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原発への投資回収ってこんなに大変なんだ!


原発の投資回収のリスク=とても正直なプレゼン

デロイトトーマツの桶野さんが第38回原子力小委員会で「次世代革新炉への投資や再稼働投資に関わる 原子力事業環境面での課題」https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/denryoku_gas/genshiryoku/pdf/038_04_00.pdf というプレゼンをしました。その内容がとても正直なもので驚きました。

長期脱炭素電源オークション==原発を支援するけどまだ足りない

このプレゼンは、2024年1月から始まった長期脱炭素電源オークションという制度について、原発の新規立地、リプレースも対象電源となっているものの、昨年12月の原子力小委員会(第37回)において、委員から原子力発電事業への 投資判断を促すための一層の事業環境整備の検討を具体的に進めていくべきとの意見があったため行うとのことでした。
関電社長も1月末に原発のリプレースについて、福井県美浜町の懇談会で発言をしていて、国がどんな原発補助政策を打ち出してくるのか、注目されているタイミングなのです。

総括原価方式でコストがかかればかかるほど儲かっていた電力会社

電力が地域独占の時は、総括原価方式により安定的に費用+資金調達コストの回収が可能 で、原発の 建設中も、建設仮勘定の1/2は規制料金のレートベースに算入され、また、運転終了後に発生する費用も原価算入が可能で、費用がかかり運転までに長い時間がかかる原発をどんどんつくることができました。しかし電力自由化になったので、投資リスクの回収ができないという説明がありました。
以下の表をみると、2022年度、再エネの発電量は23.3%、原発の発電量はたったの5.9%。太陽光は出力制御(
*3)させられているのに、ここまで伸ばしてきているのですね。

デロイトトーマツのプレゼン資料 P7  発電電力量と設備容量

長期脱炭素電源オークションとは

もっと原発を増やすために長期脱炭素電源オークションという仕組みを作って支援しようとしていて、この1月からオークションは始まっていますが、まだ原発のリスクを補うには足りないという話で、まず今の長期脱炭素電源オークションの説明から。今回の制度の1番の売りは20年間継続して収入を得られるところ。建設や安全審査などでなかなか発電を始められない原発を援助する制度になっています。

デロイトトーマツのプレゼン資料 P9 長期脱炭素電源オークションの特徴

投資・コスト回収面における今後の課題

デロイトトーマツのプレゼン資料 P13 投資・コスト回収面における今後の課題

↑ この原発への「投資・コスト回収面の今後の課題について」のプレゼン資料 P13 が とても正直!

バックエンドの不確実性

まず最初に「事業期間が長期に渡ること、バックエンド事業に不確実性があることなどの事業特性に起因して、現行制度では残存リスクが相応に残っているものと考えられる」とあります。
バックエンドの不確実性、原発はまさにトイレなきマンション!という指摘です。

固定費未回収のリスク

長期脱炭素電源オークションでは、入札価格の中の資本費に対して建設費の10%を予備費として計上できるのですが、10%では足りないという指摘です。足りなくなる例として、まずは安全審査で、新知見に対するバックフィットによる追加投資を求められること、あるいは廃炉費用が不確実であること資本コストが上昇すること等が挙げられています。廃炉になった後にどんな費用が必要になるか見積もることができないので、回収不能になるおそれがあるとの指摘です。

可変費未回収のおそれ

次の可変費ですが「一時的に可変費が市場価格を上回る状態になっても通常は運転を継続するため、多額の損失が生じる可能性がある」と指摘されています。つまり市場価格が原発の発電の可変費より安くなっても、原発は運転を止めるわけにはいかないので、動かせば動かすだけ多額の損失が生じるという指摘です。これはとても重要な指摘です。
電気代が高い高いと言われてましたけど、今年2月の平均価格(システムプライス)は9.36円/kWhでした。3月1日の最低価格は12時30分の6円/kWh、最高価格は18時30分の15.45円/kWh。原発は動き出したら100%で動き続けますから、価格の変動に合わせての出力調整はできません。

固定費、可変費の説明など、より詳しいことは*2に書きましたのでご覧ください。

使用済燃料関係費用は事業者が制御できない

可変費に事業者による制御が難しい費用(使用済燃料関係費用等)が含まれる」これも重要な指摘だと思います。核燃料サイクルは破綻しているのに、政府はそれを認めません。再処理工場が動かないので、使用済燃料の持っていく先がないという現実を政府も電力会社も認めることができず、その場凌ぎの嘘とごまかしを続けています。この現実と真摯に向き合い使用済核燃料などのコストを明らかにしないと回収はできません。

