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【最近は、こんな感じ】 大自然に関わっていく。

上海で生活する女の子たちの日常って?
ファッション、メイク、食べもの、よく行くお店。あと、普段考えていること。悩んでいること。そして目標。
そんなあれこれを、同じ目線で聞いてみた。
@mie_shanghai

17 阿琼

<Profile>
阿琼(アーチョン)
生まれ年:1996年
出身:遼寧省丹東市
職業:キャンプ場『TUNA CAMPING』経営
小紅書 @琼77777

木の枝と帆布と麻紐と、
メタルマッチ。
自然に帰る素材と、手づくりの道具で
アウトドアを楽しむ阿琼さんと知り合って、
キャンプの概念が変わった。
山に行きたくなった。


――キャンプ場を経営しているんですね。
阿琼 はい、去年の11月にオープンしました。広さは9000平米です。完成までに1年かかりました。このエリア(奉賢区の南側海沿い)は長江と海が隣接しているので、土壌があまりよくなくて、まずはそこから。土地を整えて、木を植えて野草を植えて。大学で土木工程を専攻していたので、ほぼ全部自分でやりました。キャンプのために土木を専攻したわけではないんですが、勉強したことが役にたったと思いましたね。偶然ですね。

――特にこだわったところはどこですか?
阿琼 野草です。自然に生えている雑草に見えますが、全部自分で種をまいて育てたもの。低くて、一年中緑で、食べても安全なものを選んでいます。野草摘みのワークショップもやっているんですよ。ヘビイチゴとかも植えています。あとは、薪割り大会、火起こし大会、木を削ってスプーンをつくる教室なども開催しています。

――キャンプ場の名前、なぜ『TUNA(マグロ) CAMPING』なんですか?
阿琼 ストレスに弱くて、ずっと泳いでいなければいけない魚だからです。私もそう。手作りとか、遊び方とか自分で決めてやっていく性格だから。自分で考えてどんどんやるとアウトドアはもっとおもしろくなる。実は子供の頃、占いを信じていた母が私に泥遊びや海水浴を禁止していたんです。北方の人は迷信を信じる人が多くて。なのでずっと都会のマンションのなかで暮らしていました。でも、一人暮らしをするようになってその反動が一気に出た(笑)。

“ブッシュクラフトの概念を知って”

――上海はキャンプブームが続いていますが、それと阿琼さんがやっていることは違うなと思っていました。
阿琼 そうですか(笑)。私は2011年、中学生のときに兄と登山に行ってアウトドアの世界を知り、イギリスのアウトドア専門家、レイ・ミアーズのドキュメンタリーを見てブッシュクラフトを知りました。ギアに頼らず、基礎的な道具だけで日常的に自然に親しむ方法。自分で火を起こしたり、木を削ってカトラリーやカップをつくったり。「キャンプ」よりももう少し精神的なものです。

一発で火を起こしてくれた

――そんな阿琼さんから見た上海のキャンプブームはどうですか?
阿琼 きっかけはコロナだったと思います。外に行けない日々が続いたし、友達にも会えなかったから。あとは経済的にみんな豊かになって、個人で特別なことをしたいと考える人が増えたこと。食事やカラオケ、クラブではないな、と思う人も増えた。でも、日常に取り入れるまでには至っていないと思います。公園で、ファミリーでレジャー目的で、という感じ。あとは、まだ視覚的なものが求められている段階。私のキャンプ場に来る人も、ケミカルな感じのテントや椅子ではなく「原木」の感じがめずらしくて、映えるから、という人が多い。考え方や歴史までは伝わっていないと思います。

――阿琼さんにとってキャンプとはどういうものですか?
阿琼 道具を買い揃えることでも、グランピングでもないです。それだとホテルや民宿に滞在するのと同じ。本来の目的は大自然を感じることです。たとえば、少数民族の生活とブッシュクラフトは共通点がたくさんある。以前、中国の北方に住むオロチョン族の村に滞在したことがあるのですが、彼らはマイナス30度のなかで頑丈なテントを20分くらいで設営できるんです。大自然のなかで生活するってそういうこと。

