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掌編 三つ山物語
神話創作文芸部の恒例夏企画参加作品です。
今回は神話×児童文学がテーマ。
ちゃんとできてるか… わからないです🥹
掌編 三つ山物語
今はもう遠い遠い昔のお話です。
天に住むひとりの神様が、身の回りのお世話をする天人の娘三人と共に地上を散歩されておいででした。
三方を山に囲まれた村を通りかかった時に、その神様がおっしゃいました。
「今夜お前達はそれぞれ夢を見るだろう。その中で一番良い夢を見た者に一番美しい山を与えよう。残りの山をそれぞれに与えよう」
娘達はそれぞれ胸を高鳴らせて眠りにつきました。
ところが三人のうち一番年若の娘は眠ったふりをしていたのです。そしてそれぞれの頭の辺りに夢花が落ちてきた来た時に、一番大きな花を掴んで自分の頭に乗せてしまいました。
翌朝神様の前に進み出た娘達でしたが、その時、ひとりの年老いた女が通りかかったのです。つぎはぎの粗末な着物を着た老婆は、下半分が白くなった髪の毛を束ねています。
「そなたは神と人を繋ぐと言う巫女であるな」と、神様が老婆に向かって言いました。
「はい、その通りでございます」と答えると、神様は言いました。
「この三人が昨夜見た夢を、嘘を言わぬようにそなたが代わりに答えて欲しい」
「かしこまりました」と、巫女はまず一番年上の娘の背に手を置き答えました。
「竹の中に光る小さな命を見つけるじいさまの姿が見えます」
次の娘の背に手を置き、また答えました。
「月の天女である事を告げた姫様が、持っていた扇を置き、重ねていた着物のうち上着の一枚を脱いで羽衣を身に着け、迎えに来た光り輝く者達と、月に帰る姿が見えます」
最後に一番年の若い娘の背に手を置き一瞬考えてから、こう答えました。
「不死の薬が山の頂で燃え、煙が天に登る様子が見えます」
すると神様はこの巫女婆さまを呼び寄せました。
「手間を取らせた。この行く末を見守ることじゃ。そうすればお前にも良い事があるだろう」
「ありがたきことにございます」と、老婆は答えました。
その後神様は娘達を見つめて言いました。
「よろしい。不死の薬は天にのみあるべきもの。お前の夢が一番良い夢であろう。お前に一番美しい山を与えよう。美姿山と名付けることとする」
神様は、それ以外の山のひとつは光竹山もうひとつは月衣山と名を付け、それぞれの娘に与えることにしました。
一番年の若い娘は大喜びで美姿山の神様になりました。
このことは、村の人々にとって知りようもない事です。
村人はただ「あっちの山」「こっちの山」「向こうの山」などと呼んでいた三つ山に、それぞれ名がある事がどこからともなく知れ渡った頃、困った事が次々に起こるようになりました。
元々あっちの山と呼ばれていた光竹山は、良い竹が生えていて、高く売ることができていました。ところが竹を取りに光竹山に行くと、大木が倒れてきたり斧で足を切ったりと、ろくな事がありません。
そしてきのこや山菜がたくさん採れるこっちの山、月衣山に入った女の何人かは、行方知らずになってしまいました。後には頭に巻いた頭巾やら履物だけが残され、まるで神隠しにあったかのようです。
何日か日を置いてひょっこり帰宅するのですが、女達は何があったのか何も覚えていないと口を揃えて言うものですから、余計に気味が悪くなるのでした。
女が帰らない日の夜は、必ず満月が村を照らしていました。
「山に住む神様が怒っているのだろうか」
「きちんと神様をお祀りしなければ」
村の人々は光竹山と月衣山の入り口に鳥居を建て、祠を置きお供物を供えてから山に入るようになりました。
最初は干した柿や採れた米などを供えていましたが、山のめぐみが前よりも良い値段で売れるようになると、銭や反物を供える者まで出るようになりました。
ただ、向こうの山と呼ばれていたもうひとつの美姿山は美しいだけで、これといったものが採れる訳でもないため放っておかれました。
お供えしたお供物は必ず神様に届くようでした。お供えしてから一日もすると無くなっていましたが、山の神様をお祀りした後は、悪いことが起きるわけでも無く、村の人々は喜んでお供えを欠かさないようにしました。
そして年に一度お祭りを行い、山を大切にしながら平和に暮らしました。
一方で木こりが入るわけでも無い美姿山は、古くなった木の手入れもされずに、だんだんみすぼらしい山になってゆくのでしょうか。それはわかりません。それほどまで、村人はこの山を気に止めてはいなかったという事のようです。
ただ人の入らぬこの山はさまざまな獣の棲家としては上等で、餌を求めて獣が村におりてくることも無かったようです。
そして「今日もまた良いお供物があるわい」そう言いながら、そのお供物を懐に入れては去ってゆく者があることなど、村の人々はまったく知りませんでした。
お供物を黙って頂戴してゆくのは、似つかわしくも無い、金糸の花模様が入った着物を着た老婆です。
この老婆は占いをしながら生活をする、歩き巫女でした。
いくぶん奇妙で目立つのは、束ねた髪の下半分が白くなっているその姿でしたが、村で見かける人の目にもたいして止まる事はなかったということです。
── 神様、このわたくしめは神と人とを繋ぐ者。全てはお心のままに──
今は遠い遠い昔のお話でした。
◇◆ ◇◆ ◇◆ ◇◆ ◇◆ ◇◆
遠野物語の『神の始』を改変し(名称等)、また竹取物語のエピソードを絡めて別の物語に仕立てました。
意味が伝わりにくくなりそうだったので、漢字の平仮名化はあまりしていません😅
小学校高学年であればいいかな?と思い、再び巫女を登場させましたが、少々厳しかったかも知れません(笑)
明日は悠凜さんです。お楽しみに!
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![吉田 翠*詩文*](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/95218590/profile_9dba4d3876244d33cb4e6135eeeaca14.png?width=600&crop=1:1,smart)