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【短期集中連載】保護者の兄とブラコン妹(第12回)

<前回はコチラ>

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平成2年4月、俺も由美も無事に進級出来、俺は大学3年生、由美は高校3年生になった。

大学はこれまでとはガラッと変わり、専門課程の講義ばかりになり、卒論のゼミも始まった。

由美も俺も教科書を全て買い直さねばならず、流石に金沢の両親に仕送り追加を頼まねばならなくなった。

また、俺が家庭教師のバイトをしていた中3の女の子も、無事に第1志望校へ合格したとのことで、ご両親から感謝の金一封が送られてきた。
目の前で出されたら断るのだが、郵便で送られて来たら断ることもできない。

代わりに、娘さんに使ってくださいと、図書券を送り返したのだが、これで良かったのだろうか?

また由美は春のJOC競泳大会の予選に出ていたのだが、あと1人…というところで涙を飲み、補欠となったが、残念ながら繰り上げ通知は来なかった。

由美がふと不安を漏らした。

「アタシ、インターハイに出れなかったら…どうしよう…」

今年高3の由美には大事なことだ。
これまでも予選ではあと一歩突き抜けることができなかった。
横浜地区予選は余裕で突破するものの、神奈川県大会は次大会推薦基準突破まではいかず、入賞で終わっていた。

「俺は、頑張れ!としか由美に掛ける言葉がないけどさ、とにかく悔いだけは残さないように、全力を尽くせよ」

「そうよね。悔いは残したくない…。高校生でいられるのも残り1年切ったんだもんね」

「俺はいつでも由美を応援してるから。な!」

「ありがとう、お兄ちゃん。お兄ちゃんと、我儘を聞いてくれたお父さん、お母さんと、そして石橋さんのためにも頑張るよ!」

「えっ?由美、今なんて…」

「もーしかしたら、アタシの義理のお姉ちゃんになるかもしれないでしょ?というか、そうなるようにお兄ちゃん、頑張ってよね」

「由美…」

俺はとりあえず由美が、俺の彼女を認知してくれたことに、心の中でありがとう、と言った。

「ところでお兄ちゃん。石橋さんって、今は軽音楽部でお兄ちゃんの後輩だけど、中学や高校の時には体育系の部活に入ってなかった?そこまでは聞いてない?」

「えっ?由美、お前は超能力でも持っているのか?」

「というと?」

「実はさ、俺も去年の春にあの子が新入部員として入ってきた時、今は髪の毛も少し伸ばしてるけど、最初はベリーショートだったんだよ。で、結構背が高くて日焼けしてたから、これまでは体育系の部活だった?って聞いたんだ。そしたら、中学ではテニス部、高校では陸上部だったって」

「わぁー、アタシの第六感もなかなかのもんね。なんかね、初めて見たときから、アタシと同じ匂いがするって思ったの」

「なんだよ、同じ匂いって」

「えっ、だから、スポーツやってます、またはスポーツに打ち込んでましたって匂いよ」

「ははあ、なるほど」

中高6年間をスポーツ系の部活で過ごすと、何となく体育会系の雰囲気が自然と身に染みるものなのか?
それを言うなら、俺だって中高6年間バレーボールに打ち込んだんだが、何も言われないのはなぜだ?女性特有のモノなのか?

