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「はれ」のはなし。

「晴」という字が好きだ。



単純に晴れた空を見るのが好き、

というのが大きな要因だが、
実はある人の影響も大きいのではないかと思っている。



小学生のときに好きだった相手。

初恋の相手。


今宮晴加(仮名)。



今宮は小学校の同級生だった。

私のかよっていた小学校は1学年2クラスで、
今宮とは5年生のときにはじめて同じクラスになった。


目がくりくりしてて、
リアクションが大きい。

こっちが話しかけると目をキラキラさせながら
楽しそうに話を聞いてくれる姿が印象的だった。


勉強は、できない。

私は勉強ができるやつだったから、授業中に課題が出されると速攻で終わらせ、よく教科書のスキマにラクガキをしていた。


今宮は、勉強ができなかった。

私からすると、「何がわからないんだろう」というレベルの問題に、一生懸命取り組んで、一生懸命跳ね返されていた。


だから、勉強を、教えた。


「そこはこうやって考えるんだよ」

「ここまではわかるんだ。じゃあ次はどうする?」


今宮は問題に悩んでるときはとても悲しそうだったけれど、私が話しかけるとパッと目を輝かせて、笑顔で話を聞いていた。


多分、自分で解くのを諦めて、私が声をかけてくれるのを待っていたんだと思う。


私が声をかけたときの今宮は、決まって満面の笑みで、

顔の筋肉だけで「まってましたーー!!」と言っていた。



そんな今宮が、いとおしかった。



今の私はもう大人だから、「いとおしい」なんて言葉を使ってしまうけど、当時小学生だった私は適切な言葉が見つからず、

ただ単に胸がぽわっとしていたんだ。



そんなこんなで、私は


勉強のできない今宮に恋をした。







今宮の名前は「晴れ」を「加える」と書いて「はるか」


いつもニコニコキラキラしている今宮は、
どんよりと曇ったクラスに
ぽかぽか「晴れ」を「加えて」くれていた。



すてきな名前だな、と思った。


それ以上に、すてきな子だな、と思った。


やさしい、太陽みたいな子だな、と思った。



だけど私は思春期をこじらせて、

人一倍恋愛に興味があるくせに、クールぶって「恋愛なんか興味ありませんよー」という態度をとっていた。


今宮に対しても、どちらかというと当たりのきつい接し方をしていた。


「そんなのもわかんねぇのかよー」

「今宮ってホントにアホだよなー」

とかね。



自分は今宮に対してこんな発言をしても許してもらえるほど近い存在なんだ、

という自意識が、私にそんな態度をとらせていたんだと思う。今思えば。



実際に、仲は良かった。

向こうも私に親しみを感じていたみたいで、今宮の家へは何度か遊びに行ったし、今宮も私の家に来たりした。


今宮のお母さんとも楽しくおしゃべりをした。

今宮のお母さんも、私のことをかわいがってくれていた。



と、

ここまで読んできて、

「で?今宮とどうなったの?もしかして今の奥さんが今宮なの??うりうり!」

などと、あなたの中のおばちゃん部分がうずいてきてしまったかもしれない。



だとしたら謝っておく。

本当に申し訳ない。




私は結局何も行動せずに小学校を卒業した。
そして、今宮と私は同じ中学に行った。



が。


特に何もなかった。





しいて言えば、2年のときには同じクラスにもなったが、ただそれだけだ。

同じクラスになったからといって、取り立てて恋心が再燃したということもない。
(その当時は別の子のことを好きになっていた。その子には当たって砕けた。)



