
レモンの木を見て、にまにましている
職場へ向かう道に、たわわに実がなっているレモンの木がある。
住宅街のなか、まずぱっと目に入るのは甘夏と思われる木。ちょうど手のひらにおさまるくらいの黄色い大きな実が、いくつもなっている。重そうなわりに枝はしなることなく、伸びている。
カーブを歩いていくとその先に、レモンの木がある。ぱっと目を引く鮮やかなレモンイエロー。あれは黄色ではなくて、レモンイエロー。
朝の寒い空気の中で、パキッとした色を目にして、シャキッと背筋が伸びる。
毎朝見ては「よかった。まだ実がある。」とほっとしている。
自分のものでもないのに。
あの家の人は、30個くらいはなっているように見えるレモンをどうするのだろうか。
ある日、家の前で売り始めたりしないかと期待しているけれど、特に動きは見られない。日に日に実がきれいな黄色に染まっていくのをみながら、あのレモンを手に入れたら、うすーく切って、はちみつと砂糖に漬けてレモネードを作りたい。レモン入りのジンジャエールもいいな。などと考えてにまにましている。
今週も無事、毎朝見られた。
皮がツルっとしていて、遠目には傷はほとんどなく、大きさも十分。
毎朝見ているものだから、妄想がはかどってしまう。
ピンポーン、「通りがかりのものですが、お庭のレモンをお裾分けしていただけないでしょうか。」
いや、手ぶらじゃさすがに失礼だから…でもいきなり来られて売ってくださいと言われても困るかな、でも手土産っていうのもなんか違う。あぁ、職場の関係者だったらちょっと話がややこしいか…。
無事、レモネードを作れたら、持ってきますね。
そんなやりとりまで、妄想するのに、あの家の人を見かけることもなく、毎朝ただ通り過ぎている。
実がなったまま年末年始のお休みを迎えるのか、ある日収穫されてくすんだみどりの葉っぱだけになった木を見てがっかりする日がくるのか、収穫されずに落ちていくレモンをみつけることになるのか。
今の私の平日朝は、こんな時間が10分くらいある。休日にあのレモンの木を思い出したので、書いてみた。