夏が退去してくれない
夏がしつこく不法滞在を続けている。けしからんことである。
最近涼しくなってきたので運動を再開した、なんて記事を書いた翌日にこのざまだ。いつまで私はアイスクリームを食べればいいのか。
確かに一番暑い時期は過ぎたように感じるが、それでも日中の気温は未だに三十度近くまで上がる。どう考えてもおかしい。日焼け止めも貫通しそうな勢いなので、怖くて外出できない。おかげで原稿が進む一方だ。ずっと家にいるからnoteの更新頻度も上がり続けている。
……あれ? 酷暑が良い方向に働いている気がする。
じゃあやっぱり暑くていいじゃないかと言われそうだが、そろそろ私も着飾って外に出たい衝動がですね、出てきたんですけど。
ずっと家の中にいると頭がおかしくなりそうなんですよ!
ノースリーブを着こなして街を練り歩きたいんですよ!
今年は鬼の執念で体を絞ったのに見せる機会が全然ない。残念なことである。
ちなみに私は服のセンスが歪んでいるようで、母に会うたびにこんなことを言われる。
「お願いだから隣に立たないでほしい」
「見えてはいけないものが全部見えている」
「露出癖でもあるの?」
「それを着て歩けるのはあんただけ」
「子供には見せられない」
言っておくが私は変態ではない。むしろ大人しいし気が小さいし恥ずかしがり屋である。人と目を合わせるのも苦手なオドオドしたオタクだ。それなのに破廉恥な服装を好むのは、とりあえず派手な服装をしておくと怖いお兄さんに絡まれなくなるからである。大人しい清楚系ファッションが一番チンピラを寄せ付けるのを経験上知っているのだ。
あと自分から恥ずかしい格好をすると羞恥心が一周回って吹き飛び、「もうどうにでもなれ」という気持ちになって、堂々とした態度を取れるようになるのもある。通行人が気まずそうに目を逸らすのも心地よい。こちらが照れる前に先に向こうを照れさせれば主導権を握ったような感覚になり、小心者でも街を歩けるようになるのだ。
……まあ異性から注目されるのが気持ち良いという感覚もなくはないのだが、それは私が肌露出する理由の二割程度に過ぎない。
非武装こそ究極の力、持たないことで持つ者を圧倒する。
想像してほしい。戦場のド真ん中で、パンツ一丁で闊歩している者が居たら逆に怖くないだろうか?
「あっ、あれ罠だわ。多分あいつ撃ったら爆発するわ」
と変に勘繰ってしまって、誰も銃口を向けなくなる気がする。全身フル装備の兵士より狙われにくくなるまである。
私がやっているのはそういうことなのだ。
臆病者だからこそあえて無防備な格好をする、そういうわけなのだ。
……思えば学生時代からずっとこうだった。中学の時には「何が目的なの?」と言われるくらい制服を着崩してきた。いや、虐めを回避するのが目的なのですが。以前の記事でちょっと紹介したESFPの女子に「胸を開けすぎ」と呆れられたのが懐かしい。それもこれも全て幼稚園の頃に虐められていた反動で、ひたすら怯えているだけと思えばむしろ哀れですらある。
私の感覚からすると全く身なりに気を遣わない人の方が遥かに勇敢だ。人から馬鹿にされたり侮辱されたりするのを平然と受け入れている。あるいは持ち前のコミュ力や迫力で、服装に関係なく攻撃を回避しているのだ。残念ながら私には出来ない芸当だ。私はどこをどうやっても迫力が出ないらしい。そしてネットではペラペラ喋っているがリアルでは口も重い方である。皆よりワンテンポ遅れて喋っていることがよくある。すぐ妄想の世界に浸るので妙なフレーズを口走っていることも多い。
だが他人の情緒を読み取ることはできなくもないので、無難に皆の機嫌を取るようなセリフは言える(ちょっと遅れたテンポでだが)。
随分と気が小さいことを言っていると思われそうだが、実際に気が小さい。少しでも反対意見をぶつけられようものならオロオロし、自分が悪いと即座に思い詰め、哀れなほど黙り込み、すぐさま泣きそうになってしまう。気に入らない権力者に反抗している時は割とメンタルが頑丈なのだが、友達や家族との争いはてんで駄目である。好きな人と争うのは耐えられないのである。あっという間に涙目になり、「私が死ねばいいんだよね?」みたいなセリフが口から出てきて、気が付くと周りに慰められている。
そういうわけで私は「ド派手な服装をしてるのに喋ると弱そうでトロい人」という印象を持たれがちだ。
こうなるともう黙っていた方が強そうに見えるのかもしれない。
そしてやっぱり、自衛のためにも破廉恥コーディネートを続けた方がいいのだろう。だって中身が弱すぎるのだから。
だから夏場は私と相性が良い。
肌露出で自分を強そうに見せかけるのが容易だからだ。
問題は冬である。寒いからという理由で厚着をすると、途端に私は見た目も弱そうになってしまう。恐ろしいことである……。
冒頭で残暑をけしからんと述べたが、実は暑さが続いた方が私にとっては都合がいいのかもしれない。