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スピンオフ小説・憧れの初恋相手、M先輩(後編)

第 7 章

アタシが1人で勝手に、初恋相手のM先輩にブルマ姿を見られるのが恥ずかしい!って叫んでた体育祭も無事に終わって、吹奏楽部は春先の基礎練習ばかりの時期が懐かしいってほど、予定がいろいろある季節になったの。

10月には地域の防犯イベントで演奏でしょ、11月は中国地方吹奏楽まつりってのがあって、その後すぐに文化祭があって…。

あっ、アタシは福本朋子。中1の女子で、吹奏楽部でホルン吹いてるの。

半年経って、結構吹けるようになってきたって自信があるよ!

最初は初恋相手のM先輩がいるサックスパートに行きたかったけど、別のパートになって良かったかな?って思うの。

同じパートだとどうしても意識しちゃうし、結構M先輩はみんなの前では明るく楽しく振る舞ってるけど、たまに帰り道で見掛けたりしたら、凄く悩んで暗い顔してるんだ…。

今日も帰り道の途中でM先輩が足取り重く歩いてるのを見付けちゃって、その後ろをソッと歩きながら、先輩について色々考えちゃった。

M先輩自身の進路問題もあると思うけど、きっと部活の運営で抱えてる悩みもあると思うの。

だってね、先輩が練習してるのに、他の3年生の女子の先輩に呼び出されて、イチイチ何か注文付けられてるんだよ。

3年生は引退まであと1ヶ月と少ししかないのに、M先輩を困らせたり、意地悪する先輩は大嫌い!

あともしかしたら、T先輩とのお付き合いでも悩んでるのかも。

だってね、同じクラスらしいから、クラスでは喋ってるのかもしれないけど、部活中は全然喋らないんだよ。

部活中に喋ってるのを見たのは、夏休みだけ。本当に付き合ってんのかなぁ?

きっと先輩、色んなことを抱えて悩んでるんだろうなぁ。

M先輩、アタシが彼女だったら元気出して上げられる自信があるよ!
でも今は彼女じゃないから応援しか出来ないけど、最後まで頑張ってね!

そう思いながら、先輩が社宅に入るのを見てから、アタシは自分の社宅に帰ったの。

「ただいま~」

「あっ、朋ちゃん、おかえりなさい」

「うん、今日もご飯の前にお風呂入っていい?」

「あのね朋ちゃん、今日はお風呂の前に、大切な話があるの。ちょっと聞いてくれる?」

「えっ?何、大切な話って…」

アタシはとりあえずカバンとか自分の部屋に置いて、着替えもせずにお母さんの前に座ったの。

「ごめんね、朋ちゃん、焦らせて」

「ううん、大丈夫。それより、お風呂より先に聞かなきゃいけない話って、何?」

「……朋ちゃん、残念だと思うし、お母さんも残念なんだけど、来年、引っ越さなきゃいけなくなったの」

アタシは一瞬、頭の中が真っ白になった。

引っ越し?ここからどっかへ、引っ越すの?

「えっ、どこ、どこへ引っ越すの?」

「……豊橋って所。愛知県の」

「えーっ!」

アタシ、言葉が出なくなっちゃった。

なんで、なんで豊橋へ引っ越さなきゃいけないの?

吹奏楽も頑張って、ホルンも上手くなってきたって、先生にもM先輩にも褒められたのに…。

何より、M先輩と会えなくなっちゃう、そんなの嫌だ!

アタシはもう涙が溢れて、悲しくて、悔しくて…。

しばらく無言の時間が流れたんだけど、お母さんが重い口を開いたの。

「…朋ちゃん、お母さんも苦しいの。朋ちゃんの気持ち、知ってるから。でもお父さんが転勤なの。一階級昇進しての転勤。栄転ってやつ。だから、断れないの。お父さんも悩んでたのよ。断る選択肢も無い訳じゃないけど、そんなことしたら、定年まで昇進させてもらえなくなっちゃうんだって」

