出会い
今までどれくらいの人と出会ってきただろう。二度と会いたく無い望まない出会いもあれば、人生を大きく変える運命の出会いもある。春が近づくにつれいつもこの時期に思いだす淡いあの出会いについて筆を取る。
あれは中学の入学式。ピカピカの履き慣れない靴とどうせ大きくなるんだからとダブダブの制服を着てたのを覚えてる。中学の入学式といったって小学生の卒業式からすぐ。入学式に歩いて向かう。周りはみんな同じメンバーで特別変わりは無い。怖い担任じゃなきゃいいなくらいの感覚で新鮮な気持ちはあまり無かった。通っていた小学校は当時札幌でもかなり生徒数が多い小学校で、住んでいる住所で区切られ、全校生徒の半分が新しくできた学校へ引っ越しし自分は6年生から新しく出来た小学校に移動していた。5年の時から会えてなかった友達に会うのが楽しみだった。割り当てられたクラスへ向かう。これから毎日同じ時間を過ごすクラスメイト。周りを見渡すとほとんどが知った顔。その中に彼女は居た。目を奪われた。見た事の無い顔。はっきりパッチリ大きい眼に肩まで長い真っ直ぐな髪。笑うと見える八重歯。光ってみえた。一目惚れだった。彼女の名前は英理ちゃん。中学入学でのタイミングで引っ越ししてきたらしい。中学校生活の始まりは恋の始まりだった。小学校6年間ずっと好きだった友美ちゃんがどのクラスかなんてのはあっという間に頭から無くなっていた。
幸運だった。次の日クラスに入ると座席が変わっている。入学式は出席番号順で仮の座席だったらしい。これから1学期が終わるまではこの席でいく。そういう担任の声に上の空だった。英理ちゃんは隣の席だった。それからは授業そっちのけで英理ちゃんに夢中だった。すぐに仲良くなった。どうやったら笑ってくれるかばかり考えておどけてふざけて笑いあって、担任に怒られて。部活も英理ちゃんの帰り時間に合わせて入りたくもない卓球部に入った。帰り時間が一緒になるように、卓球そっちのけでバトミントンに精を出す彼女ばかり眺めていた。バスで通う彼女に合わせて朝は誰よりも早く学校にいった。バスの都合で学校に早く着きすぎるのも知っていたから。座席が変わって、なかなか話せなくなっても朝の30分は色んな話をした。彼女には夢があった。笑わないで聞いてくれる?私ね、女優さんになりたくて今レッスンに通ってるの。キラキラした眼で将来の夢を語る彼女に見惚れていた。俺が一番のファンになるからね。なんておどけて笑いあったのを覚えてる。それから彼女は部活を辞め、徐々に学校も休みがちになった。レッスンに通って歌の練習もするみたい。会うたびに成長していく彼女は輝いていた。今度TVに出るらしいよとか噂も聞いた。本当だった。ある時家で晩御飯を食べていたらTVから聴き慣れた声がした。英理ちゃんだった。地元の企業CMに出てみんなに笑顔で商品PRをしていた。誇らしいような、みんなに知れてしまってとられてしまうような不思議な感覚だった。
2年の学祭の時。学祭のフィナーレでグラウンドで花火があがる。久しぶりに英理ちゃんも学校に来る。周りからみたら付き合っているように見えていてもそんな関係ではない。友達以上恋人未満、親友?そんなふわふわしたのが嫌で告白しようと思っていた。しばらくぶりにみる英理ちゃんは本当に可愛いかった。会えない時間美化されていくイメージを超えて可愛いかった。
花火が打ち上がる。花火なんてみていなかった。真っ直ぐ花火をみて綺麗とはしゃぐ彼女ばかり横目でみつめていた。花火も終盤。どう切り出していいのか迷っていると彼女が花火をみながら話をする。
あのさー
うん、どうしたの?
私ね、引っ越しすることになったの
え?いつ?どこに?
来週の月曜日。東京にいって芸能活動メインにしたくって
凄いじゃん!夢への一歩だね!
でももう会えなくなるね
あ、うん、そうだね
少し寂しいな
俺が寂しくならないようにTVにいっぱいでてね
うん、そうだね
いつまでも一番のファンだからね
うん、ありがとう
手紙書くね
うん
花火が終わり、バス停まで送る。いつもの道。なんて話したらいいかわからなくて無言になる。バスはすぐにくる。彼女は最後にとびっきりの笑顔で手を振る。最大の作り笑顔で手を振りかえす。告白は出来なかった。
彼女は学祭が終わり一週間後、引っ越ししていった。手紙は来ることが無かった。連絡先もわからなかった。出せない手紙は机の中に溜まっていった。
今どこで何をしているんだろう。入学式の季節になるといつも彼女のあの笑顔を思い出す。会えなくなってからだいぶ経つ。幸せになっていて欲しい。
俺が一番のファンだから。
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