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トランプ大統領就任直後の暗号資産 2025年1月時点

2025年1月20日(米国時間)、ドナルド・トランプ氏が第47代米国大統領に就任しました。
トランプ就任式でクリプト(暗号資産)について超ポジティブなこと言いそうだね→言わないじゃん!→SECのタスクフォース発足→1月23日デジタルアセット大統領令にサイン!というのが就任後の大まかな流れですが、それぞれ簡単にまとめておきます。
2024年11月6日米大統領選挙以降のトランプさんのクリプト政策への期待についてはこちら。


第47代大統領就任式 ドナルド・トランプのスピーチ(1月20日)

2025年1月20日米大統領就任式のドナルド・トランプのスピーチの動画はこちら。

まずトランプ氏が言及したのは不法移民問題への対処でした。メキシコとの緊急事態宣言や不法移民の強制送還の実施を通じた国境管理の強化の方針を説明しました。
その他挙げた方針としては以下。トランプ大統領は、これらの政策を通じて、アメリカの主権と安全を回復し、国民の繁栄を実現することを目指すと述べました。

  • 公衆衛生や教育システムの欠陥を指摘し、制度改革の必要性

  • 国家エネルギー緊急事態の宣言と化石燃料の増産

  • 電気自動車(EV)の「義務化」の撤回などを通じた経済・エネルギー政策の転換

  • 外国製品への課税や、関税徴収を担う「外国歳入庁(External Revenue Service)」の設立を通じた貿易制度改革

  • メキシコ湾の名称を「アメリカ湾」に変更する

クリプト(暗号資産)には全く言及されませんでした。
BTC価格は失望感からやや下落。

直近1か月間のビットコイン価格の推移(円建て)

ミームコインTRUMP&MELANIAの誕生(1月18日)

就任式直前には、週末1月18日  11:44(JST)突然トランプ氏がTRUMPトークンを発行することを発表しました。ブロックチェーンにはSolanaが選ばれました。

大統領になる人がミームコイン発行!?ということで暗号資産市場はたいへん盛り上がり、発行直後の20日には時価総額が2兆円程度になるまで価格が上昇しました。

発行からのTRUMPコインの価格推移(円建て)

しかし20日の日本時間朝6時にMELANIAコインも発行するよ!という発表がありTRUMPコインの価格は下落。

20日のトランプのスピーチでクリプトへの言及がなかったことを受けてTRUMPコインもMELANIAコインもさらに下落。
現在のTRUMPコインの時価総額は9,000億円程度でミームコインとしてはDOGE、SHIB、PEPEに次ぐ第4位です。

このミームコインの狙いは、米国の債務をミームコインの発行益で返済するつもりか・・・?など市場では憶測が飛び交いましたが、大統領に就任するとこれまでトランプがやっていたNFT発行等もできなくなるので、最後にちょっとやってみた程度のことなのかもしれません。トランプ氏も「発行後のことはよく知らない」と発言していました。

SECのタスクフォース発足(1月21日)

1月21日にはSECがクリプトのタスクフォースを組成したことを発表しました。
こちらがSECによる発表文。日本語訳は以下です。

本日、米国証券取引委員会(SEC)のマーク・T・ウイエダ代理委員長は、暗号資産の包括的かつ明確な規制枠組みを策定するための「暗号タスクフォース」の設立を発表しました。このタスクフォースは、SECコミッショナーであるヘスター・ピアース氏が率いる予定です。また、代理委員長の上級顧問であるリチャード・ギャバート氏がチーフオブスタッフを、同じく上級政策顧問であるテイラー・アッシャー氏がチーフポリシーアドバイザーを務めます。
このタスクフォースは、SEC全体の優れたスタッフを集め、委員会スタッフや一般の人々と協力して、法の範囲を尊重した合理的な規制方針を設定することを目指します。これまでSECは主に執行措置に依存し、暗号資産を後追いかつ反応的に規制しており、その過程で新しく検証されていない法的解釈を採用することがありました。誰が登録すべきかに関する明確性や、登録を希望する者に対する実行可能な解決策は乏しく、その結果、何が合法であるかに関する混乱が生じ、イノベーションを妨げ、詐欺が蔓延する環境を生み出しました。SECはこれを改善する必要があります。
タスクフォースの主な目的は、以下の点に重点を置くことです:
明確な規制ラインを引く
実現可能な登録方法を提供する
合理的な開示フレームワークを作成する
・執行リソースを適切に配分する
このタスクフォースは、議会が提供した法的枠組みの中で活動し、その枠組みの変更に際して議会への技術支援を行います。また、商品先物取引委員会(CFTC)をはじめとする連邦機関や州、国際的なカウンターパートとも連携します。「暗号資産に関する規制方針を主導するヘスター・ピアース委員の尽力を期待しています。これはSEC内の複数の部門やオフィスが関与する取り組みです」とウイエダ代理委員長は述べました。
「この取り組みには時間、忍耐、そして多くの努力が必要です。タスクフォースが幅広い投資家、業界参加者、学術関係者、その他の関係者から意見を得られる場合にのみ成功します。私たちは、投資家を保護し、資本形成を促進し、市場の健全性を高め、イノベーションを支援する規制環境を育むために、一般の人々と協力することを楽しみにしています」とピアース委員は述べました。
タスクフォースは将来的にラウンドテーブルを開催する予定ですが、それまでの間、一般の意見を Crypto@sec.gov で受け付けています。