「……引っ越すとしたら、いつなの?」

アタシは、引っ越しがどうにもならないのなら、時期の調整くらいは出来るんじゃないかと思って、聞いた。

「お父さんが会社から打診を受けたのは、本当は、年明けすぐにって話なの。でもお父さんは会社と交渉して、せめて4月からにしてもらえないかって言ってるんだって。勿論、朋ちゃんのことを考えてるからよ。だから朋ちゃん、お父さんを責めたりしないでね」

「分かってる。分かってるけど…アタシ…やっぱりM先輩が好き。離れたくないよ。お母さーんっ」

アタシは泣きながら、お母さんに抱き付いちゃった。
お母さんも涙ぐみながら、アタシを受け止めてくれた。

「朋ちゃん、Mくんに彼女さんがいても出来ることがあるよって、お母さん、前に言ったよね」

「…うん」

「今こそ、その時のお母さんの言葉を思い出して、頑張ってMくんの記憶に残る女の子になりなさい。もし付き合えなくても、Mくんがずーっとこれから先も、朋ちゃんのことを覚えててくれたら、朋ちゃんの勝ちなのよ。Mくんも、今の彼女さんとずっと付き合うかもしれないけど、別れることだって大いにあり得るでしょ?そんな時、Mくんが朋ちゃんのことを思い出してくれるくらい、Mくんの心に朋ちゃんを刻めれば、素敵じゃない」

「…うん」

「それに外国に行く訳じゃないんだから、お手紙とか書いて、文通とかすれば?」

「…うん」

「ね、引っ越す前に、出来ることは何でもやっていこうね。お母さんは朋ちゃんの味方だからね!」

「…うん、お母さん、ありがとう。アタシ、めげずに残された期間、前向きに頑張るっ!少しでもM先輩の心に、アタシの存在を刻んでみせる!」

アタシは、突然引っ越しの話をされてビックリしたけど、きっとお父さんとお母さんは、いつアタシに言おうか、迷ってたんだと思うの。

お父さんも引っ越す時期について交渉してくれてるっていうし、何とかアタシの元気パワーで無理やり前向きになって、引っ越しまでの毎日を思い出深いものにするんだ!

第 8 章

でもM先輩と喋ったりできるチャンスは、なかなか有りそうで無いんだよね~。
いつも男子軍団で固まってるしぃ(- -;)

次のイベントチャンスは、「吹奏楽まつり」っていう大会。

これもコンクールみたいな賞レースらしいんだけど、人数制限がないから、アタシも出れるの♪
しかも優秀校は、ラジオで演奏が流れるんだって!
アタシも頑張ろうっと。

その「吹奏楽まつり」は出番が早いから、朝6時に中学校からバスで移動するんだって。

M先輩、またT先輩と並んで座るのかな…。

って思いながら当日の朝、バスに乗り込んだら、完全に2人は別行動。

バスの座席の位置も男子軍団は後ろで固まって遊んでるし、T先輩は前の方の女子で固まってるし、もちろん途中の休憩でも喋ったりもしないの。

…もしかしたら別れたのかな?

こういう情報に強い先輩に、後で聞いてみようっと。

ただ会場には、逆に朝早く出発したら道路が空いてて、予定より20分も早く到着しちゃったから、会場の中に入れなくって、吹奏楽部のみんなで、近くの公園でかくれんぼとか鬼ごっこして遊んだんだ。

めっちゃ楽しかったよ~♪

M先輩も思い出作りのためか、カメラを持ってきてたから、先輩が撮ろうとした瞬間に、アタシはその写真に写るように走りこんでたの。

梅ちゃんが笑ってたよ、M先輩のカメラを意識しすぎ!って(^▽^)

だけど肝心の本番は、朝早かったせいか、練習では出来てたのに本番では出来ないことがあったりして、ちょっとイマイチだったかなぁ。

さらにこの日は、M先輩とお話しするチャンスが無かったんだ…(´・ω・`)

なんでかっていうと、大会が全部終わるのが夜9時なんだって!

