DX3『Humming life Scene.2 海瀬帆波視点』
最初はワーディングの気配なんて無視を決め込むつもりだった。FHの追手だって二度差し向けられたし、もう面倒事はゴメンだって思ってもいた。それでも様子を見に行ってしまったのは、好奇心が半分と、残りの半分は多分、私の悪い癖のせい。
現場に飛び込んでみれば、私はすぐに自分の判断が正しかったと確信した。ジャームの群れに囲まれている女の子。年は私と同じくらいに見える。ワーディングの中で動いているということは、私とはご同類。周囲には、何かに穿たれ穴だらけになったジャームの死体がいくつか転がっている。他のオーヴァードがいないから、あの子が倒したんだろう。なのに…。
女の子は、まだ動いているジャームを前に立ちすくんでいる。その視線は自分を取り囲むジャームを見ておらず、…倒れたジャームに向けられている。
ああもうっ! 声には出さず心の中で悪態をつきながら、女の子とジャームの間に割って入る。上書きするようにワーディングを展開すると、狙い通りジャームたちの視線が私に集中する。
「何してんの、まだ動いてるやつがいるじゃない!」
視線はジャームに向けたまま、背後の女の子に怒鳴る。これは推測に過ぎないけど。あの子が敵を前に動きを止めていた理由。敵じゃなくて、“自分のやったこと”に恐怖してる。能力の制御を学んでないオーヴァードの次に命を落としやすいタイプ。この場に偶然居合わせて、変な正義感を発揮したか。それとも、出来もしない任務をやらされているか…。
どっちにしても、と腹立たしさを感じながら、八つ当たりのように巨大な雷球を放ちジャームの群れを吹き飛ばせば、「私も戦います!」と、ようやく自分を取り戻したらしい女の子も前に出てくる。「やれるの?」と目で問うと、やけにいい笑顔で頷いてくるのがまた腹立たしい。
その後、女の子の知り合いらしい“ちゃんと戦えるオーヴァード”の少年の加勢もあり、ジャームはあっけなく掃討された。お節介とは思いつつも、少年に歩みより耳打ちする。
「あの子、危なっかしいからちゃんと見てなさいよ。今回は私が助けに入れたから良かったようなものだけど…。」
少し恩着せがましい気もするけど、事実なのだから仕方ない。そう自分を納得させると、二人に軽く手を振り足早にその場をあとにした。おそらく少年の方はUGNの関係者だろう。その様子から正規のエージェントということはなさそうだけど、あまり関わりたい相手ではない。
転校の手続きに来た朝に、こんな面倒事に首を突っ込んでしまう自分の性分を呪いつつ、これからのことを考える。
あいつを追いかけてこの街まで来て、通っている学校も突き止めた。転校生として眼の前に現れた私を見たら、あいつはどんな顔をするだろう。そして、あんなことをしてしまった私は、あいつに会ってどうしたいんだろう…。