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ヴェルディユースは、僕たちの未来です(プレミア参入戦を前に)

ヴェルディが、僕は、僕たちは、本当に大好きです

あれは2010年8月15日、今はなき旧国立競技場。日本クラブユース選手権での優勝を果たした東京ヴェルディユース。そのキャプテンだった渋谷亮が、サポーターに向かって高らかに叫んだ。

ヴェルディは、僕たちの未来です

彼は、実に晴れ晴れしい顔で、そのセリフを言ってのけた。


あの時、東京ヴェルディは、経営難に陥り消滅の危機に瀕していた。明日どうなるのかもわからないクラブを、それでも渋谷亮は「未来」と言い切った
彼の発したセリフに、我々サポーターはどれくらい勇気づけられただろうか。
まだ高校3年生だった彼のスピーチは、僕らの記憶に一生残るであろう、歴史的なものだった。

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東京ヴェルディユース。数々の名選手を生んだ育成組織だ。

古くは読売SCユースとして、松木安太郎や都並敏史といった、日本を代表する選手を輩出した。また、戸塚哲也、菊原志郎、山口貴之、財前宣之と連なる「ヨミウリ天才少年」たちのように、華のあるアタッカーが生まれる土壌があった。

僕の記憶にある限りだと、やはり森本貴幸(正確に言うと、彼はユースすら通らず、中学生でプロになったわけだが)が一番の衝撃だっただろうか。僕は幸運にも彼のJ1初ゴールを現地で目撃したのだけど、手を広げてゴール裏に駆けてきた彼が、自分とわずか5つしか離れていない15歳の人間だとは、どうしても思えなかった。

たくさんの緑の戦士たちを応援してきたけれど、やはりユース出身の選手は特別だった。いくら平本一樹や飯尾一慶が期待を裏切るパフォーマンスをしても、彼らのことは嫌いにはなれなかったし、河野広貴がゴール裏に飛び込んでくる動画は、何度も何度も見返した。


2008年、2度目のJ2降格以来、ヴェルディトップチームはいよいよ凋落していった。「名門」という形容は、皮肉でしか用いられなくなった
それでも、ヴェルディユースは、僕らにとっての希望であり続けた。

2010年、冒頭で述べた「華の92年組」によるクラブユース選手権優勝に続き、翌2011年もヴェルディユースはクラ選を制し、連覇を果たした。その原動力となった93年組—クラ選MVPの杉本竜士、南秀仁、田中貴大、舘野俊祐、端山豪らには、今でもとりわけ強い思い入れがある。なぜなら、僕も彼らと同じ93年生まれだからだ。ずっとずっと、彼らを応援している(ちなみに、俳優の竹内涼真も、この世代のヴェルディユース出身者です)。


さらに一つ下、天才中島翔哉や前田直輝らを擁した94年組は「高校年代最高峰のリーグ戦」プレミアリーグEASTの2012年シーズンで、見事優勝を成し遂げた

クラブ消滅こそ免れたものの、その間、トップチームはJ2に甘んじ続けた。FC東京との差がどんどん開いていった。川崎フロンターレもJリーグを代表するクラブに成長していった。人材も根こそぎ近隣地域の他クラブに奪われていったと聞くが、それでも、よみうりランドの地から、プロへと羽ばたく素材は次々と生まれ続けた。「育成のヴェルディ」は、そう簡単に腐らなかった。華やかで、巧く、解説者が「ヴェルディらしい選手」と口を揃えて表現するような選手を輩出し続けた。ズタズタにされた僕らサポーターの自尊心を、時に彼ら下部組織出身の選手たちが満たしてくれた。

とはいえ、甘いことばかりではなかった。
優勝から2年後の2014年、ヴェルディユースは9位に甘んじ、プリンスリーグ※高校年代の全国2部リーグ相当 へ降格してしまった。その後10年、現在に至るまで、彼らはプレミアリーグに戻れていない。

ユース出身の選手に裏切られた、と思わせる出来事もあった。
いかにもヴェルディ育ちなやんちゃさでサポーターから愛された河野広貴は、最終的にFC東京への「禁断の移籍」を決断した。中島翔哉もまた、そうだった。
クラブの昇格争いの真っ只中に、畠中槙之輔がマリノスへ移籍したこともあった。渡辺なんとかに至っては、腕章を託されてわずか1ヶ月足らずで、同じくマリノスへと去っていった。
クラブの困窮ぶりは多分に影響していただろう。チームをどうにか存続させるために、売られていった選手もいただろう。それでも、橋本英郎が「彼らは本当にヴェルディを愛しているのか」と疑問を呈したのも、また真理だった。

