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FIBA ワールドカップとリーダーシップ(前編)

今月初旬に凄まじい熱狂とともに成し遂げられた歴史的偉業、日本バスケ男子代表の「48年ぶり五輪自力出場」について、興奮が完全に冷めやらぬうちに、リーダーシップという観点から振り返ってみたいと思います。

ミニバスから大学までバスケ部で、青春をバスケに捧げた(笑)一バスケファンとして、またバスケ界分裂時代からユニークな立場で日本バスケ界の発展を応援してきた経緯も含めながら、思うところを記録しておきたいという意図で、個人的なメモです。

前編は、まず現場で歴史的勝利をつかみとるために重要な役割を果たした3人のリーダーついて書きたいと思います。

ヴィジョンを掲げたトム・ホーバスHC

トム・ホーバス氏は、「信じる力」の威力を感動的に体現した素晴らしい指揮官として、すでに有名人ですが、彼の「サーバントリーダーシップ」に加え、私がすごいと感じたのは、「ヴィジョン(大きな目標)を掲げた」ことです。これは女子日本代表が東京2020大会で銀メダルを獲得した時もそうでしたが、「現実的には難しいのでは」と皆が思ってしまうような目標を掲げ鼓舞することは、リーダーの最も重要なタスクだと考えているからです。実際、私がハーバード大学でパブリックスピーキングの集中講座でリーダーシップについて学んだ際にも、最初に強調されたのがこの「ヴィジョンを掲げる」ことの重要性でした。

例えば、「日本代表女子の金メダル」や「日本代表男子の五輪自力出場」は、ケネディ大統領が、「月面着陸」を国策として掲げた時くらい、一般的には、実現可能性をにわかには信じられないようなものだったかもしれません。でも、ホーバス氏はそれを掲げ、達成できると信じさせ、士気を保って当然のことのようにやってのけた。ケネディ大統領のように。

「ヴィジョン」を掲げることは、周到な準備と比類なる努力、そして何より「覚悟」を要するもので、まさにリーダーとしての力量が問われるスキルだと私は感じているのですが、あまりこの点を評価したコラム等が見つからなかったので(私が探せなかっただけかもしれませんが)、ここに書き留めておきたいと思います。

私が代表を務めるSport For Smile では、DV経験や貧困など人生の苦境にある子ども達にスポーツをする機会と信頼できるお兄さん・お姉さんをつくる「スポーツメンタリング」の活動では、「心が傷ついた子友達が“笑顔”と“信じる力”を取り戻す」ことを目標に掲げ実施してきたので、今回「信じる力」の大切さについて、これほどの感動をもって日本全国に知れ渡ったことは、大変有意義だったと感じています。今後も子ども達が「信じる力」を取り戻すことができるように、活動を引き続き頑張ろう、と勇気づけられました。

引退宣言までしてチームの士気をリードした渡邊雄太選手

今回の歴史的快挙の現場での最初の“きっかけ”をつくったともいえるのが、渡辺選手の覚悟の発言でしょう。彼がメディア会見で「今回パリ大会の出場権を獲得できなければ僕は代表を引退する」と発表したその決死の覚悟は、試合中のディフェンスなど目立たない動きも含めて随所に見られ、華麗なダンクや3ポイントを決めた瞬間はもちろん、ルーズボールのせめぎあいからシュートのブロックまで、一つ一つの動きに執念とひたむきさが溢れて出ていました。試合の途中で、まだ勝つか負けるかも全くわからないところで、ただその必死さに心が震え、自然に涙が溢れてきてしまったほど。

私たち昭和世代にとっては(笑)、日本代表は世界では勝てないのが当たり前の時代が長かったので、毎試合、毎試合、本当に心から感動し、歓喜に満ちて毎試合後にSNS投稿してしまった私ですが、今大会のオフコートでの彼の言動で印象てきだったことが二つありました。

ひとつは、かなり話題(問題)になった、初戦ドイツ戦での空席を見てのSNSでの発言。各メディアでも多用されている渡邊選手の発信に対し、私は、以下のような引用ポストをしました。

普段はあまり著名人の引用とかしないのですが、今回は、NBA選手でもある渡邊選手の勇気ある行動を称えたかったのと、普段から日本スポーツ界はもっと「ファン・ファースト」を認識する必要があると強く感じていたので、それをリマインドするのによい機会だと思ったからです。

この状況に対して、「選手にこんなこと言わせちゃだめだ」というような主催者・運営側を咎めるような発信をされている方も見かけましたが、私の見解は以下です。

結果として、驚異的なスピードで緊急対応がなされ、第2戦から満席になって、歴史的快挙を導いた破壊的な熱狂を作り出せたことは、これもまた歴史に残る快挙だと思います。ご尽力頂いた関係者の方々、お疲れ様でした!