「アタシ、石橋さんに会いたいな。高3の時の経験とかさ、同じ女としての悩みも相談してみたい」

「いや、それは石橋さんも喜ぶと思うぞ。サークルで会っても、いつも由美さん元気にしてる?って気にしてるから。今度会ったら、言ってみるよ」

「うん、お願い、お兄ちゃん。段取りして~」


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「…という訳なんだ。次の日曜、サキちゃん空いてる?」

俺は由美の願いを聞き、サークルで咲江に出会った時、由美に会ってくれと頼んでみた。

「えーっ、センパイ!それは嬉しいことですよ!彼氏の妹さんに拒否られず、なんとか話が出来るってのは万感胸に迫るものがあります」

「サキちゃんは変わらないね」

俺は苦笑しながら、サークル活動しながら咲江と会話していた。

「でも、由美ちゃんがアタシと同じ匂いがするって感じたのって、不思議です。1回しか会ってないのに」

「由美は現役スイマーだからかな?」

「アタシも現役ならいいですけど、もう陸上から足を洗って1年8か月ですよ」

「いや、でもさ、去年の夏にユネッサンで見た日焼け跡…」

「あーっ!センパイ、そんな恥ずかしい過去を持ち出さないで下さいよ~。だってまさか短パンの一直線の日焼け跡が残ってたのが、ビキニで判明したなんて、アタシの不覚ですからぁ」

「だって、今はもう、なんていうか、コマネチ!みたいな日焼け跡なんでしょ?」

「はっ、はい、一応は保ってます…」

軽音楽サークルでは、毎年大学のセミナーハウスがある箱根で夏合宿を行っており、最終日には水着で入れる温泉リゾート、ユネッサンで遊ぶのが定番になっていた。
去年の夏、咲江は勇気を出して人生初ビキニに挑戦したものの、正樹に高校の陸上部時代の短パンの日焼け跡が太腿に残ってるねと指摘され、ショックだったのだ。

…そう指摘した正樹の方は、大して気にもせず言っただけだったが、咲江は合宿から帰宅後、毎日高校時代のブルマーをはいてベランダで日焼けに励み、短パンの一直線の日焼け跡を消し去ったというから、恋する女子の努力は凄いものがある。

「まあまあ、由美はサキちゃんの太腿の日焼け跡を見たいわけじゃないからさ。良ければ日曜日、アパートに来てもらって、由美の相談に乗ってやってほしいんだ。デリケートな話だったら、俺、どっか逃げるから」

「えー、センパイ逃げちゃダメですぅ…。でも女同士だと、ひょっとしたらそんな話も出てくるのかな?」

「うん。由美は女として石橋さんに聞きたいことがある、ってことも言ってたから…」

「まあそこは、アタシか由美ちゃんが、こっからは男子禁制!とか言うことになるんじゃないですか?よく分かんないけど」

と言ってサキちゃんは、プップーとアルトサックスを鳴らした。

「うっ…。笑かすなって、サキちゃん!」

「いいじゃないですか。楽しい雰囲気にしてたら、新入部員も来るかもしれませんよ?」

「まあ、ね。ウチは明るく楽しい軽音楽を目指してるもんね」

軽音楽サークル内の俺らのバンド、初心者が集うグリーンズは、リーダーが無事に卒業し、一応俺がリーダーの座を引き継いでいた。

他のクラリネットやトランペット、打楽器には初心者の新入部員が入ってくれたが、サックスにはまだ新入部員がいなかった。俺とサキちゃんでアルト2本を吹いているが、テナーサックスが1人ほしいところだった。

「センパイ、ところで日曜日は何時にアパートへお邪魔すればいいですか?」

「そうだね。由美の部活とか予定も確認しとかなきゃいけないから、また連絡するよ」

「分かりました!じゃあいつもの夜10時54分でお願いしますね」

「分かったよ」

俺は苦笑した。なぜ10時54分なのかは、咲江独特の感性らしいが、その時間なら絶対にアタシが電話に出ますから!とのことで、俺から石橋家へ電話する時は夜10時54分に掛けるようにしていた。


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「こんにちは~。お邪魔しまーす」

日曜日の午後、石橋咲江が伊藤家のアパートへとやって来た。
由美に予定を聞いたら、午前中だけ部活とのことだったので、昼過ぎに来てもらうことになったのだ。

俺もあえて迎えには行かず、アパートで待ち受けるという方法を取ってみた。
だがそんなに深い意味はない。駅で待ち合わせてばかりだったので、自分の部屋で彼女がやって来るのを待つというのはどんな感覚になるのか、一度試したかったのだ。