でも、昨年の美しい昇格劇の立役者となったのも、また、ヴェルディ下部組織が生んだ「天才」だった。
森田晃樹の異能さは、ヴェルディユース時代から全国に知られていた。その才能がトップチームで完全に開花するのに少し時間は要したけれど、いよいよ攻守に秀でたセントラルハーフに成長した一昨年あたりから、他クラブからの興味は絶えなかったと聞く。それでも、彼はそのヴェルディ愛ゆえに、チームに残ることを選び、キャプテンとしてチームを悲願のJ1に導き、新しいヴェルディの象徴となった。
僕らの希望が、ついに現実となった瞬間だった

どのクラブにもアイデンティティはある。ホームタウンを背負うこと。観る者を惹きつけるサッカーをすること。たとえ嫌われようと、勝利に徹すること。
じゃあ、ヴェルディはどうだ。結局のところ、それは「ヴェルディにしかできないサッカーをする」という点に帰結するだろう。華やかで、巧く、魅力的なサッカー。そして、その「らしさ」の根幹を担ってきたのは、やはりヴェルディ下部組織が生んだ選手たちだった。

だからこそ、ヴェルディユースは、僕たちの、未来なのだ

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そんな東京ヴェルディユースは、トップチームの躍進に呼応するように、この2024シーズン、実に堂々たる戦いぶりを見せている

彼らにとっての主戦場であるリーグ戦「プリンスリーグ関東」では、マリノスユースや浦和ユースといった強豪チームを押さえ、既に優勝を決めている
残念ながら、ユース日本一を決めるクラブユース選手権こそ、グループステージで敗退してしまったものの、下級生主体のJユースカップでは、実に28年ぶりの優勝を勝ち取った。

目下リーグ得点ランキング1位につけ、来季トップチームへの昇格が決まっている”NEXT三笘” FW川村楽人(高3)や、

「ヨミウリ天才少年」の血筋を継ぐ万能アタッカー MF仲山獅恩(高2)といった、
次代のヴェルディ、ひいては日本を背負って立つであろう逸材が、チームを牽引してきた。

もちろん、既にトップチームに昇格している MF山本丈偉も川村と同じ高3だし、U代表歴のあるレフティ守備者 DF川口和也や 同じくレフティでゲームメイクに長けたサイドバック DF渡邊大貴といった注目株も、同じ学年に名を連ねる。
仲山と同じ高2世代には、U17代表にコンスタントに選出される万能ボランチ MF今井健人や、JユースカップでMVPに輝き、そのサッカーセンスとあまりのインタビュー下手さっぷりを見せつけた MF今井宏亮ら、楽しみな逸材が揃う。
そして、なにより、今年のヴェルディユースは、ただ巧いだけではなく、最後まで闘える強さ泥臭さも兼ね備えている。あなたが今年のトップチームの戦いぶりに胸を打たれた人間であれば、必ずやユースの試合も魅力的に映るはずだ。

2024年、彼らヴェルディユースが残す試合は、あと3つ

まずは、プリンスリーグ関東の最終節、栃木SCユースとの試合が、12/1(日)に控える。

そして、なにより大事なのが、
12/6(金)・12/8(日)に行われる、プレミアリーグへの参入戦だ

この参入戦を勝ち抜けば、悲願のプレミアリーグ復帰が実現することになる。


J1復帰を果たした今シーズン、東京ヴェルディのトップチームは、望外の戦いぶりを見せてきた。それでも、彼らが「王者にふさわしい」なんて、まだまだ口が裂けてもいえない。僕たちは、依然、チャレンジャーだ。

でも、ヴェルディユースは、違う。
彼ら緑の若武者こそ、王者にふさわしい。そのために、まずはプレミアリーグに戻る必要がある。

現地に足を運べない僕なんかがいうのでは、説得力がないのは重々承知だけど(しばらく海外出張続きなので、仕方なくオタマトーンのチャントで念を送ります)、
可能ならば、ぜひ、ヴェルディユースの戦いぶりを、一緒に後押ししてほしい
残念ながら、参入戦はトップチーム最終節の京都戦と被ってしまっているけど、我こそはと思う方は、広島の地で、彼らの闘いを支えてほしい。

全国から猛者たちが集うプレミア参入戦。決して楽な戦いにはならないだろう。だけど、10年ぶりのプレミア復帰を目指すチームと、現地でともに闘うってのは、それはそれは特別な意味を持つんじゃないかなって、思う。
だって、昇格が決まるその瞬間は、あの日の渋谷亮のスピーチと同じく、僕らの脳裏にずっと刻まれるような、歴史的なものになるはずだから


どんな時もユース・ジュニアユースを支え続けた、びすこさんを始めとする若いサポーターたちの熱意に胸を打たれて、自分もこんな文章をしたためてみました。
ヴェルディは、伝統だけがウリのクラブじゃない。若く情熱的な人間たちの手によって、紡がれてきた歴史がまた綺麗な緑で塗り替えられてゆくのだと思う

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