阿琼さんの『小紅書』より

――なるほどー。
阿琼 私たちのキャンプ場にあるバンガローも手づくり。釘を使わないでつくっています。あとはテント。自然素材の帆布なので、ちょっと発酵してカビてしまってるんですが、すごく頑丈なんですよ。もちろん縄で縛ってあるだけ。去年、上海に大型の台風が直撃しましたよね? あのときも倒壊しなかったんです。

湿気の少ない北方から取り寄せたテント。上海では発酵してしまった

――では、キャンプ以外のことについて。上海の市街地に行ったりはしますか?
阿琼 しないですねー。お勧め店? ないです(笑)。ファッションもまったくこだわっていません。強いて言えばアメカジ系が好きだけど。でも、服も買わないで自分でつくったりしてます。

――キャンプ以外に趣味はありますか?
阿琼 ゴーカートでのレースやバイクにハマっていた時期もありました。でも、最近は洞窟探検ですね(※記事下参照)。洞窟に入ると五感が研ぎ澄まされる感じがするんです。ところで、このキャンプ場があるこの地域は何にもないように見えますが、少し行ったところにテスラの工場があるんですよ。なので、レストランのデリバリーやECでの買い物は実は市街地並みに便利なんです。

“悩みは、山のゴミ問題”

――大変だなと思うこと、困っていること、悩みはありますか?
阿琼 私がアウトドアを始めた頃はキャンプもそんなに流行っていませんでした。だから、たとえば3年ぶりに登る山は3年前と変わっていませんでした。でもいまは、ちょっと久しぶりに行くだけで登山道やキャンプエリアがゴミだらけになっている。経験のない人が一過性の趣味として来るからだと思います。中国のいい山には水源も多いのですが、そこが破壊されていたりもする。だから、定期的にボランティアの仲間と山へゴミ拾いにも行っています。そういうイベントは地方政府も歓迎してくれますね。

――山のマナーは日本でも話題になります。そういった登山客の意識を変えるのは難しいでしょうか。
阿琼 ブッシュクラフトの概念の一つは、深く自然に関わること。でも、まだすごくマイナーな概念です。それを大衆的に広めるのはものすごい力が必要ですよね。大きな宣伝をしないと……。

――目標はありますか?
阿琼 10年後ぐらいに、このブッシュクラフトキャンプの概念が一般的になっていればいいなと思います。それと、この『TUNA CAMPING』を杭州と北京にもつくる計画を今話し合い中。あとは、本場の北米など、いろんなところでキャンプをしたいなと思っています。

――阿琼さんは、ナイフ1本あれば無人島でも全然生きていけそう。
阿琼 経験がないのでわかんないですけど(笑)。でも、釣りに興味がないので食べ物には困りそう。釣りってつまんないですよね(笑)。全然興味ない。なので、くだものがある無人島なら行けそうですね。あとは、ジャガイモの苗。持っていけばすぐ増えるので食べていけそうです。
(取材日:2023年5月22日 撮影地:奉賢区三洪路)


<彼女のお勧め> ※上海周辺のお勧め洞窟

『臥龍洞』(紹興市新昌県穿岩十九峰)
☆3日かけても探検し終わらない、見どころ満載の洞窟。

『金牛洞』(杭州市桐庐県紀龍山)
☆洞窟の天井に穴が開いていて、光が差す様子がきれい。専門的過ぎないので初心者向け。

『富陽仙人洞』(杭州市富陽区新新村)
☆引き返さなければならない洞窟が多いなか、ここは通り抜けられる。


text
萩原晶子
フリーライター。上海にて2007年頃よりガイドブック、ファッション誌、機内誌、ウェブなどの記事を手がけている。
カルチャー誌『Ketchup.』(上海と東京で販売)など。
ins:@hagiwara_akiko_
微博:Akiko06

photo
阿部ちづる
2006年にフォトグラファーとして独立。ファッション誌、ビューティー誌、週刊誌、写真誌等のグラビア、ポートレート写真を撮影。アイドルグループやグラビアモデルからのアーティスト写真撮影で指名されることも多く、女の子の新鮮な表情を切り取る。
佐々木希『ささきき』(集英社)、武田玲奈『Rena』(集英社)ほか多数。
ins:@chizuru0821
https://lov-able.com/photographer/chizuru-abe


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