團十郎襲名。新之助くんに期待
昨年11月、12月に歌舞伎座で行われた市川團十郎披露公演。
熱烈な海老蔵さんファンでもない私ですがが、團十郎襲名という大きな出来事ゆえに実際にその目で見てみたいと思い、観劇しました。
会場内は客層からしていつもの歌舞伎座に来るお客さんより全体に年齢層が若い印象です。
仁左衛門さんと玉三郎さんが出る2日間のみのチケットは瞬殺で取れませんでした。プレミアですからね……。
「海老蔵」最後の舞台は……
当初予定されていた時期から約2年半の時間を経て行われた襲名披露興行。海老蔵という名前が最後で歌舞伎座に出演した際に見た演目は、昨年9月の「仮名手本忠臣蔵 七段目」。
片岡仁左衛門さんが大星由良助に扮し、海老蔵さんが平右衛門役でした。
平右衛門といえば私の中では仁左衛門さんのイメージが大きくあり、坂東玉三郎さんのおかるとの競演が印象深いものがあります。舞台でのお二人のやり取りには胸に迫るものがありました。
東京では由良助役といいますと吉右衛門さんと白鸚さんが多かったものですから珍しい配役だと思います。
この舞台を観た率直な感想は、海老蔵さんの平右衛門が単調ぎみで感情移入ができなかたのでした。比べてはいけないのでしょうが、仁左衛門さんの平右衛門からすれば物足りなく……。
新之助くんに希望を持つ重鎮たち
そんなことから少し不安を抱きつつも、海老蔵さんが得意とする演目を行うことからそこまで悪くはないであろうとも思ったのでした。
夜の部の口上では團十郎さんへの諸先輩方の愛のある、厳しい言葉に思わず苦笑いしました。
私が観た日は、松本白鸚さんがお元気に出られていたので彼が仕切りながら左團次さんが「團十郎さんは置いといて、新之助さんが素晴らしい。このまま真っすぐ進んでほしい」といったようなことを述べておられました。
菊五郎さんも先代の團十郎さんの思い出話とともに新之助さんへの期待をにじませ、仁左衛門さんも團十郎さんの息子への思いを述べておられました。
実際に「助六」では新之助さんを立てるために、仁左衛門さんはくわんべら門兵衛という普段ならあり得ない役を演じておられました。
うまい役者がやると、どんな役でも目に留まってしまうのだなあと実感した次第です。
團十郎さんの助六はご本人の気性に合っているようでした。
新之助さんは福山かつぎの役を生き生きと、はきはきと台詞を言い、初舞台を見事に演じておられたのが印象深かったです。
「毛抜」は時期尚早ではあるものの、普通の9歳ではない
襲名披露興行が発表されて演目が明らかになった際に物議をかもした「毛抜」。
当初11月に昼と夜の部を観たので12月は観ないつもりでしたが、日経(夕刊)の劇評を読んで気になり、急遽観ることにしました。
率直な感想としては、弾正という役を演じるにはあまりにも早すぎて、男女の機微や男を愛でることなど分かる年齢ではない分、難しいです。別の舞台を観ているような感覚でした。
とはいえ、舞台を観る前まではもっとひどい状況を想像していたので、そこまで悪くはありません。周りのベテラン勢たちがしっかり新之助さんをフォローしており、会場内は彼のファンであろうと思われる方々が新之助さんが台詞を言えば熱心に拍手されていました。
収穫としては、勸玄改め新之助さんの未来が楽しみであるということです。歌舞伎への情熱はしっかり伝わってきました。
早くて10代後半、願わくばもう少し大人になったときに改めて「毛抜」に挑戦していただきたいです。
ただならない、将来が楽しみな9歳であることだけは間違いないでしょう。
「二人道成寺」と「毛抜」の演目順を変えたかったなあ
特筆すべきは、「京鹿子娘二人道成寺」です。
白拍子を演じる中村勘九郎さんと尾上菊之助さんのお二人が見事でした。
菊之助さんは玉三郎さんとこの演目をやっているので慣れているでしょうが、勘九郎さんは2016年12月に行われた「京鹿子娘五人道成寺」で演じただけで、今回のような本格的に二人で舞うことは初めてだったと思います。
「押戻し」では團十郎さんが登場するのですけれど、舞台に出るのはほんのわずか。
襲名披露興行として昼の部はこの短いところでしか出ないのはどうかと思います(それもあってもともと12月は観ないでおこうかなと思ったのですが、勘九郎さんと菊之助さんの見事さに惹かれたのでした)。
これを観たあとで「毛抜」となると、どうしても滑稽さのほうが勝ってしまいます。
観終わった後の余韻としては、「京鹿子娘二人道成寺」が最後であったほうが断然、昼の部を観たあとの満足度が高かったことでしょう。
個人的には、新之助さんがもっと違う演目を選べば高い評価を得たのではないかと思ってしまいます。演目の選択ミスとしか思えないのは私だけでしょうか。
11月に行った「外郎売」は安定した舞台であっただけに勿体ない気がしました。