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声を追いかけて

今日は、12月で30周年を迎えるゴスペラーズのメンバー酒井雄二さんの誕生日だ。高崎音楽祭のビッグバンドコンサートも開催されるとあって、ふわっと幸せな空気に包まれている。最近は30周年を記念して、YouTubeで過去のG10〜25までのライブ映像が公開された。それを観て新しくファンになった方もいて、ライブのチケットを買いました!という報告をみてニコニコしている。30年目で新規のファンができて、初めてライブを観るなんて、本当に素敵。趣向を凝らされたライブになるだろうから、きっともっと好きになるだろうなぁと遠くから嬉しく眺めている。

11月には新しいEPの「Pearl」が発売し、これから12月の武道館まで3ヶ月はお祭り騒ぎだ。ゴスペラーズが武道館や大阪城ホールと大きな場所でライブするのは久しぶりだそうで、どんな演出でセットリストなのか楽しみにしている。

思えば、小さなライブハウスも大きなホールも、浜辺やお寺もあったなぁ。雪まつりや避難所の方へ歌を届けにいくときもあった。ゴスペラーズ本当に色んなところで歌っている。

近年、わりとフェスにも出かけたり、新しい人たちと一緒にやったり。せっかくのお誕生日なので、5月に行った野外イベントからずーっと思っていた「おでかけゴスペラーズ」の良さについて書き残しておきたい。


2024年のこどもの日、天候は晴れ。日中は30度に迫る夏日の立夏。お台場で開かれた「ゴスペラーズ LIVE in お台場」に出かけた。

春と夏の間に開かれたライブ「billboard classics The Gospellers Premium Symphonic Concert 2024」のそのまた合間に開催されている、ゴスペラーズのお出かけイベントだ。

ツアー幕間のお出かけライブにワクワクしながら「何をやらはるんやろか」と楽しみでもあるし、何を歌われるか全くわからなかった。シンフォニックコンサートでちょうど「Mi Amorcito」の濃紺の雰囲気に殴られて、ふらふらと仙台を後にしたところ。夏前のいちばん良い気候であったが…。

すごく風が強くて、肌寒い日だった。お台場は海沿いで潮風が強い。いつも一緒に見ている友達は前方に配され、後ろのほうに並んでいると他の友達が一緒に見てくれるというので一番後ろから眺めることにした。

侍ゴスペラーズから始まり、ひとりや永遠になど定番曲の後、苗場からひそかにゴスペラーズでブームかもしれない「CENTURY」が歌われた。

大風。海から吹き上げる風に、声が煽られ「おーぉおおおぉおおお!!」のハーモニーがまるで叫び声のようで、迫力があって良かった。5人の大声がわりと好きだけれど、そろってワッと出す歌って実はそんなに無いと思うので、風の強い日ならではなのかもしれない。

その中でも、特に気に入ってる数曲を書き記す。

「海の見える午後」

あの強風の中でよくぞやったな…という、歌そのものの良さと共に、ロケーションにも感動してしまった1曲だ。この日は本当にとても風が強く、マイクに風が当たると風音が入るような、アカペラをやるには環境的には整ってない状態だった。

それでもなお、ベストを尽くす侍に胸を打たれる。必ず100点満点中2億点をたたき出すでおなじみの五人ではあるが、風や雨、雪、湿気と温度はどうしようもない。

そこで主メロの酒井さんは、柔らかくマイクに声を拾わせ、風に負けないように…どうやったんだろう。

聴こえてきた音は、荒井由実作品の持つ情景と心情の美しさを下敷きに、映画を語り聞かせるような、どこか他人事のように美しく歌う「声」だった。あの歌は基本的に酒井さんが主メロを担当し、ほかの4人は柔らかなハーモニーで景色を作る。

その中を、汽笛のように美しい声がぴゅーっと通っていった。横浜の響き歌では、どこまでも優しくソーダ水の泡のような、はかない恋の散り際のような。手で触れることの叶わない切ない恋心を歌っていたが、今回は少しニュアンスが違ったように感じた。高音の効きがよかったのかしら。

