お酒を飲んだ友人の行動から人間の心理を学んだ彼
人間には色んな感情があるもの。
もちろんすべて良い感情ばかりではなく、
落ち込み、イライラ、怒り、焦り、嫉妬、悔しさ、緊張感、不安、怖れ、恐怖、虚栄心…。
私たちの心の奥には色んな感情があって、数秒ごとに入れ代わり立ち代わり湧き上がっては去っていく。
普段ならそんな感情はコントロールしながら人と付き合うものなのだけど。
その機能をちょっと壊してしまうのが“お酒”…
ある日息子が友人たちと飲みに行った時の話をしてくれた。
友人Aはそんなにお酒が強いわけじゃないのに、勢いで飲んでしまう悪いクセがあった。そして息子はそんな彼があまり得意じゃない様子。
それでも氣の合う仲間との楽しいお酒の時間だったはず。
時間が進むと案の定、A君は歩けないほど酔っていた。みんなでタクシーを呼ぼうとしたが答えない。心の中では「A飲みすぎなんだよっ!」と毒を吐く息子。仕方ないから時間だけでも確認するか、と近くのバス停目指して他の友人と歩き出した。
半分ふざけていた気持ちもあったかもしれない、けど別に意地悪したわけじゃないし、大した道のりじゃない。迷子になると悪いからと道の曲がり角で待っていた自分たちに、ふらつく足で追いついてきたAがキレた。
「なんで具合悪いオレを置いて行くんだーっ!!」「お前ら✕✕じゃねー」
夜中だったから人通りもないし、氣にする人もいないだろうけど。あまりの大きな声に驚くばかり。何よりAが急にキレたことにビックリ。
オレ、悪いか??
一人がバス停の時間を告げに戻ってきた。
「どうしたの??」「…わかんね。で、時間は?」
言葉を交わして目をそらしたすきに、Aの姿は見えなくなっていた。
「やべっ!!」なんでやばいのかもわからない、霧雨のような雨も上がり、彼が持っていたはずの黄色のビニール傘が折れ曲がって転がっていた。
息子はわたしに言った。
「…で、ヤツはその日どうやって帰ったか誰も知らないんだけど、次の日普通なんだよ。普通にラーメン食べに行く話して。記憶とんでんだよな、すげーよ」
いいや。それは違うね。
彼は覚えているよ、しっかりと。
ばつが悪くて、申し訳なくて、恥ずかしくて。
そういう気持ちがあるから、そのことには一切触れないんだよ。
だからいつもと同じようにふるまうんだよ。…まるで何事もなかったように。
「…あ、なるほどね。」
息子はそれだけ言い残してリビングを出ていった。
そんな時にはどういう態度で接すればいいか。
何かを感じてくれたようだ。
そうやって、みんな大人になっていくんだね。