それまで部の全員が残るわけにはいかないから、部長のM先輩と副部長のF先輩、来年の部長候補のI先輩と副部長候補のG先輩、そして顧問の先生の5人だけ、最後まで残るんだって。

M先輩は、アタシ達とは別行動になるってこと。あ、T先輩ともだけど。

それで、アタシ達が乗ったバスをM先輩が見送ってくれた時、また明日学校で会えるのに、何故かもう二度と会えなくなるような気がして、一瞬ウルウルってしちゃったの。

涙を拭ってたら、バスで横に座ってた梅ちゃんが心配して、声をかけてくれたんだ。

「朋ちゃん、どうしたの?何かあったの?演奏でミスったとか…。話なら何でも聞くよ」

「梅ちゃんありがとう。実はね、アタシ…引っ越すことになったの」

「えーっ?」

梅ちゃんはびっくりしてか、突然大きな声出すから、周りの友達や先輩もアタシたちの方をなんだ、なんだ、って見ちゃったよ💦

「梅ちゃん、声が大きいよぉ」

「ごめんごめん、ビックリしたから…。でも急じゃん?どこに引っ越すの?」

「豊橋。愛知県だって」

「本当?凄い遠くなっちゃうね…。寂しいな、アタシも」

「うん。寂しい。それと寂しいのはもう一つ…。梅ちゃんならもう分かってると思うけど…」

「M先輩でしょ?」

「やっぱりバレてたかぁ」

「もうバレバレだよ、1年生の中では。だからM先輩がT先輩と付き合ってるって分かった時、1年生はみんな朋ちゃんの心配をしたんだから」

「そんな前からみんな気付いてたの?そっか…ありがと。でもね、アタシ、M先輩のことが好きだから、T先輩と付き合ってても、ずっとM先輩を好きなままでいようって決めたの」

「そうなんだ。でもさ、引っ越したら朋ちゃんのその夢も叶わなくなっちゃわない?」

「そこなんだよね。だからアタシ、引っ越すまでに、M先輩の印象に残るような女の子になりたいの」

「でも今度の週末の文化祭で、先輩たち、引退しちゃうよ?」

「だよね。時間がないよね💦」

「まあ朋ちゃんは、M先輩と近所だから、色々な面で強行突破もできなくはないけどさ、色々な面で…ウフッ」

「何よそれ。アタシ、そんなHなことしないよ!ちゃんとした女の子として、M先輩の記憶に残りたいんだから」

梅ちゃんって、本当にラフになんでも話が出来るいいお友達。

引っ越すと、梅ちゃんともお別れなんだよね…。


次の日、結局先生や先輩が夜9時まで残った「吹奏楽まつり」は、アタシの中学校は何の賞ももらえなかった、って朝練でY先生から聞いたの。

先生もだけど、M先輩とF先輩は、明らかに疲れた顔して朝練に出てたよ。
部長を務めるって、ホント大変なんだなぁ。

アタシに残されたチャンスは、文化祭だけになっちゃったけど、文化祭でM先輩に強烈な印象を残したいな。ホルンに福本っていう女の子がいたってことを…。

ウチの中学校の文化祭は、1年生と2年生は各クラスがクラス展示をやって、3年生は劇をやるの。
吹奏楽部は、もちろんステージが用意されてて、Y先生は文化祭用に6曲セレクトしたんだよ。
その吹奏楽部は初日に演奏があるの。
全生徒の前で演奏するから、緊張する~(*ノωノ)

でも文化祭のステージは、3年生の引退ステージ!
M先輩のために、一生懸命練習したから、舞台の端から端で遠いけど、M先輩にこの思い、届いて!って気持ちで演奏するよ。

Y先生が挨拶して、みんなが拍手してくれて、吹奏楽部の時間が始まったの。

でもあっという間に全6曲の内、5曲終わって、最後の曲になったんだけど、ふとM先輩の方を見たら、もうM先輩は涙を堪えた顔になってた。
その姿を見たら、アタシもウルウルッときちゃった。
M先輩も引退ステージだけど、アタシもこの中学校で最初で最後のステージになるから…。

6曲目、最後の曲が終わって、先生とみんなで一礼してから、撤収するの。
でもM先輩の姿が見えない…。
こんな時、率先して指示出してくれるのに。
どこ行ったのかな?

