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その病院には会計窓口が存在しない イギリスで入院した話①

「痛い」と気がついた時には、すでに右耳の裏側はぷっくりと腫れていた。
「虫か何かに刺されたのかな?多分」
そう思った私は、そそくさと着替えを済まして友人と5キロほどランニングをし、次女の友人の誕生日会に出席し、子どもたちと共に入浴して、ゆっくりと眠りについた。

次の日(その日は日曜日だった)目を覚ますと、体がなんとなく重い。
そして、何かに刺されたであろう右耳の裏は、ボコんと腫れていた。
「マズい、これは熱が出そうな体調だ。そして、虫刺されもなんだか悪化している。」と思った私は、簡単な朝食を子どもたちに食べさせるとベッドに横になって大人しく過ごすことにした。

運悪く、夫は日本に出張中で、帰宅は明後日。
今から夫の母に手伝いに来てもらうのも気が引ける。(同じイギリスに住んでいる日本人同士とはいえ、2時間半の距離がある)

「仕方ない。薬を飲んでみよう。」

そう思って、日本から持ち込んだ「半分が優しさ」でできている痛み止めを飲んだ。
今日は、娘たちと近所の動物園に行く約束をしているのだ。
幸い薬はよく効いて私たちは無事に動物園までやってくることができた。
が、しかし、である。
ヤギに餌をあげている辺りから、真っ直ぐ立っているのが辛い。
かなり熱が上がっている予感がした。
私は娘たちを説得し(いや、半ば脅して)家路へと急いだ。
たぶん運転するときには平衡感覚は取り戻しており、無事故で家に着いた。
帰り道にイギリスの容赦無く効く風邪薬と、チョウメンという餡掛け中華麺を買った。

イギリスの風邪薬は本当によく効く。
なんとか子どもをお風呂に入れて「明日には良くなっていますように」と願いながら眠りについた。

月曜日。体調は全く良くならない。
イギリスの容赦無く効く風邪薬を飲み、朝ごはんとお弁当を作る。
子どもたちを学校に送り、寝る。しかし、私の体調は良くならず、さらに顔の右側が赤く腫れてきてしまった。

火曜日。イギリスの容赦無く効く風邪薬は、熱を取る変わりに私の胃袋を痛めつけていた。
「胃が痛くてこれ以上薬は飲めない」そう判断した私は、39度を超える熱でフラフラしながら、朝ごはんとお弁当を作り、子どもたちを学校に送り(歩いて行ける距離で本当に良かった)布団に横になった。
運よく夫はイギリスに到着していて「即帰る!」と連絡をくれた。

もう42歳にもなるのに、困るとすぐに実家に相談してしまうのはなぜだろう。
私は遠く離れた日本に住む日本の家族にLINEをした。
すると母と妹(海外駐在経験がある)から、即病院に行けとの連絡が来る。
試したことはないが、イギリスの病院はちょっとの熱くらいでは診察してくれず、予約ができるのは1週間後だそうだ(そんなに待ったら治っていそうな気もするが)。
妹は遠く日本から「緊急窓口に行け!」と言い、熱が高くて運転できそうにないと言うと「ならば救急車を呼べ」と大袈裟なことを言ってくる。
仕方ない。私は重い指を動かしながら救急車を呼ぶかどうか判断するサービスに電話をかけた。(日本で言うところの#7119である)

さて、相手はもちろん英語だ。ただでさえ英語ができないのに熱もある。
一生懸命に伝えようとするものの「右側が腫れています。」という言葉すら英語では出てこない。
代わりに私の口をついて出たのは
「My right side face looks bigger and color is red purple.」
(なんか私の右側の顔がおっきくなっていて色が赤紫)
だった。

腫れている以外にも熱が高いこと、発熱して3日目などの事情を伝えると
すぐ緊急窓口に行くように勧められた。
電話先の相手は「日本語の通訳はいる?」と聞いてきた、が
今ので大体伝わったなら、大丈夫。いらないと思う。と答えた。
すると相手は
「運転ができないのであれば、タクシーを迎えに行かせます。この後電話もしますね。20分待って」と言って(と思う)電話を切った。

40分ほど待つと、男の人から電話がかかってきて病状を聞いてくる。
私は、もう一度必死の英語で病状を伝えるとその相手も
すぐ緊急窓口に行くように、そしてタクシーを向かわせるからと住所を確認してきた。

電話を切ってから1時間半後、タクシーより先に夫が家に到着し
私は無事に病院の緊急窓口までたどり着くことができた。
続く)

(ちなみにこれは6月の話なのだが、いまだに我が家にはお迎えのタクシーは来ていない。多分、熱で聞き間違えたのかな?どうかな??)

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