ギタリスト・松江潤、ロングインタビュー!最新作『解体ディスコ』や創作、キャリア、好きな音楽について
9月24日(金)、ギタリスト/シンガーソングライター松江潤氏のシングル『解体ディスコ』がMVとともに、ミディクリエイティブよりリリースされました。松江氏は1993年にカーネーションの直枝政広氏によるプロデュースで、デビューアルバム『SUNNY POP GENERATION』をミディよりリリース。その後、別名義ALL THAT FUZZとして『69』(1995年)や、バッファロー・ドーターのリズム・セクションを迎えた2ndアルバムの『マツエジュンのゲバゲバ宣言』(1996年)といった作品をリリースしています。
セッションギタリストとしても精力的な活動を展開し、これまでにYUKIや大塚愛、スネオヘアー、堀込泰行、長澤知之、PUFFY、片平里菜、メレンゲ、カーネーションといったアーティストと共演。
今作は久々のミディからのリリースとなり、松江氏にインタビューを行い、リリースに至った経緯や、ギタリスト・アーティストとしてのこれまでの歩みについて話してもらいました。
――今回のシングル『解体ディスコ』は久々のミディからのリリースだと思うのですが、その経緯について教えてください
「当時の作品をサブスクで配信するということで、去年の頭くらいにミディから連絡がありました。去年は別のレーベルから作品をリリースする予定があったので、それに合わせてミディの過去作も配信することになりました。そこで久しぶりに(ミディの担当と)話しているうちに、次の作品をミディからリリースすることになったんです」
――去年リリースされている作品は『君は風に吹かれてる-wirechoir』(他2曲)、『ヘアスタイルは口ほどにモノを言う!』(他2曲)、『アレンジメントヘアスタイル』(他1曲)の3部作と聞きました
「そうですね、デジタルMaxiシングルという形で配信リリースしています。『アレンジメントヘアスタイル』は今年8月に7インチ化もされています」
――アルバムにはせずに、あえてシングルという形を取ったのでしょうか?
「そうですね。僕の場合は(レーベルと)契約してガチガチでやっているという形でもないので、タイミングがあればその都度リリースするという感じなんですよね。僕はギタリストとしてずっと活動しているので、自分の音楽もその間作ってはいるんですけど、ツアー(への参加)とかになると自分のことは後回しにして、どんどん時間が経っていってしまうんです」
――デビューがミディからということなので、久々のカムバックに感慨深さはありますか?
「そうですね。ミディからリリースした後、自分の音楽ではJ-POPではないものがやりたいということで、SPOOZYSを結成しました。アメリカでデビューし、そちらの方が僕のアーティストの一面としては定着してしまったこともあり、ミディからリリースされている作品については、しばらく忘れてしまっていたんですね。
で、今カーネーションを僕がギタリストとして手伝ったりしていて、ライブでミディ時代の曲を演奏したこともあり、今となってはちょっといい思い出になってきたところに、配信の話がきた、ということもあるかもしれません。そこで大藏さん(ミディ創業者)にも会うつもりだったんです。けれど、コロナが来てしまって、会うにも会えず、様子を見ているうちに(大藏氏が)お亡くなりになってしまい」
――90年代にリリースされているミディ時代の作品について〈しばらく忘れていた〉とのことですが、デビューされた頃はお若かったでしょうし、音楽的にも色々なことを模索し、趣味嗜好も変化して、ということもあったと思います。初めから自分でも大満足の作品ができるというものではないということでしょうか?
「僕の場合、1つのバンドでずっとやっているわけでもないですし、ギタリストとしての活動がメインなので、ギターを通じて色々な音楽を聴いたり、演奏したりしているんです。自分のルーツとなるような音楽はあるんですけど、好きな音楽はその都度変わるので、(アーティストとして)出している作品は、その時自分が〈これだ!〉と思っているものなんですよね。自分の中のブームというか、モードが変わると、それがそのままモロに作品に反映されていて、繋がりも後先も考えてないんです。そうなると過去の作品は、今のモードではないので、触れられても気恥ずかしいというのもあるんですけど、その時はそれが一番好きでやってたんですよね」
――リスナーの視点というのはまた違っていたりするものだと思いますが、ミディ時代の作品について今でも言及されることはありますか?
「SPOOZYSや誰か他のアーティストとの共演で僕を知った人が多いんですけど、そういう人は僕にこのような過去があったことを知らないんですよね。なので、サブスクになる時は少し怖かったんですけど、喜んでくれた人も多かったようなので、自分の中でも受け入れられるようになってきました」
――今になってミディの作品をご自身で聴いてみて、何か印象が変わったりしましたか?
「それが、あんまりないんですよね(笑)例えば子供の時に影響受けた音楽を大人になってから聴いても、意外と子供のころの感覚に戻ってしまうじゃないですか。それと同じで、久々に聴いても、そこまで思っていることに違いはないんですよね」
――ミディの作品から抱く印象としては、ギタリストがシンガーソングライターもやっているというもので、多彩な音楽性やメロディーセンス、アレンジからは渋谷系の潮流とも共鳴する要素も感じられました。最新作は、80’sを意識されていたり、歌がほとんど入っていなかったり、変化が感じられます。そこにはどのようなモードの変化があったのでしょうか?
「新しさや、〈今だから作れた〉的なものは実はないんです。元になっているアイディアは随分昔のものだったりしてるので、時代の新しさ・古さみたいなものってあまりないんですよね。自分の中のベースになっているものが全て出ているのかもしれないな、と思いました。いわゆる80’sというのは自分が一番影響を受けていて、好きなものなので、奇をてらったわけでもなく、好きなものを自然にやれているという感じです」
――今回のMVを拝見するとシンセなども弾かれていますが、今回は松江さんが全ての楽器をご自身で演奏されたということでしょうか?