しばらくしたら、目を真っ赤にして、ハンカチで顔を拭きながら、M先輩が戻ってきた。良かった~。
多分、これで最後だって思いが強くて、泣いちゃった顔をアタシ達に見せたくなかったんだろうね。

でもトランペットの2年のG先輩は、
「泣いとったじゃろー、先輩!」
って、M先輩の背中を軽く叩いてたよ。
信頼関係があるんだね、羨ましいな…。

文化祭は木曜と金曜の2日間行われて、土曜日は各クラス反省会。
そして午後から吹奏楽部は、3年生の引退式と、部長交代式をやるんだって。

アタシはクラスより、部活優先だったよ。クラスの反省っていっても、1年生だから大したことしてないしね。

さて午後からは、M先輩が仕切る、最後の部活!

「皆さん、文化祭での演奏、お疲れさまでした。まつりが月曜日にあって、いい賞がもらえたらみんなも元気が出たと思うんじゃけど、こればっかりは仕方ないね。来年に託すから、来年の部長と副部長は、コンクールで金賞、まつりで何かの賞、この2つを狙って頑張って下さい。では、来年度の部長と副部長を発表します」

M先輩は去年、前の部長さんからこんな感じで部長に突然選ばれたんだね。
2年生の先輩が言ってたけど、物凄い驚いてたんだって。だから突然指名されるんだろうなぁ。でも、誰を指名するかは、先生と部長、副部長で話し合って、事前に決まってるんだって。この前の吹奏楽まつりの時に、もうバレてるような気もするけど…。

なんだか音楽室がザワザワしてるけど、M先輩は発表したよ!

「来年度の部長は、チューバのI君、副部長はトランペットのGさんに決まりました!」

音楽室は拍手に包まれたよ。先輩たちの声を聴いてたら、やっぱりね、とか、あの2人なら大丈夫だろとか、言ってる。
でもアタシは、その2人の先輩とは縁がないまま、サヨナラになっちゃうのかな…。

慣例で、次の部長に音楽室のカギを引き渡す儀式があるんだって。

M先輩からI先輩に音楽室のカギが渡されたけど、M先輩はすごい寂しそうな表情してるのが印象的だった。
きっとまだ、吹奏楽に未練があるんだろうなぁ。
吹奏楽を続けたいんだろうなぁ。
高校でもきっと吹奏楽部に入るんだろうなぁ、M先輩は。

もしアタシが引っ越さなくていいんなら、先輩と同じ高校に通いたい!

最後にY先生が、M先輩を称えてた。未経験の途中入部で、よくここまで吹奏楽部を引っ張ってくれた、ありがとうって。

そして3年生に拍手が送られて、1年と2年は、アーチを作るの。
そのアーチを抜けて音楽室から出たら、正式引退なんだって。

アタシは梅ちゃんとアーチを組んで、出来るだけ最後の方に並んだの。
だって最初の方だと、あっという間に先輩が通り過ぎちゃうもん。
出来たら、M先輩と一言でもいいからお話ししたいもん。

先輩方が、どんどんアーチを潜り抜けて、音楽室から出ていくよ。
BGMはY先生が引く、ピアノの「蛍の光」
普段クールな先輩まで泣いちゃってる。

一通り3年の先輩方はアーチを抜けたんだけど、T先輩は音楽室の外でずっと誰かを待ってるみたい。
…やっぱりM先輩のこと?

そのM先輩は人気があって、後輩の全女子から握手を求められてるみたい💦

先輩は1人1人の目を見て、「ありがとう」「ありがとう」って返してるから、感激して泣いてる女子もいるよ。
もしかしたらアタシのライバルは、他にも沢山いたのかな?

