またトラ (2): トランプ再選の理由 / トランプのカリスマ性
民主党内でいろいろと敗北の原因を模索中であるが、まずは何と言っても、トランプは共和党の有権者に対しては顕著なカリスマ性があったということが挙げられる。
共和党の有権者のうち「何が何でもトランプ」というハードコアなトランプ支持者は40%弱。「やっぱりトランプかなぁ、トランプでいいんじゃ?」くらいの人は30%。残りの30%は「トランプはもう避けたい」。
2021年1月の議事堂占拠事件、ジョージア州に対して「あと 11,780 票見つけてこい」との命令・・・ほかにもいろいろあるが、これだけでも明らかに、明らかに憲法違反、民主主義への冒涜である。それでもなお、共和党有権者のうち70%近くの支持率を得ている男。これが不思議でなくて何なんだろう。
人の好き嫌いは、言葉で説明するのは難しい。恋愛と同じだ。トランプには特定の人を惹き付ける何かがある。容姿だったり、雰囲気だったり、話し方だったり…。トランプには、温かい、素朴なおじさん的な雰囲気は確かにある。そこが一部の人にはウケるのだろう。昔はタレントとしてテレビ出演もよくしていたし、人の心をつかむコツを体得しているのだろう。日本にもトランプファンは結構いるそうで、びっくりする。元駐米日本大使の杉山晋輔氏は、「トランプさんは滅茶苦茶なんだけど、本質的にとても心が温かい人」と、ある対談で言っていたが、その理由として、安倍総理が殺害されたときのお悔やみの手紙の内容がとても心温まる内容だったとか、一対一で話し合うと、熱心に話を聞いてくれるし、肩をポンポンと叩いたり、腕に触れたり、温かい人オーラ満載だったとか… 「いい人」のように振る舞うなんて、短時間なら誰にでもできることだし、トランプは、自分におべっかを使う人が大好きで、そういう人に対しては優しく振る舞うのは誰でも知っているから、それだけで「本質的に温かい人」はないだろう。それよりもトランプ前政権で彼の側近として毎日勤務していた人のうち30人近くがトランプは「超自己中で、冷酷な、とんでもない人間だ」と言っている。側近たちにそんなことを公に言わしめた大統領がかつていただろうか? 民主党大会で演説を行った反トランプの共和党員は5人もいた。こんなことは前代未聞である。他にも、反トランプ共和党員同盟みたいなものもあった。リズ・チェイニーとディック・チェイニーの反トランプぶりは日本でも報道されたと思われる。
Fareed Zakariaというジャーナリストがいるが、彼はCharlie Roseとのインタビュー(2024年の選挙前)で、移民を受入れ、自由で、新しいアイデアにオープンな社会がモットーだったアメリカは1990年代あたりから、だんだんそういったリベラルな社会に対向する「バックラッシュ」(特に、田舎に取り残された共和党支持者の白人労働者にその傾向が強い)が始まり、トランプの出現はその流れのひとつだと語っている。「トランプは、政治的な天才と言ってもいい。2016年にトランプがヒラリー・クリントンに勝ったのは単なるまぐれである。注目すべきなのは、共和党の予備選挙である。候補者は上院議員、下院議員、州知事、等々、政治家として立派な経歴がある人達ばかり。その中でトランプひとりが政治的な履歴はゼロ。にもかかわらず、トランプは、セールスマンとしての才能を発揮し、共和党の労働者階級(多くは白人)の有権者が何を欲しているのかを鋭く察知してこう言った。「中国人は君たちの仕事を奪っている。メキシコは工場を根こそぎ持って行った。イスラム教徒たちは君たちを殺そうとしている。そんな奴らをこの俺様がぶっ叩いてやる! そうしてかつての偉大なアメリカを取り戻すんだ!」 これが猛烈にウケて、そして抜群の強さで予備選挙に大勝したのだ…と。
キリスト教右派(エヴァンジェリカル・クリスチャン)の間でのトランプの人気もたいしたものだ。アメリカの白人人口は今では60%に満たない。移民、特に有色人種の移民は増えるばかり。政府のせいで、ゲイやらトランスジェンダーやらが増え、国は世俗化し、キリスト教信者の数は減りつつある。アメリカはそもそも白人中心のキリスト教の国であったはず。いや、実はアメリカ合衆国の建国の父たちは、政府と宗教をあえて無関係のものとした(Separation of Church and State)し、合衆国憲法にも God という言葉は一切使われていないのだが、この人達はそれをご存じないようで、このままでは自分たちの世界はなくなってしまうのではないか・・・と脅威を感じている。こういう人達にとっては、トランプはまさに救世主に近い存在である。「ハイル ヒトラー」ならぬ「ハイル トランプ」式敬礼、そしてトランプの暗殺未遂があったとき、必死の形相で神にトランプの無事を祈っていた人々、トランプが無事だったことを知って涙を流して神に感謝していた人々の映像は日本では流れなかっただろうか? まさにカルトである。ちなみに、そういう人々を対象にトランプは、合衆国憲法と聖書をセットにした、自分のサイン入りのトランプ・バイブルまで売り出して選挙資金の助けにしていたのは話題になった。God Bless The USA Bible($59.99)である。今も販売中のようだ。このカルトの心理、エヴァンジェリカル・クリスチャンについてはまた別の機会に書いてみたいと思う。