SEC公式Website

このタスクフォースをリードするへスター・ピアース氏はクリプトを好意的に見て推進する意向を持つ「クリプトママ」として知られています。
彼女の過去の提案で重要なものとして、「セーフハーバールール」があります。
セーフハーバールールとはざっくり言うと以下の内容です。

  • 初期Blockchain開発チームに対して3年間の期間を猶予期間として提供し、この期間中条件を満たす限り、トークンの配布や分散型ネットワークの継続的な開発を促進できるように、連邦証券法の登録規定を免除

  • 3年の期間が終了する時点で、初期のBlockchain開発チームは、トークン取引が証券の提供または販売に該当するかどうかを判断する必要があり、ネットワークが分散型ネットワークとして成熟した場合、トークン取引は証券取引に該当しない可能性がある

セーフハーバーを適用するために提出/開示する必要のある情報、「分散型ネットワークとして成熟した」はどのように判断するかなどの案は、SECのこちらのページでも発表されており、アップデート版はGithubで見れます。

Hester Pierce a.k.a Crypto Mama

余談ですが、Hester PierceはDeFiにおける仲介者の排除、透明性、決済の即時性などは金融の安定にとって有益などでは、という発言を過去にしており、リスクの高い投資商品のプラットフォームとして既存の金融システムが見習うべきところもあるのでは、という考えを持っているように見えます。(こちらにあるように、個人が高リスク商品に投資することをSECが妨げるのはおかしい、という考えを持っている模様。そのためにインフラの整備が必要でDeFiは一部有用なのではと思っているということかと)

タスクフォースで決めることは、Cryptoの中で証券としてSEC登録が必要なもの、その場合の登録方法と開示方法、になりそうですが、セーフハーバー的な考え方が適用されるのか、または先行している欧州のMiCAの開示規制が参考にされるのか要注目です。

デジタル金融技術に関する大統領令(1月23日)

そして、ついに1月23日にはデジタル金融技術に関する大統領令にトランプ氏が署名しました。
内容が記載されているホワイトハウスのWebsiteはこちら
以下が全文の日本語訳です。

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デジタル金融技術における米国のリーダーシップ確保

本日、ドナルド・J・トランプ大統領は、デジタル金融技術における規制の明確化を図り、デジタル資産経済において米国が世界のリーダーとしての地位を確立するための大統領令に署名しました。この取り組みにより、すべてのアメリカ人に向けたイノベーションと経済的機会が促進されます。

主な内容:

  • デジタル資産市場に関する大統領ワーキンググループの設立:
    デジタル金融分野での米国のリーダーシップを強化するためのワーキンググループを設置。

    • このグループは、ステーブルコインを含むデジタル資産を管理するための連邦規制フレームワークの策定や、国家戦略としてのデジタル資産備蓄の検討を行います。

    • ホワイトハウスのAI・暗号資産担当責任者が議長を務め、財務長官、証券取引委員会委員長、その他関連する省庁および機関の長が参加します。

    • AI・暗号資産担当責任者は、連邦政府以外の専門家を積極的に活用し、グループの活動が幅広い知見に基づいて行われるようにします。

  • 規制の見直し:
    各省庁および機関に対し、デジタル資産分野に影響を与える規制やその他の措置の見直しおよび撤廃・修正の推奨をワーキンググループに提出するよう指示します。

  • CBDCの禁止:
    中央銀行デジタル通貨(CBDC)の設立、発行、推進に関するいかなる措置も禁止します。

  • 旧政権の方針撤廃:
    前政権が発令したデジタル資産に関する大統領令および財務省の「デジタル資産に関する国際的関与のための枠組み」を撤回。これらはイノベーションを抑制し、米国の経済的自由およびデジタル金融分野における世界的リーダーシップを損ねていました。


デジタル資産に対する過剰規制の排除と米国の経済的自由の保護

トランプ大統領は、米国を「暗号資産の世界的首都」とするという約束を実現します。

  • 暗号資産イノベーションの推進:
    過去の政権による厳しい規制や過剰な取り締まりを停止し、デジタル金融技術イノベーションの中心地として米国を発展させます。

  • 新たなデジタル金融技術の時代へ:
    トランプ政権は、イノベーションが発展し、規制フレームワークが明確で、経済的自由が守られる新時代を迎えるために尽力します。

  • 成長を妨げない:
    デジタル金融技術の成長が、過度な規制や不要な政府介入によって妨げられることのないよう取り組みます。

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ということで、前述のSECのタスクフォースとも連携し、まずは規制の枠組みを決めていく必要がある、ということだと思います。何を証券とすべきか、どのような発行体開示規制を課すべきかまたは課さないべきかなど。
また、これまで「ビットコイン戦略的備蓄(BSR)」が期待されていましたが、「デジタル資産」の戦略的備蓄を検討、となったことで戦略的備蓄とする候補の対象がアルトコインまで広がっています。
CBDCの禁止は過去に特に予想されていなかった内容でした。