特に何もないまま中学を卒業し、私と今宮の接点は途絶えた。








しかし、だ。

中学卒業から約10年後。


26歳のときに中学校の同窓会を開いた。



そこで私は今宮と再会を果たした。


そしてこう伝えた。



「おれの初恋、今宮だったんだよ」



実は両想いだった、


なんて甘い展開を、まったく期待しなかったかといったらウソになるが、
現実はやはり甘くはなく、両想いではなかったらしいことは伝わった。



でも、やっぱり今宮は今宮で、
キラキラしながら嬉しそうに話を聞いてくれた。


しかもちょっと恥ずかしそうに。



私の気持ちが少しでも嬉しいと感じてくれたのかな、と思うと、幼い私の想いが報われるような気がした。


元々大事な思い出ではあったけど、
「今宮への初恋」は心の奥にしまっておきたい私の大切な宝物の記憶となった。




そして。

今の私と今宮の関係はというと。


毎年お互いの誕生日にはLINEを送り合い、
数年に1度は会ってランチするような仲になっている。



めちゃくちゃ仲が良い、というわけではないが、

わりと仲の良い友達、というポジションにはなっている。



うむ。

悪くない関係だ。





私は昔から、子どもができたら「晴(はれ)」という名前を付けたいと思っていた。



その気持ちに、今宮の影響がないといえるだろうか。

正直、まったく影響ががないかといえば、ウソになるんだと思う。


影響が大きいのは私が敬愛してやまない漫画家さんの作品の登場人物の方だし、今宮を思い浮かべて考えた名前ではないが、
潜在意識には多少なりとも今宮の影響もあったはずだ。


だって、今宮はいい子だから。

アラサーの大人に使う表現ではないかもしれない。


けれでも今宮は、今でもいい子だ。


「この子を初恋の相手に選んだ10才のおれ、見る目あるじゃん!」
と思うくらいには、今も昔も今宮はいい子だった。




でも。

だからといって。


初恋の相手の字を自分の子どもに付けるのは気持ち悪いし、配偶者が嫌な気持ちになるのは間違いない。


だから「付けたい」とは思っていたものの、付けるつもりはない。


そして実際に私の3人の娘には、「晴(はれ)」という名前の子はいない。





ところで、私には最近、新しい友達ができた。

名前も顔も知らない、インターネット上の友人である。


はじめて彼女の見かけたのはいつだったんだろう。

きちんとは思い出せないが、
彼女がX上のスペースでお話しているところに、たまたま私が参加したのだと思う。



とにかく、私は彼女のしゃべりに一目惚れ、いや、一耳惚れをした。


明るく楽しく弾んだように会話する彼女の声は、私に元気を与えてくれた。

逆境も暗い話題も吹き飛ばすような彼女の笑いは、私に勇気を与えてくれた。



あかるい、太陽みたいな人だな、と思った。




そして彼女は、偶然にも「ハレ」という名を冠していた。



彼女のしゃべりに惹かれた私は、彼女のスペースを見つけては、聴きに入ったり、録音を聴いたりしていた。


そうして彼女の目に入ることができた私は、
「話し方のファン」だと伝えることに成功した。


・・・。


こうして改めて書くと、「話し方のファン」ってどうなのだろう。


ピンポイントすぎて気持ち悪くないか?



・・・。


まあでも彼女は、そんな私の気持ち悪い発言も、嬉しそうに受け入れてくれた。



こうして私は、ハレて彼女とX上でやりとりができる仲となった。



そして先日。


私は彼女と2人きりで話す機会を得た。



直接話してみたらなんか違った…

…ということはまったくなく、彼女とは楽しくお話しができた。


直接話してみて思ったのは、
想像以上に価値観が近そうだ、ということ。


もちろん完全に一致するわけではないが、
(そんなことあったら怖すぎる)
かなりの部分で近い価値観を持っていて、
物事に関する感じ方が似ていた。



はじめて話しているとは思えないほど、近い存在に感じた。


そして、やっぱり彼女の言葉と笑い声は、私に元気と勇気を与えてくれた。



やっぱり、太陽みたいな人だな、と思った。



ぽかぽかとした今宮とは違う、サンサンとした太陽。


ニコやかで、ハレやかな太陽。





「晴」という字が好きだ。

「ハレ」という言葉が好きだ。



私は「はれ」が、大好きだ。

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