特にフルートの2年生のY先輩は、いつまでも握手した手を離さずに泣いてた。
Y先輩って可愛い系だから、男子の先輩が狙ってるって聞いたことがあるけど、やっぱりM先輩のファンだったのかな。

って見てたら、少しずつM先輩がアタシの近くへと進んできたよ…。

アタシ、先輩と握手したいから、梅ちゃんにゴメンネって言ってアーチを崩して、待ってたの。

そしたら、同じサックスだったからか、M先輩は先に梅ちゃんに声をかけてた。

「梅ちゃん、半年間ありがとうね。1年生だけど冷静な梅ちゃんのお陰で、サックスのパート練習も脱線しすぎなくて助かったよ。来年は新1年生を沢山サックスに入れて、頑張ってね」

「せ、先輩…。ありがとうございます!頑張ります!」

それまで何ともなかった梅ちゃんが、みるみる内に泣き出しちゃって、M先輩と握手してた。やっぱり同じパートだから、心のどこかでM先輩を慕ってたんじゃないかなぁ。

と眺めてたら、次にアタシを見てくれたの!急に心臓のドキドキが速くなっちゃったよ!

「福本さん!ホルン、よく頑張ったね。半年であんなに上達するなんて、なかなかのもんだよ。来年は1年生を教える側になるけど、今のまま頑張るんだよ!」

「はい!」

アタシが引っ越すことを知らないから、M先輩はこのままこの中学校でアタシが2年生になると思ってる。
そう考えると、涙が溢れてきた。

「あと福本さん!」

「はい、えっ?」

「帰り道で、俺の後ろを歩いてたこと、何度かあったよね。遠慮しないで、エイッて体当たりでもして来れば良かったのに」

M先輩はそう言って、アタシの頭をポンポンと叩いた(>_<)\(・・ )

アタシはもうダメ。ワーンと声をあげて泣いちゃった。

なんでこんな優しい先輩とお別れしなくちゃいけないの…悲しいよぉ。

「ゴメンゴメン、泣かすつもりはなかったんだけど。むしろ笑ってほしいところだったんだけど。とにかく、福本さんのトレードマーク、前向き元気印で、来年も頑張ってね!」

アタシは声にならない声で、ハイ、と答えた。

最後にM先輩が音楽室から出る時、女子のみんながまた入口に殺到して、せんぱーい!ありがとうございました!さよーならー!って言ってるのを、涙を拭いながら、ちょっと離れた所で見てた。

M先輩、モテモテじゃん。アタシなんかよりも可愛い子や、素敵な2年の先輩もいるじゃん。元々アタシの片思いは叶わない運命だったんだわ…。

Y先生が冗談ぽく、
「分かった分かった、みんなのその愛情を、今度の部長にも向けてやってくれや」
と言って、みんなを席に座らせたの。

M先輩は音楽室を出て、どうしたかな?と思ったら、T先輩と楽しそうに喋りながら歩いてる。

別れてなんか無いじゃん。

あーあ、アタシの初恋も終わりかぁ。

「朋ちゃん、M先輩に思いは伝えられた?」

梅ちゃんが聞いてきた。

「えー、梅ちゃんだってM先輩のこと、好きだったんじゃないの?」

「えっ?そりゃあ、毎日近くで熱心に練習を教えてくれるから、そりゃあ、そりゃあ…ねぇ」

「やっぱりー」

「でもきっと、1年の女子はみんなM先輩のことが、好きだと思うよ。朋ちゃんみたく、初恋レベルまで好きかどうかは分かんないけど。だってさっきだってさ、途中からしか聞こえなかったけど、1年生と2年生の1人1人に、それぞれ違う言葉をかけてたし。ちゃんとみんなのことを把握してなきゃ、そんなこと出来ないよね。凄い先輩だわ、M先輩は…」