美しかったことは、言葉にして残すが「なぜ美しかったのか」は全然わからない。不思議な歌声だった。力強いのにどこか嘘のように美しい。現実味の無い音に陶然と聞き入る。歌い方の工夫なのか、それとも声の質なのか。理由がわからないからこそ、心に残る歌声だった。

そして愛してやまない「Mi Amorcito」は強風が舞台装置となり、それはもう素晴らしい、映画のような4分間だった。

横風がステージに向かって吹き込み、舞台を揺らすような勢いだった。カレー部の二人どちらかが心が折れると、もう終わる情熱曲が始まる。ばっさばっさとジャケットや髪の毛を弄る風に、負けない歌声と顔の強さが目に焼き付く。歯を食いしばり山を登っていくクライマーのようだった。顔が怖い酒井さんにしかない良さがある。ほんと、鬼気迫る酒井雄二いい…と、ギュッと見ていた。

ジャケットがひるがえり、黒沢薫が叫び、酒井雄二が「いっそこのまま、く、る、いったい!!」と決める世界線。私はいつも通り、会場の一番後ろで静かに倒れた。

ここで、大好きなクリーピーナッツと村上てつやの対談を引用したい。

R指定:そういう意味では、ゴスペラーズにもたくさん刺激を受けてます。僕らのマネージャーは以前ゴスペラーズを担当していたんですけど、環境の整ってない地方のライブハウスへ行ったときとか「いや、ゴスペラーズとかこれでもやっちゃうからね」みたいなエピソードを聞かされて、「おっしゃ、俺らもやったるわ」みたいな気持ちになりますからね(笑)。

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どこでもやるのは本当にいい。私は、ゴスペラーズのライブに双眼鏡を持って行ったことが無い。その席で見る一期一会の景色を偏愛しているからだ。今回のライブは一番後ろで賛歌して、会場全体の雰囲気を見られて本当に良かったなぁと思う。ファンもたくさんいるけれど、それ以外の人もいて。親子連れやカップルなんかが音楽を楽しむのを一番後ろから眺めるのもこれはこれで楽しい。もちろん一番前で見るのもいいけれど、どこでみてもその景色にしかない良さがある。

クレイ君主催のライブでは、悪天候にゴスペラーズが当たることが多い。前回「LIFESTYLE with DOGS powered by SHEIN」は本当に寒くて、May Jに♪少しも寒くないわ!と歌われても、寒くて寒くて、雨の中で笑ってしまったのを覚えている。

2016年「音霊 OTODAMA SEA STUDIO 2016」ゴスペラーズ × Da-iCEのライブは灼熱浜辺ライブハウスで開催された。今思えばDa-iCEのメンバーも汗だくで、汗が踊るたびに水たまりのように会場を濡らしていた。ゴスペラーズのライブでは、ふっつりとバリケンさんのターンテーブルからの音がとまった瞬間があった。

その瞬間、ドンドン!と、酒井さんが足を踏み鳴らし、HBBでリズムを出す。得たりとメンバーがアカペラで歌い始める姿が今でも忘れられない。本当にカッコよかった。

共通項は「音楽を聴く状況が過酷である」ということ。これはこれで実は最高にいい。寒かろうが暑かろうが、雨が降ろうが「今日のベストを出す」ゴスペラーズのライブを見る楽しみがあるから。

おりしも、酒井さんの誕生日。過酷であれば良い…と言うわけにはいかないが、30周年を迎えて海外のイベントも開催され、おそらく全国津々浦々へ連れて行ってくれることだと思う。

先日のG25の映像を見て、辛かった日々に一区切りつけたのだからと弾みをつけて言おう。

どんなところでも、素敵な歌を聴かせてくれる酒井さんの幸せを祈ります。今年も元気で。あちこちのライブ会場で会いましょう。

願わくば、一つでもたくさんの場所で。

心から52歳のお誕生日おめでとうございます。

とても好きです。





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