進言
この作品は、神話部二周年記念企画お題リレーの参加作品です。
自分の作品からお題を考えて、次の方にバトンを渡します。
わたしはトップバッターですので、お題は部長よりいただきました。
お題「記念品」
掌編 進言
アスティカのトナティウの苦悩は、世界の海よりも大きく深いものであった。
代々の神々が治めたこの世界を時代の証人として見続ける、生きた蛇の化石が発する言葉を重く受け留めていた。
戦神でもあるトナティウは、傲慢により利する物は思慮により利するそれに比べれば少ないのだと熟知していた。
これ以上は危機を繰り返してはならぬと顔をしかめた。
太陽の如くこの世を主宰した第一の神はテスカトリポカ。自分に逆らう者などおるはずは無いと尊大であった。
しかし創造主より贈られたジャガーが突然暴走しその世はめちゃくちゃになった。
何とか世を立て直した後、創造主同様己がこの世を主宰した証を示すべく、芽を出した、どんな獣よりも早い「風」を記念に残し、次の神に託した。
そしてテスカトリポカは潔く去って行った。
太陽の如くこの世を主宰した第二の神ケツァルコアトル。
地位を得た事に有頂天となった。
しかし先の記念が仇になった。
風に頼るあまり、力を増した風が突然暴風になりその世のあらゆる建物が壊された。
何とか世を立て直した後、テスカトリポカ同様己がこの世を主宰した証を示すべく、芽を出した、風により力を蓄える「火」を記念に残し次の神に託した。
そしてケツァルコアトルは潔く去って行った。
太陽の如くこの世を主宰した第三の神トラロック。
地位を得た事で油断した。
そして先の記念が仇になった。
火に頼るあまり力を増した火が、突然炎火となり、自らが降らせた雨に乗り移りその世は焼け野原になった。
何とか世を立て直した後、ケツァルコアトル同様己がこの世を主宰した証を示すべく、芽を出した、どんな火をも消す「水」を記念に残し次の神に託した。
そしてトラロックは潔く去って行った。
太陽の如くこの世を主宰した第四の神チャルチウィトリクエ。
地位を得た事で満足し警戒を解いてしまった。
またもや先の記念が仇になった。
水に頼るあまり力を増した水が突然渦を巻き大洪水を起こし、あらゆる町が水没した。
何とか世を立て直すと、残された記念が次々に仇となった現実に懲り懲りした。
そして己がこの世を主宰した証は決して忘れるなと言い残し、太陽そのものを司るトナティウに次を託したのであった。
太陽神として厳格にこの世を主宰するトナティウが深く憂慮するのは、生きた化石である蛇の予言であった。
「獣も風も火も水も太陽の意向に逆らう事はできますまい。
されど大地の揺れ動きは如何ともし難い。地震に気をつけなされ。
かつてのあまりに不意なる暴走にはきっかけとなった事象がございます。
そして地震にとってその事象は、きっかけと言うよりは、しごく直接的。山川を含めてこの世の形が変わってしまいかね無いもので、最大の被害をもたらすものにございます。
かつての災難の際にも地震はあったのです。ただ余り目立たなかった。
しかしながら次に予想される地震はそうはいきませぬ。
さすればその事象をなんとしても回避するか、せめて緩やかなものになさいませ」
「その事象とはもしや」トナティウは思いを巡らせた。
「お気付きになられたようじゃな」そう言うと蛇は頭を垂れた。
三日三晩逡巡した挙句意を決したトナティウは、神々を統率する、とある会合に赴き談判をした。
「皆様の闘志は最大限に尊重いたします。また戒めとして驕り高ぶりに喝を入れる理由があるとは充分に承知。されどこの世に大いなる災をもたらすのは耐えがたく、よって今少し穏やかなる戦いにしていただきたい」
それ程酷い事になるだろうかと神々は腕を組み思案した。
トナティウは、あとひと息で落ちると踏んだ。大切なのは、有無を言わせぬ交渉力のある言いっぷりだ。
そして2秒考えてから、どこぞで覚えたか、平たい顔族とも呼ばれる人間の、商人町の言葉でまくしたてた。
「いっくらでも夢中になりよるんは、よっくわかるで!競技神口を広げたいのもわかる。このパンフレットを見たって、えろう楽しそうやもんな?
そないゆうたかて、あと始末の立て直しにはえろう銭がかかるんや。それともなんでっか?釣が出るほど銭、出してくれはりまっか?」
「そ、それはちょっと……」その場に居た神々は青ざめ「参ったな」と、長老神は盆の窪を叩いた。
「やるな、とは言いまへんわ。ただ地球ちゅう球体を球技のボールにして蹴ったり投げたりする競技は、ちびーっと手を抜かなアカンて!
しかも次の神界スポーツ競技大会じゃあ、手で球を他の星にぶっつけながら弾ませて突っ走るドリブルなんちゅうもんまで良しとするルールやろ?
地球、ぼっこんぼっこんになってまうがな……その後どないせーっちゅんや?たのむでホンマに……」
人間界のサッカーやバスケットボール競技を模し、地球をボールに見立てた神界で人気沸騰のスポーツ競技が実はあると言う。
トナティウが示した、競技を紹介する広報パンフレットを読めば、競技神口の裾野の広がりは想像がつく。
これがパンフレットのそのページだ。
むろん神界スポーツ競技大会では一番の人気で、勝敗予想賭博の売り上げも鰻登りだと言う。
さてさてここからは、あくまでも余談である。
トナティウが神界の会合に乗り込んでから数日後、神界スポーツの球技に対してルール改正が行われたと言うニュースが飛び込んできた。
スポーツ新聞を開くと、オッズにも微妙な変化の兆しが出ていた。
ルール改正は、自らが賭けたチームに確実に有利に働くと踏み、賭けを競っていたスッポンの泣きっ面を思い浮かべ、赤えんぴつを舐めながらニンマリする顔がそこにあった。
場所は老舗両替屋の前。賭け金の積み増しに暖簾をくぐる、生きた化石とも言われる老蛇の姿が目撃された事は、如何なる伝承においても語られる事は無かった。
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*お題とは別に、文中で示したようにすーさん作「神々の球技」へのオマージュ作品です。これは神話部夏の企画「競技」へ参加された作品です。
すーさんありがとうございました!
*統率した神々の名と実際に滅びの原因となったのがジャガー、風、火、水、将来的には地震であると言う部分のみアスティカ神話に沿っています。
そして
●割と辻褄が合わない
●割とコミカル
●割とやったもん勝ち
これが神話の常道でございます。
*次回は矢口れんとさんです。お題は、第一の災難から抜き取りました。
「獣」でお願いします。
企画専用マガジンです。
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