もうひとつ、渡邊選手の発言で印象的だったのは、あるテレビの取材で、ご両親が、自分が活躍したわけではない試合も評価してくれたことが嬉しかった、とコメントしていたことです。「ヴィジョンを掲げる」ことはリーダーの最重要タスクであると書きましたが、私は最重要な役割は、「他の誰かをリーダーにすること」だと考えています。このコメントは、彼がチームワークやキャプテンシーを越えた、計り知れない大きなものを背負っていたんだと感じさせるものでした。

歴史的快挙の翌日にリリースされた渡邊選手とティファにーとの契約については、また別途書きたいと思いますが、もう、ほんとに、感動をありがとう!のひとこと。こんなにバスケ日本代表が毎日のようにテレビに出て、ちょっとした発言もSNSやコラムで発信されて話題になる、という経験は人生で初めてで、最高の2週間でした。

SNSを駆使して会場のファンの熱狂を牽引した島田慎二Bリーグチェアマン

そして、オフコートでものすごいリーダーシップを発揮してくださったのが、Bリーグチェアマンの島田さんでした。私は個人的にも面識があり、経営者としての実力とリーダーシップの両方を兼ね備えた方だということは存じ上げておりましたが、今回も特に空席問題が起こってから、緊急対応からファンのエンゲージメントを維持するためのコミュニケーションまで、ネガティブからあの驚異的な熱狂を作り出すための重要な役割を果たされ、さすがの行動力(発信力)でした。

今回、私は現地入りせず、テレビ中継とSNSだけで応援していたので、実際の現場で何が起こっていたのかはわかりませんが、現地での動きや細部の調整まで、もちろん島田さんだけでなく、多くの関係者・担当者の方々が並々ならぬご尽力をされたのだと思います。(じゃないと、いくらW杯だからといってあんなに瞬時に満席にはできない。)

でもその現場で起こっていることを、日本代表選手の多くを擁するBリーグのトップリーダーがオンタイムで随時、個人的に発信する、この影響は大きかったんじゃないかと感じています。もちろんJBAの公式発表もありますが、それとは違ったパーソナルなトーンで公式文面では伝えられない補足を発信され、安心して応援に集中できたファンも多かったのではないでしょうか。

「矢面に立つ」のは、怖いし、誰だってやりたくないことですが、リーダーは往々にして、(多くの場合、ネガティブな状況下で)それを余儀なくされることがあります。私は危機管理広報の専門家ではないのですが、専門家の方に分析していただいても、よい評価が得られるリーダーとしての的確な行動だったのではないのでしょうか。

極めつけは、パリに大手がかかり、48年ぶり自力出場をかけた試合での呼びかけです。なんと、会場のファンにスタンディングオベーションまでお願いして、会場の雰囲気づくりを呼び掛けたのです。

私もこれにはびっくりでしたが、とてもよいアイデアだと思い、というか、もうここまで来たらやることすべてやるしかない、という気持ちが1000%伝わってきたし同じ気持ちだったので、テレビ観戦しながら私もスタンディングオベーションしようって思いました!

彼はSNS以外にも、バスケ界を盛り上げるためのラジオ番組や選手とのトーク番組など、本来のチェアマンの任務を超えた発信力が本当にすごいですね。まだ認知度の低いバスケットボール界にとってはよいことだと思いますし、私もよく拝聴し、楽しませて頂いていますので、今後もイノベーティブな手法で日本バスケ界をリードして頂けたら嬉しいです。

Bリーグの父と言われる私のメンター、パトリック・バウマン氏の追悼キャンペーンで、「自分がバスケ界に貢献できること」を真っ先にSNSに投稿発信頂いたのも島田さんでしたが、後編では、パトリック・バウマン氏と、彼の意を受けてバスケ界統合にご尽力くださったリーダーについて書きたいと思います。

最後までお読みくださりありがとうございました。

(後編に続く)


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