「石橋さんだ!どうぞ~」

由美の方が積極的に玄関へと出迎え、俺が後ろにいる状態になった。

「由美ちゃん、今日はありがとうね」

「いえっ、わざわざ来て頂いて申し訳ありません。それと前回、バレンタインの日にはちゃんとした挨拶もせずに大変失礼いたしました。挨拶は全ての基本という私の信念が、ちょっと動揺しただけで崩れてしまい、石橋さんには重ね重ね失礼をいたしまして、申し訳ありませんでした」

明らかに咲江は動揺していた。彼氏の妹に冒頭からこんな丁寧な挨拶をされるとは思いもよらなかったからだ。

「改めまして、私、伊藤由美と申します。S高校3年生、女子水泳部の主将を務めております。今後ともよろしくお願いいたします!」

もしかしたら由美は、ちゃんとした挨拶が出来てないままだったのも、心に引っ掛かっていたのかもしれない。

だが、ここまで礼儀正しく挨拶されると、咲江もちゃんと挨拶せねば…という体育会系精神が甦るのだろうか?

「では私も改めて…。私は石橋咲江と申します。お兄様と同じ大学の文学部英文学科2年生で、サークル活動では軽音楽サークルにて、お兄様の指導の下でアルトサックスを勉強しております。この度、縁あってお兄様とお付き合いさせて頂くこととなりました。どうぞ今後ともよろしくお願いいたします」

俺はお見合いでも始まるのかという気持ちで、2人の玄関でのやり取りを眺めていた。

「では、どうぞ中へお入りください」

「謹んで…お邪魔いたします」

由美は何せ俺と違って、どこで覚えたのか礼儀作法には厳しいので、俺のアパートの部屋の空気が一気に引き締まった。
咲江も体育会系だったことから、由美の挨拶にも対処出来たのだろう。

4畳半の部屋は、炬燵から丸テーブルに代わっていた。そのテーブルの上に咲江が、

「つまらないものですが…」

と、一目でケーキだと分かるラッピングされた箱を出した。

「いえいえ!こんなお気遣いなんて!かえって申し訳ないです!」

由美はそう言いつつ、俺に目配せして、コーヒーを準備しろと合図してきた。

「狭い部屋ですけど、どうぞ座ってください」

「では遠慮なく…失礼します」

女2人の堅苦しいやり取りは、どちらかがギブアップを発するまでは続くのだろう…と思っていたら、由美が先に白旗を挙げた。

「石橋さん、すいません、堅苦しい言葉はここまでにしてもいいですか?」

「あっ、うん。いいよ~、由美ちゃん」

コーヒーの準備をしている俺まで、緊張が解けた。

「アタシ、さっきも言ったんですけど、バレンタインの日に石橋さんにちゃんと挨拶してないってのがずっと引っ掛かってて…」

「えー、そんなの気にしなくていいのに」

「でもアタシの信念なんです。挨拶は全ての基本ってのが。多分小4でスイミングスクールに通い始めた時に、コーチにそう言われたのがずっと尾を引いてるんだと思うんですけどね」

「そうなんだ…。でもそれって素晴らしいと思うよ。アタシも今日から使わせてもらっていい?挨拶は全ての基本って言葉」

「はい、ぜひぜひ!アタシが作った言葉じゃないんで、著作権料は要りませんから!」

やっとここで2人が笑い合った。

俺もお湯が沸いたので、3人分のコーヒーセットを持って、丸テーブルに置いた。

「じゃ、コーヒー入れようか。由美はブラックだったけど、サキちゃんってコーヒーはどうだったっけ?」

「あっ、アタシは全部入れですっ!由美ちゃん、ブラック飲むんだ?凄いね」

「いえ、アタシの場合、寝不足対策で嫌々飲んでたんですけど、その内ブラックに慣れちゃって、ヘタにミルクや砂糖を入れたら甘くて甘くて。水泳やる上でも、どうせならブラックのままでいいやって思うようになったんです」

「へぇ~。キッカケは色々あるんだね」

程よく晴れた4月の日曜の午後、いい感じでアパートでの3人の話が始まった。

<次回へ続く>


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ミエハル
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