容量収入を得るのは発電した後になる

次は巨額の初期投資が必要かつ、建設リードタイムが長期間となる原発ですが、容量収入 を得るのは運転開始後以降となってしまう。またMOX燃料加工に関する拠出金の費用計上・資金回収も事後となるので、発電事業者に長期的な資金負担が生じるという指摘です。
運転開始前から援助をしないと新規原発やMOX燃料を進められないということです。関電の株主総会で「MOX燃料はウラン燃料に比べて高くつくけどどうするんだ」と聞いたら、取締役が「経営努力で吸収うんぬん」と回答したのを思い出しました。MOX燃料がウラン燃料に比べてどれくらい高くつくのかを明らかにせず、経営努力で吸収できる範囲のものだとごかましてプルサーマル発電をすすめてきた関電。そんな関電が今度は使用済MOX燃料をフランスに運んで再処理すると言い出しました。それをもっと支援しろなんて、いい加減にしてもらいたいです。

原発はいつ動かせるかわからない

その次は原発は運転開始時期を正確に予測するのが難しいので供給開始期限の不確実性が高く、一部のコスト回収が困難となる可能性があるとの指摘です。なかなか安全審査が通らず、再稼働できない原発が多いという現実。
正月の能登地震で、原発を動かせるところは地震大国日本にはないことがわかりました。いくら長期脱炭素電源オークションで援助しても、地盤の安定性や避難計画の実効性を担保することはできません。

事業報酬率にリスクが反映されていない

最後はいままで列挙されたような事業リスクが事業報酬率に反映されていないという指摘です。
それはなぜか。ここに列挙された原発の事業リスクを政府も電力会社も認めてこなかったからです。むしろこのリスクがばれないようにごまかしてきた。しかし、助けてもらえないと原発を増やせない。原発を増やせないと原子力に未来はない。だから今この時期にプレゼンが行われたのではないでしょうか。

投資リスクのある原発を動かすにはやめて

私たちは「原発は投資回収リスクがこんなにある電源だ」という今回のプレゼン内容をもっともっと広めていく必要があると思います。
そして、ここまで詳細に原発への投資回収リスクを専門家から指摘してもらい、原子力小委員会でプレゼンまでしてもらったのですから、電力会社の取締役の皆さん、今後裁判になっても原発の投資リスクを「知らなかった」ではすみませんよ!と言いたいです。
電力会社の取締役には、国に援助政策を求めるのではなく、投資回収リスクの高い原発と縁を切ることを選んでもらいたい!!です。

*1 このプレゼン資料にはまだこの後「ファイナンスにおける課題」の説明が続きますが、長くなるので今回は投資回収までにします。「 原子力発電事業を担う運営主体の財政状態の改善」など重要な指摘が続いています。ぜひご一読ください。表題の画像はこの資料のp13です「次世代革新炉への投資や再稼働投資に関わる 原子力事業環境面での課題」https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/denryoku_gas/genshiryoku/pdf/038_04_00.pdf

*2 固定費と可変費について
固定費というのは発電してもしなくてもかかる費用のこと。たとえば人件費とか修繕費とかになります。可変費は発電すると増える費用のこと。発電所が動いた比率によって変わるので、可変費といいます。例えば燃料費などになります。原発は固定費の比率が高いので、動かなくてもすごくお金がかかります。「原発が再稼働すれば電気代が安くなる」といいますが、決して原発の発電コストが火力などに比べて安いからではありません。停止している原発にものすごくお金がかかるからです。
火力発電所は稼働した分だけ燃料を使いますから、可変費の比率が高いです。
このプレゼンの指摘=「一時的に可変費が市場価格を上回る状態になっても通常は運転を継続するため、多額の損失が生じる可能性がある」というのはとても深刻な問題です。原発の可変費はとても安いので、それさえ下回る事態は原発が動けば動くほど赤字になるということ。本文でも書きましたが原発は出力を調整できません。赤字なるとわかっていても停止することはできないのです。どんなに市場価格が安くなっても原発が損しないように援助しようというのですから、とんでもない話です。

*3 いま電力会社の多くは、太陽光発電の発電量が多くなりすぎると電力供給が不安定になるとして、太陽光発電を停止させています。これを「出力制御」と呼びますが、昨年1年間でこれが19.2億kWにもなっていたことが報道されました。追加費用のまったくかからない太陽光の電気を捨てているのです。もったいない!

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