「そうなんだ。じゃあアタシが転校したら、他の女の子がM先輩に告白したりするのかな、付き合っちゃうのかな…」

「おーっと、その前にT先輩っていう彼女がいることをお忘れなく、朋ちゃん。T先輩という彼女がいるから、みんな誰も告白しようなんてしてないだけだよ」

「あっそうか~、そうだった。アタシ、M先輩とT先輩、別れたと思ってたの」

「え、なんで?」

「だって、部活で全然話さないじゃん?カップルなら、少しぐらいイチャイチャしてよって、逆に思ったこともあるくらいなのよ」

「そこは…やっぱり3年生として、そしてM先輩なら部長として、部活内では一線を引いてたんじゃないの?分かんないけど」

と、梅ちゃんとずっと会話してたら、いつの間にか部活が終わってて、I新部長が
「鍵かけるぞー」
って言ってきたから、帰りまーすって、慌てて外へ出たの。

I先輩はM先輩と違って厳しそうだから、ちょっと部活も怖くなるかもね。

第 9 章

お父さんが頑張ってくれたお陰で、引っ越しは春に伸びたの。
でも3学期になったら、クラスや部活のみんなには引っ越しを言わなくちゃね。

まず担任の先生に言ったら、驚いてたけど、色々手続き必要だからって、書類を一式、お母さんに渡してと渡されたの。

そして部活では、こっそりI部長に春休みで中に引っ越すことになったって伝えたの。

そしたら意外にも残念だね…って言ってくれて、ビックリしちゃった。

クラスも部活も、正式にみんなに言うのは3学期の終業式の日ってことにして、それまでは普通に学校に通って、部活にも出ることにしたんだけど…。

M先輩の3年生は高校受験に向けて大変そうで、学校ではなかなか会えないけど、思い切ってバレンタインデーに、アタシの思いを込めたチョコレートを手渡ししようと思って、頑張ってチョコを手作りしたの。

だけど2月14日に中学校に来たら、3年生は私立高校受験で一斉休みなんだって!

知ってたら昨日の内にチョコ持ってきたのに~。

「じゃあ朋ちゃん、M先輩は近所なんでしょ?お家に持って行けば?」

と、梅ちゃんがアドバイスしてくれたけど…。

それはちょっと恥ずかしいかな(/ω\)

T先輩っていう彼女がいるのを知ってるのに、M先輩のお家へチョコを持ってくのは、なんか違う気がするの。

「うーん、微妙な乙女心ってやつ?」

そうなの、そうなの!

学校の中で、あっM先輩!って会って渡せたらいいけど、お家まで行くなんて、重たい女になっちゃうよ。

かと言って明日以降にチョコを渡すのも、売れ残りを上げるみたいな感じになっちゃうから、残念だけど諦める。チョコは今夜アタシの残念会として、M先輩のことを思いながら食べちゃう。

バレンタインで失敗しちゃったから、アタシに残された最後の手段は、M先輩の卒業式!

第2ボタン…は、きっとT先輩に上げるだろうから、他のどの部分でもいいから、M先輩の制服に付いてたボタンがほしいな💕

吹奏楽部では、卒業式のための曲を練習を始めたよ。
Y先生は3年生の担任で指揮が出来ないから、I部長が代わりに指揮するんだって。
毎日張り切って練習してるよ~。

アタシは、M先輩への思いを込めて、ホルンを吹くんだ。

頑張っちゃうから!


そしていよいよ今日は卒業式。

演奏しながら先輩たちが入場してくるのを見たら、やっぱり泣いちゃった(つд⊂)

今日で本当にお別れなんだもん…。

卒業式は無事に終わって、その後は1年生から3年生まで、そして先生も入り乱れて、大サヨナラパーティーみたいになっちゃってた!

楽器を音楽室に仕舞ってから駆け付けたら、誰が何処にいるのやら、全然分かんないのs(・・;)

困ったなぁ、M先輩にボタンもらいに行きたいのに、M先輩、どこにいるんだろ。

と思ったら、T先輩が、アタシが全然知らない男の人と仲良さそうに腕組んで写真撮ってた。そしてそのまま、その人の第2ボタンもらってた。

えっ?なんで?

M先輩は?

思わず周りをキョロキョロと見渡したら、M先輩を見付けたよ♪

同じクラスのお友達と座って話してた。

でもなんか元気がなさそう…。
寂しいのかな?
ひょっとしたら、もしかして、もしかして?

