ナイラちゃんの泣き声
インドネシアでは、朝と夕方の一日二回、マンディ(沐浴。水を柄杓ですくって体にかけること)をするのが一般的である。子どもたちも、赤ちゃんのときから一日二回がお風呂タイムだ。
お向かいのナイラちゃん(もうすぐ2歳)は、今朝のマンディの時間に大泣きした。
あまりに大きな声で長い間泣いているもんだから、一体どうしたのかしらと心配になって見に行った。
ナイラちゃんは、庭の日の当たるところにタライを置いてお母さんに水をかけてもらっていた。お父さんもすぐ脇に一緒にいる。
ナイラちゃんの両親はどちらも20代前半の若いカップル(私から見ると若いが、ロンボク島ではありふれたカップルである)。
お母さんは泣いているナイラちゃんを前にしても怒らず焦らず、淡々とマンディをすすめていた。
しかし、ナイラちゃんがしきりに何かを訴えている。
泣いているのと、言葉が不明瞭なのとで何と言っているのかわからなかった。
「ナイラちゃん、どうしたの?」
「〇△&#*〇~~~!!!」
これだけ元気に泣いているのだから、体調の問題ではなさそうだ。シャンプーの泡でも目に入ったのだろうか?
「どうしたの?」とお母さんに向けて聞き直すと、「さぁ…」と半分困ったような顔をしながら静かにほほ笑んだ。
「痛いって言ってるんじゃない?」とお父さんが口を挟んだ。
お母さんがナイラちゃんに尋ねる。
「ナイラ、どこが痛いの?」
ナイラちゃんは足を指さした。
「足が痛いの?なんで?」
「パパ、ベチッ!」
ナイラちゃんは自分の手で足を叩いた。
「パパがベチッと足を叩いたんだね~」とすかさずお母さんがフォローした。
ああ、なるほど、お父さんが叩いちゃったのね。
お母さんはそれを見ていたけどお父さんもすぐそこにいるから、さっきから黙ってたのか。
お母さんと私の目が注がれたのを察知して、お父さんは一言言った。
「ナイラが(一丁前に)報告してやがる~!笑!」
え、そこで笑っちゃえるんだ。
ということは、悪気がないか、私に知られた分の悪さを隠すために自然にでてきたものかのどちらか…たぶん前者だろう。
こちらの人は小さな子どもに本気で怒る前に「それはダメ」の意味をこめて、太ももやお尻を軽く叩くことがあるからな。
ナイラちゃんはたぶん、お父さんに叩かれてビックリしたんだろう。
私はナイラちゃんのお父さんのことはそっと無視した。
「ほんとだねぇ、ナイラちゃん、報告できたねぇ」
そう声をかけると、ナイラちゃんは少し得意になったのか泣き止んだ。二、三度「パパ、ベチッ!」とさっきのリアクションを私に見せてくれた。
あはははは…とナイラちゃんの両親と私は一緒に笑った。
ナイラちゃんもつられて笑う。もう泣いてない。
叩かれて痛かった!と両親にわかってほしかったのだろう。
伝わったら泣き止むんだなぁ。
それにしても、ナイラちゃん、頼もしい!
「叩かれた!イヤだ!」と全身で表現した。伝わるまで。
えらいぞ。
ナイラちゃん、もしこれから先、お父さんにもお母さんにも言えない何かがあったときは、このみどりおばちゃんに言えばいいからね。
そして、ナイラちゃんのお母さんも…若くして嫁いできて、大変なこともいろいろあるだろう。
家族やご近所さんが困っているとき、安心して駆け込めるような存在でいたいなと思った。