とやまの見え方・黒部、立山の星

 1960年代の中頃から1970年代の始めにかけて、世界を席巻したイギリスの音楽グループ、ビートルズに、「And I Love Her」という有名なラブ・ソングがあります。 その歌詞に次のような一節があります。
 Bright are the stars that shine, dark is the sky
 I know this love of mine will never die

 ここは、CDの和訳の歌詞カードによると、次のようになっています。

「暗い夜空に輝く星々のように、/ 僕の愛はいつまでも変わらない」

 原詩は、「shine」と「mine」、「sky」と「die」が韻を踏み、そのため、わざわざ倒置法を使うほどですが、残念ながら、日本語訳には、英語の原詩の工夫が反映されていません。

 そこで、星空や夜空に関する表現の語彙を集めていけば、韻を踏んだ日本語訳のヒントがあり、私にも訳せやしないかと、天文随筆家として著名な野尻抱影(1885-1977)の随筆集を開いてみました。

 読み進むうちに、興味がずれて、富山に関する次のような箇所で目が止まりました。

 〈山登りは星に親しむ機会が多いので、山の紀行にしばしば星のことが書いてあるのは自然である。僕はこの種の本をそう多く読んでいないが、たとえば冠松次郎氏の『黒部渓谷』の中には10月の黒部渓谷で、白樺の繊々(ほそぼそ)とした樹立の間から、オリオンのさし昇る描写があった。剣沢で雪崩に襲われた一高の学生窪田氏の日記にも、黒部で何万という星が輝いていたことが書いてあった。〉

 〈『山行』(槙有恒著)には、立山のスキー遭難記事の中に、星の描写がある。それは槙氏と同行の板倉氏が弥陀原の雪中でいたましい最後をとげられた直後で、さっきまでの吹雪が俄かに晴れて、たくさんの星が現れ出た。松尾峠の上に大きな星が一つ光っていた、とあるものである。同じく星を描いた文で、こんなに深刻な情景を描いたものは、後にも先にも稀であるに相違ない。誠に批評を絶するものだろう。〉

 普段私たちが富山の平野から仰ぎ見ている夜空の星を、同じ時刻に、あの立山連峰の山中で、あるいは渓谷の岩陰で、生死の境に立って見つめている登山者たちがいることもあるのかと思うと、胸のふさがる思いになります。

 さて、さらに読み進み、言葉をたどっていくと、

 冬の星が賑やかな中にも自ら荒い大気を堪えようとして強く厳つく輝いている。
 春の夜の星は、柔らかな夜気の奥に、いかにも若くさかしげに瞬き
 天頂に青くきらめいていた織女の影
 銀河が秋更けるに連れ、夜毎に冴えを見せて白々と懸かる姿

などと、いろいろ出てきます。

 全く無謀ですが、ここでこの本を閉じ、先の歌詞を、韻を意識して訳してみました。

 明るく星々は、きらめき
 帳をおろした空は、深く続く
 私の心は、ときめき
 この愛は、永遠に続く

 拙訳、乞御容赦

(引用参考文献) 
『星は周る』野尻抱影著 平凡社 2015年12月刊
『ビートルズがやって来るヤァ!ヤァ!ヤァ!』CP32-5323 東芝EMI
『THE BEATLES  LYRICS 名作誕生』ハンター・デイビス著 奥田祐士訳 TAC出版 2017年7月5日刊

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