「ほら朋ちゃん、ラストチャンスだよ、行っておいで!」

梅ちゃんがアタシの背中を押してくれた。アタシは自分でも分かるぐらいに顔を真っ赤にして、M先輩の前に行ったの。

「せっ、先輩!M先輩っ!」

「あっ、福本さん。どうしたの?」

「先輩の制服のボタン、下さい!」

アタシのその声を契機に、先輩の友達がオーッとか、ヒューヒューとか言って囃し立ててたけど、アタシはM先輩しか見てないの。

「えーっ、俺なんかのボタンでいいの?」

うん、アタシはM先輩のボタンじゃないとダメ。どのボタンでもいいから、下さい!
そう思いながら、ウンウンと頷いたの、

「じゃあちょっと待ってね、せっかくだから第2ボタンを上げるね。えーっと、ボタンは裏から外して、と…どうやればいいのかな…」

えっ、アタシ、M先輩の第2ボタンがもらえるの?

やったー\(^o^)/

でも第2ボタンは、T先輩のものじゃないのかな?いいのかな?

「はい、第2ボタン。大切に持っててくれたら嬉しいな」

M先輩、照れながら大事な第2ボタンをアタシにくれたよ。

「先輩、ありがとうございます!大切にします!」

第2ボタンを持ってみんなの所に戻ったら、みんなが凄いじゃん!第2ボタンってどんなの?って、キャーキャー言ってくれて、なんとなく気分が舞い上がっちゃった(n*´ω`*n)

とても嬉しかったから、その日の夜、アタシ、先輩に感謝と、T先輩とどうなったのかの疑問と、好きでしたって告白の手紙を書いて、こっそりと先輩の社宅の郵便受けに入れておいたの。そしてその手紙で、豊橋に引っ越すことも先輩に明かしたの。

そしたらね、次の日にすぐ先輩からお返事が来たんだよ。公立高校の受験が迫ってるのに。

≪福本さん、お手紙ありがとう。第2ボタンを喜んでくれて、とても嬉しいです。福本さんの疑問だけど、僕は1月下旬に失恋しました。だから2月からは独身だよ(笑)。福本さんに告白してもらえて、とても嬉しかったよ。もっと早く福本さんの気持ちに気付いて上げれてたら、自分も福本さんも、もう少し楽しいバレンタイン、卒業式になったかな、なんてね。その頃は(いや、今も?笑)心の中がズタズタだったから…。
でももうすぐ豊橋に行っちゃうんだね、驚いたよ。福本さんが豊橋にさえ行かず、引っ越しが無かったら、喜んで福本さんの告白を受けて、お付き合い出来るのにね。でも自分みたいな男のことを、とても大切に思ってくれていて、感謝です。本当にありがとう。豊橋に行っても、元気でね。ホルンも続けてね!いつかまた会える日が来るのを楽しみにしてます。じゃあね!≫

先輩からの手紙、あっという間にアタシの涙でグシャグシャになっちゃった(ノ_<。)

先輩、T先輩と別れてたんだ…。
だから卒業式の後、寂しそうにお友達と話してたんだ…。

この手紙は、アタシの一生の宝物にするんだ。

アタシはこの先、豊橋に引っ越して、M先輩以外の人を好きになって、いつかは結婚するかもしれない。

だけど、初恋相手がM先輩で本当によかった!
絶対に先輩のことは、忘れたりしない!
こんなに優しくて、人を思いやることの出来るような素敵な男の人、この先のアタシの人生で現れるかな。

M先輩と出会えて、心から幸せでした。さようなら、M先輩。

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最終回ということで、又も超長文になってしまいました。

最後までお読み頂いた方、ありがとうございます!

私が1月末に彼女さんにフラれ、どん底にいた時に迎えた卒業式の後、後輩の女の子が勇気を振り絞るようにして、私にボタンを下さい!と申し出てくれたんです。

その女の子を主人公にして、スピンオフ形式で小説にしてみました。

色々なエピソードは、後日後輩から聞いたものが殆どですが、父親同士が同じ会社の上司と部下というのは本当でして、その関係から母親同士も話すようになり、親経由で聞いたエピソード(同じ高校に行きたいとか、豊橋への引っ越しとか)も盛り込みました。

残念ながら文通とかには発展せず、Fさんが今はどこで何をしてるのか全然分かりませんが、元気でいてくれることを願って、3部作を終えたいと思います。

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ミエハル
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