まず暗号資産を規制する枠組みを作る必要があり、これにはそれなりに時間がかかるのではないかと思われます。

SAB121の撤回、SAB122の発行(1月23日)

デジタル金融技術に関する大統領令に署名されたのと同日に、SECはSAB121
を撤回し、SAB122を発行しています。
SAB121については前回のnoteに詳しくまとめていますが、要は金融機関がお客様から預かった暗号資産を時価評価してバランスシートに負債計上せよというものです。

SAB122では、暗号資産を他者のために保護する義務を負う企業に対し、次のように求めています:

  1. 損失のリスクが存在する場合に負債を計上する必要があるかどうかを判断すること

    • 企業は、暗号資産の保護義務に関連して損失のリスクがある場合、その負債を認識する必要があります。

  2. 認識した負債の金額を測定する方法

    • 測定は、FASB ASCサブトピック450-20「損失コンティンジェンシー」またはIAS 37「引当金、偶発負債および偶発資産」に基づいて行います。

これらの基準では、以下の場合に負債の計上を求めています:

  • 損失の発生が「可能性が高い」(probable)と判断される場合

  • 損失金額が合理的に見積もることができる場合

そのため、暗号資産の保護義務がある企業は、損失が発生する可能性がない場合や、損失金額が合理的に見積もれない場合には負債を計上する必要はありません。ただし、投資家に対して適切な情報を開示する義務は残ります。

米国においては金融機関が暗号資産の保護預かり(カストディ)するハードルが下がったと本件は非常に好感されています。が、本件はもともと予期されていたため、既定路線感はあります。

規制の枠組みの方向性

今後米国の暗号資産規制の枠組みはどのようなものになるのでしょうか?

Coinbase Brian Armstrongの主張

米国CoinbaseのCEO Brian Armstrongは以下のXのポストで、

  • 直近1週間100万トークン程度誕生しているので取り扱うトークン1 つ 1 つを取引所が評価することは現実的ではない

  • 規制当局が1 つ 1 つに承認を申請することは現時点ではまったく不可能

  • 許可リスト(ホワイトリスト方式)からブロックリスト(ブラックリスト方式)に移行すべき。顧客のレビューやオンチェーン データの自動スキャンなどを活用して、顧客が投資判断できるようにするべき

  • DEXも統合していきたい

と主張しています。(これはおそらく、TRUMPコインを取り扱うのに審査が必要で他の取引所やDEXに取り扱いの先を越されてしまったことを受けて言っている面もあるのではないかと思われます。)
ブラックリスト方式にする場合も発行してしばらくしてからの判断になるので、この形だといったんすべてOKにして、ダメと判断したものを取引所で取り扱えなくする、という形になりそうです。発行体開示は想定されていなさそうです。

EUにおけるMiCAでの開示規制

一方、欧州ですでに適用されているMiCA(Markets in Crypto-Assets Regulation、暗号資産市場規制)においては以下のような開示規制が定められています。

1. 資料の開示要件

MiCAは、特定の暗号資産の発行者に対して、資産を提供する際に投資家に重要な情報を提供することを義務付けています。

  • ホワイトペーパーの提供:暗号資産の発行者は、発行するトークンの詳細、プロジェクトの目的、リスク、および関連する技術的情報を記載したホワイトペーパーを作成し、公表する必要があります。

  • 簡潔で透明な内容:投資家が理解しやすい形で情報を提示し、誤解を招かないようにする必要があります。

  • 重要リスク情報の記載:例えば、価格の変動リスクや技術的な脆弱性、規制リスクなどを明確に説明することが求められます。


2. 開示の範囲

MiCAでは、発行される暗号資産や関与する企業の種類に応じて、開示義務が異なります。

適用される範囲:

  • ユーティリティトークン:使用目的を明確にし、投資リスクの説明が必要

  • ステーブルコイン:法定通貨や他の資産に連動する仕組みや担保資産の詳細な説明

  • 資産参照型トークン(ART):担保の管理方法やリスクを開示する特別な要件

  • その他の暗号資産:金融商品としての性質がある場合には、より厳格な基準に従う必要


3. 継続的な開示

発行後も透明性を維持するため、以下のような継続的な開示義務があります

  • 定期的なレポート:トークンの流通状況や運用状況に関する情報を定期的に更新

  • 重大な変更の通知:プロジェクトの基本方針やリスクに影響を与える重大な変更があった場合は、速やかに公表

Brianはじめ米国の業界関係者が望んでいる規制はEUのMiCAにおける規制とは全然違いそうです。
今のところ、トランプ大統領が思ったよりクリプトに熱心じゃない、という印象を持たれている印象がありますが、まずは規制の枠組みをある程度時間をかけてロジックとともに作る必要があるので、これを待つ必要がありそうです。

米国の方向性は日本において今進んでいる「暗号資産に関する新たな法的整理」においても一定程度参照される可能性が高く、引き続き注視していきます。


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