちり子供たちと話し合い、また遊び会う中で培われています。
人形遊びやカードゲーム、ボードゲームなど与えられた遊び道具をもとにした時間の使い方から、プラレールやブロックなどその場に部品が用意されそれを組み立てながら世界を広げていく遊びやはたまた体育室夜号室においてその部屋固有の機能を使った遊びが展開されたり、あるいは図書室を使って本の読み聞かせを1学年の人たちにしてみたり、乳幼児に来ている親子連れの人たちに聞かせてあげていった他者との関わり遊びも多く見られます。

その中でもこのラジオ放送局作り遊びは、様々な場面の中で、素材遊び、道具遊び、あるいは社会遊びといったいくつかの要素が複合的に用意され、また子供たちが自由に遊び要素を楽しむことができる点で、幅広さを持っています。
またプログラム全体を俯瞰して遊ぶ局長や編成といった管理監督をするような遊びがあったりと複合的かつ多層的な遊び要素が内在している特徴があります。

特に、(後述しますが)局長を任じられた男子児童は学童保育室における日ごろの立ち振る舞いとは大きく雰囲気を変え、全体をコントロールするこのような自覚的な遊びの統括を試みようとするなど、子供たちにも日ごろと違う姿が見え隠れする面白さがあります。
最初に用意する遊びも、児童たちの関心や興味、あるいは能力によって選べる4パーツに分けて4つを考案しました。すなわち、ニュースを読む遊び、コマーシャルを作る遊び、音楽を紹介する遊び、そして放送局を紹介するステッカー作りをする遊び、と言うものでした。この4つはそれぞれ対象とする学年を違えていて、放送局っぽい純粋な遊びを、ニュースとコマーシャルに、またFMなどラジオ放送っぽい雰囲気をもたらす音楽紹介、さらにそうしたことにぴんとこない子供たちのために笑を書く作業が中心となるステッカー作り遊び、と言うバラエティーを用意しました。肝心なのはこの4つがすべて1つの「放送局」と言う大きな遊びにそれぞれつながっていることです。

このことは遊びを一つ一つ紹介し、好きな遊びを選ぶ最初の段階でも、注意を払ってそれぞれの遊びを選択した子供たちに伝えていきました。そのことにより一つ一つの目の前の楽しい遊びが、実は大きな全体像を結ぶことを意識して欲しかったからです。この点をサポートする各児童館の職員にも意識共有をお願いしました。
1年間をかけて、ラジオ放送局と言う全体像を少しずつお腹に落としていく必要があり、最初は上述のような4つの象徴的な遊びをそれぞれ子供たち自身が選ぶようにしていましたが、次のステップでは選ばなかった他の遊びを体験してみたり、あるいは10分と言う枠を用意し、ニュース、コマーシャル、音楽紹介といったそれぞれのコーナーを連続させることで1つの遊びとして統合したり、と言う試みを重ねながら徐々に子供たちの経験値を上げていきました。

立川児童館は学童保育所が併設されており、5つの学童保育室をそれぞれ合わせると200人を超える児童が毎日学校帰りに通い、保護者の会を持つなどしています。
それぞれの学童保育室が友達関係を子供直で築いており、その下今はチームごとにこの遊びに関わってもらう中で、仲間意識を下にして各要素のテクニックを磨いたり、練習しながら自信を深めるなどしていく組み立てとしました。

具体的には、ある月は音楽紹介をそれぞれ経験し、ある月はインタビューをそれぞれ経験し、またある月はニュース作りをそれぞれ経験したりコマーシャル作りをそれぞれ経験したりと言うことで、1年と言う時間をかけてじっくりラジオ遊びと言う全体像を理解していきました。
特筆すべき点として女子児童が機材にとても興味を示し、やがて誰よりも上手に機材操作ができるようになるなど遊びを通じて役割分担を進めていく中では、ジェンダーの要素がほとんど気にならなかったことを思い返しています。

その他、この遊びを子供たちの間で広めていくための導入部分として注意をしたこととしては、ラジオの社会的な役割について、彼らにわかりやすい形で伝えることを工夫しました。すなわち、ニュースを読むことが彼ら自身の保護者を含めて世の人々のどういう意味があるのか、同じくコマーシャルを作る事はどういう意味があるのか、そして音楽を紹介することが、ステッカーを作り周波数と放送局名を伝えることがどういう意味があるのか、といった事は放っておいても彼らのお腹には落ちません。なので実際の生活に則して、彼らの言葉も借りながら彼ら自身の生活空間の中の出来事と照らし合わせながらラジオの役割を伝えていきました。

もう一つ腐心した点としては、彼らが遊びを通じてラジオやラジオを含んだ社会全体と向き合おうとするときに、遊びとしての楽しさを維持し続けるとは限らないことでした。と言うよりも、そうした場面が必ず生じることを予見して組み立てて行きました。具体的にはニュースを作るには見知らぬ誰かと接点を持たなければならないし、コマーシャルを作るには対象物の良さを得手勝手に話すだけでは中身が伝わりません。そうしたときに遊びが1人の中で立ち止まってしまわないよう、極力、絆づくり、チームづくりに注意を払いました。要するに、行動するときに仲良しの何人組館に寄って一緒に考えながら、話しあいながら前に進めていく、と言った形を、時に複雑な放送局を模した遊びの中において、とことん「遊び」を「楽しむ」ための最低限の要素として織り込みました。

そうこうしているうちに僕自身の勤務最終である2月になりました。この月の遊び方ももちろん児童の希望を汲み取っての開催でしたが、その中身は昨年から始めた様々な放送局遊びの集大成でもあり、またある意味での仕上げでもある、そんな月となりました。また前年3月から始めた取り組みとしては、最終回が1周年記念となる形でした。最後の1ヶ月は児童諸君のやりたいことを中心に、担当週を設定して、それぞれの児童がいわばプロデューサーとして開催テーマを決め、方向を定めて実行しました。

館の統括主任でもあり、音楽活動を続けてもいるてっちゃん(鹿野さん)を読んで生演奏をしてほしい、と言う児童もいて、てっちゃんも応えてくれました。館内のインタビューをしたり、あらかじめ学校で友達と調べたことを発表したい、と言う児童もいて、調査研究のコーナーのようになる場面もありました。リクエストを集めて音楽紹介をとにかくしたいと言う児童もいて、開催時間が音楽番組のようになったりもしました。児童たちは、自分の可能性を少しづつ伸ばしながら、遊びという空間の中でチャレンジし、時に思い通りいかなかったりもしながら、希望を捨てずに遊び尽くし、大人の力を借り、子ども達同士で話し合い、と好きなことを好きなだけ、取り組んでくれて、見事に放送局遊びを自分のものにしてくれたように感じました。

次年度は担当者が変わり、方法も変わると思います。そんな中で、きっと今年頑張った彼らが、物語をさらに紡いでくれるのだと信じています。

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