不条理 Ⅰ
そこは城と呼ぶには余りに粗末で
家と呼ぶには余りに豪華で
時に悲しい声で
時計のカッコウが鳴く
その館の中には
負の渦巻きが常に吹き荒れている
安っぽい愛など吹き飛ばされる
謀などは当然
解体されて霧散する
だが彼女は違っていた
あの渦巻きと一緒に暮らし始めた
ウズマキはまるで彼女のペットの如く
穏やかになったのだ
彼女は何者?
ウズマキの心を操る女
巷の人々は彼女を「魔女」と呼んだ
自分に理解出来ない者は
悪魔や魔女にしてしまうのは
この街でも変わりはない
しかし彼女は一人で館の管理をし、
掃除をしながら歌っていた
愛の歌を
それは人々の心に染み入り
街の人々は その歌声の美しさに惹かれ
暫しウズマキの事を忘れていた
ウズマキは彼女がいなくなったら
また荒れすさんでやるぞと
言わんばかりだった
ある日彼女の歌声が聴こえなくなった
不審に思った人々は館に行ってみることにした
館には 大きなすり鉢状の穴ができていた
もうウズマキはいなかったが
彼女の姿も見えなかった
その穴に何かハンカチなどを投げると
蟻地獄の如く吸い込まれて行った
彼女は穴に飲み込まれたのか?
ウズマキの生贄にされたのか?
それとも.…
人々は皆 怖がり祈りを捧げると帰って行った
彼女は何処へ?
誰にも 答えられる筈がなかった