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パパのウキウキ看病
金曜の晩、夫が買ってきてくれたハンバーガーを食べた後あたりから、吐き気がしはじめた。
ハンバーガーと一緒にフライドポテトも食べたのだけど、古い油でも使っていたのだろうか。でも、同じものを食べた娘や夫は元気そうだ。腰と肩がいつもよりも痛む。うーん。調子悪いのかな。とにかくさっさと寝よう。
翌朝、起床。お湯を沸かして、洗濯をして…と一通りの家事をするも、なぜか食欲がわかない。相変わらずうっすら吐き気がする。でも熱はない、咳もしてない。ほかにこれといった症状はない。
ちょっと油にあたっているのかもしれないけど、これくらいならいけるだろう。よし、といつもどおりに学校へ向かった。避難訓練の予定があるし、そのあとは通常授業で、私の授業も2コマある。学年末テスト前の大事な授業だ。休みたくはなかった。
学校で同僚たちに軽食をすすめられ、完食。うん、大丈夫かも。避難訓練が大幅に時間オーバーして授業が流れたが、予想どおり無事に業務時間を終えることができた。
お昼前に学校まで夫に迎えに来てもらった。「お迎えありがと。じゃあ、仕事がんばってね」と家の前で夫と別れるつもりが、夫のバイクから降りて口をついたのはこんな言葉だった。
「吐き気がする。masuk angin かも…」
口に出してはじめて、自分の吐き気が夫に訴えるほどキツかったんだと思い知った。自分のことって案外気づかないもんだな。
*
さて、インドネシアには「masuk angin (マスッ アンギン)」と呼ばれる病気がある。直訳すると「風が入る」という名のこの病気。インドネシアの人々によると、症状は、悪寒がする/火照っている、頭痛、発熱、筋肉痛/関節痛、鼻水/鼻詰まり、体がだるい、食欲がない、ゲップがよくでる(お腹が膨れる)、吐き気がするなどである。
医学名ではなく、日本でいうところの「風邪」に近いと思う。まあ、つまりは体調不良だ。
夫はすぐに「tolak angin 飲むだろ?」と私に尋ね、私がうなずく前に薬局へ向けてバイクを走らせた。tolak anginは「マスッ アンギンになったらコレ」とインドネシア庶民から圧倒的な支持を得ている生薬ベースのシロップだ。
夫は早速シロップをお湯に溶かしてベッド脇まで持ってきてくれた。のど飴のようなミントや生姜の匂いがツーンと鼻に気持ちいい。
「メラントゥーもする?」
「うん、する」
夫はメラントゥーという名のロンボク島秘伝?のまじない的民間医術も頭頂部に施してくれた。夫がこれをやってくれたのははじめてだ。正直いってあまり上手だったとは思えないけど(すまん)、心はこもっていた。
ふへへ、パパの愛情を感じるなぁと私はニヤけながらベッドの中に入った。
*
どれだけ寝たのだろう。アザーン(お祈り時刻の呼びかけ放送)の声が聞こえてきた。誰かが私の額に手を当てている。娘が「パパ~、ママさ、薬飲んでからずっと寝てたんだよ」と話している。ということは、夫が仕事から帰ってきたんだな。ってこれ、何時なの?
ヒャッと目が覚めて時刻を尋ねると、夫が優しい声で「アサールだよ」と教えてくれた。アサールとは夕方のお祈り時刻で15時半ごろだ。
え、アサールなの?と驚いた反応をする私。娘が「すっごくよく寝てたよ」と笑う。夫はそれを聞いて安心したのか、またすぐに職場へと戻った。
夫の職場は我が家から1キロほど。夫はバイクを使うので数分で行き来できる。だけど、普段はこんな時間に帰ってこない。私が心配で見に来てくれたんだな。
私は洗濯物をとりこみ、いくつかの方面にメールをして、好きな本でも読もうと思ったがどうにも頭に入らず、また寝ることにした。
*
日が落ちる前にまた目が覚めた。吐き気はしないけど、今度は体が熱い。
「プーちゃん、ちょっとママのおでこさわって」
娘はおでこに触れたものの、「よくわからないなぁ…」と体温計をもってきてくれた。37.5度。あ、やっぱ微熱か。
そうこうしているときに、ちょうど夫が帰宅。夫にもう一度シロップのお湯割りを頼んだ。夫は自分のイチオシシロップをおかわりされたので機嫌よく、むしろ心なしか喜んでいるかのような足取りで台所へ行った。
「おいしい?」
「うん。おいしい」
夫はパァッと笑顔になって、さらにたくさんのパンを買ってきてくれた。ロンボク島の村の人達の間では「病人にはパン」ということになっていて、見舞いに食パンとジャムや練乳を持っていく人が多い。噛む力がなくても食べられるからなのかな。
「薬は?」
「いらない。寝て休めばよくなりそうだから」
もっともっと自分の看病で私に良くなってほしい夫は、薬を拒否されて一瞬ムッとしていたけれど、私が多少のことでは薬を飲まないのは知っているので気を持ち直してくれた。
「じゃ、僕(職場に)戻るから。お客様が待ってるんだ」
「わかった、忙しい時間だったのにありがとう。今日、ごはん作れそうにないから外で食べてきてくれる?」
「うん、心配しないで」
夫はまた仕事へ向かった。一体、夫は何度私のために職場を家を往復したのだろうか。
*
朝起きたら、熱が引いていた。今日は日曜日。いろいろ家事もしたいし仕事もあるけれど、どうしようかな。
実は今月は学校行事とその他の頼まれ事が立て込み、若干働きすぎだった。そろそろ休みたいと思っていたから、神様がちゃんと休ませてくれたのだろう。休んでもこんなに温かな夫の手でせっせと助けてもらえるというおまけの証拠までつけて。
じっとするのは苦手なんだけど(だから note 書いちゃってる)、もう一日家族に甘えてゆっくりしよう。
今回は夫のあたたかさをつくづく感じたけれど、娘プーちゃんも隠れ功労賞。なんたって、お昼ごはんを自分で作ったんだもんね。ありがとう。
パパ、プーちゃん、今日ももう一日お願いね。
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