第8回三題噺「音楽番組」「達成感」「嘘も方便」
お題「音楽番組」 「達成感」 「嘘も方便」
俺は歌って踊れるミュージシャンだ。作詞、作曲も勿論自分で手がけている。テレビやラジオには引っ張りだこで、ライブだって全国ツアーをしたりしている。正直言って、大人気スターと言っても過言じゃないよな?
そんな俺には密かに楽しみにしていることがある。
ライブ中にファンに向けての大サービス、指差しウインクタイムがあるのだが、それに狙い撃ちされた人は黄色い歓声を上げてペンライト大振りで応えてくれる。
それが密かな俺の小さな達成感。俺はこんなにモテるんだぞ、と。
俺の家は楽器屋だ。子供の頃から、バカばっかりやって、頭の悪いふりをして人に見て貰いたがっていたけれど、中学生になりたてのある時、親から渡されたギターで、音楽の才能を見事開花させた俺は、高校から音楽の道へと進んだ。
才能。
俺は音楽番組で、よくコメンテーターに「どんなふうに作曲をされるんですか?」と聞かれる。俺はよくそれに対して「そうですねえ、普段から周りを観察するようにしてますね。色んな刺激からインスピレーションを抱いて作曲しています」みたいなことを答える。
刺激的な毎日を送りたい。人生は一度きり。楽しむっきゃない。だから、ミュージシャン活動は俺にとって日常でも、いつだって非日常として過ごすんだ。
ライブ一回一回、見たことのないファンを探す。テレビ番組に出る時も、一貫性はあるものの、決まった答えはできるだけ言わない。
時には、話を大袈裟に言ったりなんかして、周りの人を驚かせたりする。
才能という言葉で俺の努力はよく掻き消されてしまうけれど、それは掻き消されてるわけではなくて、ただの言い換えなのだ。
努力する才能がある。
嘘も方便じゃないけど、自分を納得させるための言葉だった。俺の努力が、才能という同じ二文字で消されてしまうのは、本当は腹立たしいことだった。
確かに、楽器屋の息子に生まれたことは恵まれていた。でも、楽器に触れる機会があれば、きっかけはなんだってよかったんだ。
努力する才能があった。ただそれだけのことだったんだ。
そう思いながら、俺は今日もファンサービスを行う。他人を喜ばせることも、才能の一つだから。俺は才能の塊だからさ!
所感
いつもと違うお題サイトを利用したら、文もだいぶ違う感じになりました。
以前より、鋭さを失ってるなあと最近思うので、もう少しちゃんと練ってから話を作り出したいな、とは思うのですが、なかなか難しいものです……。
日々の鍛錬を怠らず頑張りたいと思います。