下積み時代の話 ラスト
読んでいる方の中に離婚調停をしたことがある人は何人くらいいるんだろうか。ある日、ポストに届いた離婚調停の呼び出しの中身は、甲だの乙だの難しい言葉であることないこと嫁に都合の良いことばかり書いてあって到底納得できるものではなかった。婚姻費用に慰謝料、子供達の養育費に財産分与。中身は金の話ばかり。今思えば、きっかけがあっただけでとっくに家庭は崩壊していた。日々子供達を育てる為に必死だった。結婚当初に持っていた気持ちは徐々に薄まっていく。離婚なんてテレビの中だけで起こるような話で自分には関係ない話だと思っていた。なんだってそうだ、自分は大丈夫。わけのわからない自信があったりする。ブラックアウトした地震の時だってそうだったし、爺ちゃん婆ちゃんが死んだときの親戚との骨肉の遺産争いだってそう。自分の身に起きるまでは他人事のように感じるがそれは当たり前に自分に起こる。起きてしまってからでは遅い。取り返しのつく事とつかない事がある。今回の離婚については後者だった。離婚をするしないの話は初回の調停のさわりくらいで、2回目以降は終始金の話。揉めに揉めた。裁判を決行して徹底的に争うことも出来たが日に日に大きくなる子供達の事を考えるとそれはしたくなかった。振り返れば2年間の長い期間調停をした。最終的には全て相手の意向で決着がついた。結婚生活9年間が終わりを告げた。
車上荒らしの犯人は結局わからず、指紋も出てこなかった。うまくいけば足を引っ張ってくる人間は沢山いる。嫉妬なのか恨みなのか、2回目の車上荒らしにあった時に事務所に防犯カメラをふたつ付けた。カメラを付けてからは被害に遭うことは無くなった。仕事は順調だった。仕上がりの早さとフットワークの軽さで取引先も沢山増えていった。仲間も増えた。嫌々やる仕事と違いみんなが活き活きと作業していた。団結力もあったし、現場の空気も良い。やればやるだけ成果が目にみえる。腕があがると効率も良くなる。収入も増えた。良いものが出来た時には満足感もある。天職だった。きっと死ぬまでこの仕事は続けていくと思う。独立したタイミングも今思えば良かったのかもしれない。あのままズルズル先のみえない会社に居て安月給で使われていたらとゾッとする。もし今の境遇に迷っている人がいるならやってみるべきだと思う。ガキの頃に教わった。努力は報われる。必ず誰かが見てくれている。無駄にはならない。嫌々やっていた営業マン生活の5年間やセールスしていた2年間もそう、全てが今に繋がっていて結果として形になっている。
人生は苦難の連続で壁は次々と出てくる。これからもきっと出てくる。どうせ越えるんなら楽しく越えたい。まだまだこれから。周りへの感謝の気持ちを持って今日も現場へ向かう。
完
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