「そうですね。結構古い機材が好きで、ビンテージのアナログシンセなんかも使ってますね」
――ギタリストというイメージだったので、MVを見てむしろマルチ奏者という印象を受けました
「マルチというと聞こえはいいですけど、いつもベースや打ち込みを研究しているわけでは全然ないんです。自宅録音、多重録音は音楽を始めたころからすごく好きで、それをずっとやってるんです。シンセも好きですし。ギターは本業なのでガチですが、他の楽器は本業ではないからこそ、無責任に楽しめてしまう、というところはありますね」
――今回ミディからリリースされた作品は、楽しく作ったというか、パーソナルだったりします?聴いていて、サラッと作ったというか、そのような軽快さは感じました
「そうですね。リリースするためにレコーディングするぞ、というようなノリで作っていなくて、だからこそ脱力感があるというか。逆にしっかり作り直そう、ということになると力が入ってしまって、この雰囲気は出ないかもしれませんね」
――今回の曲名『解体ディスコ』の意味を教えてください
「後付けでもっともらしいこと言おうかとも考えてたんですけど、実のところ意味は全然ないんです(笑)パソコンで音楽制作をしていると、仮でファイルに何か名前をつけないといけないじゃないですか。その時に日にちとかにしてしまうとパッと見、分からないんですよね。そこで曲に対する印象を自分で1秒くらいで言葉にしたのがこの曲名だったんです。で、そのままのファイル名で作業を進めてたんです」
――そうだったんですね!とはいえ、インパクトのある言葉というか、〈何か意味があるに違いない〉と勝手に思ってしまっていました
「ディスコでいうと、例えばChicやNile Rodgersなど、当時の金字塔のような人がいますが、その後のYMOなどのテクノと言われているような音楽も、リズムはディスコなんですよね。そして4つ打ちなども出てきますが、BPMはやはりディスコですし、その系譜にあるんです。その後、ハウスが出てきたり、ジャンルは細分化されていきますが、それらの流れを踏まえて〈ディスコミュージックの解体〉という発想に至った気はします。これもある意味ディスコだな、というか、ニュー・ウェイブと捉えるにはパンクの要素があまり無いな、といった自分の考えもあり。これはもう少しリズムに寄っているダンスミュージックだと思ったんです」
――歌詞もそのコンセプトに通じる内容になっていますよね。“Break and make again, we don’t make progress”(破壊して再び作る。私たちは進歩しない)といった一節からは、無常観のようなものも感じられて、軽快な曲調とのコントラストが面白いです。これは去年リリースされている『孤独の惑星』といった楽曲にも通じる、Sci-fiチックなモチーフというか、どこかダークで物寂しい感じもしますよね
「それはありますね。今回はロボットのような声になっていますし。SPOOZYSとしてアメリカでツアーしていたときに気づいたんですけど、(オーディエンスは)僕の言葉が全く聞き取れてないんですよね。英語で歌っても、ネイティブには伝わってないし、日本人も雰囲気だけで聴いていて、内容はよく分からないという。それが僕の中では狙いで、要はサウンドとして成立していればいいということなんです。日本語だと意味が前に出過ぎてしまう。英語だとサウンドの一部として聴き流してもらえるからこそ、逆に言いたいこと言ってたりします」
――この破壊と創造のコンセプトは音楽的な意味もあるんですか?松江さんご自身がミュージシャンとして進化し続けているという
「それはありますよね」
――近年は80’sのリバイバルやシティポップの盛り上がりなどもありますが、そういった潮流も肌で感じている部分はありますか?
「肌で感じていて、そういうのも楽しんでいます。必ずしも当時のものではなく、今のもので自分が好きな質感のサウンドもあるので色々と聴いてます。ただ、今回の楽曲でいうと新しいものからの影響はなくて、自分の中に昔からあるものが出てきた感じです。後になってから日本的なセンスを感じさせるベッドルームポップ系アーティスト、Ginger Rootの作品を聴き、すごく共感したりしました。こういった世代の若手アーティストたちが80’sや日本的なセンスに影響を受けているようなのですが、面白いと思いますね。あとはSteve Lacyのようなチープなテイストのサウンドも好きです」
――最近どんな音楽を聴いて、インスパイアされていますか?
「Ginger Rootはついこの間ラジオで知り、ハマって聴いています。あとはロンドンのPREPというバンドも、彼らが僕の楽曲をプレイリストに入れてくれて知ったんですけど、聴いてみてどハマりしてます。あと、ここ1、2年はヒップホップのトラックメイカー系のアーティストを好きで聴いていますね。ヒップホップ自体はそうでもないのですが、トラックの部分だけのインストの作品も出ていて、そういうサウンドがいいですね。Kieferというアーティストが良くて、ジャズピアニストのバックグランドがあるんですけど、DTMやMPC(サンプラー)を使ってトラックも作っているような人です。
Steve Lacyもグラミーにノミネートされているようなアーティストですが、iPhoneのGarage Bandで曲を作っていて。ヒップホップを含めて、ブラックミュージックはあえてなのか、ローファイさを感じさせるサウンドが多いんですよね」
――そういうところから松江さん自身もインスパイアされているということでしょうか?
「というより勇気をもらっちゃいますね。僕個人としてはローファイなサウンドが好きなんです。そう思って聴いているわけではないんですけど、〈これいいな〉と思うものが、世間的にはローファイとみなされているという。あえてチープさを出したいというところが自分の中でいつもあるんです」
――90’sのUSインディーシーンにもローファイなサウンドのアーティストがたくさんいましたよね。そのようなアーティストも聴いていたりしましたか?
「ミディからリリースしていた頃はもう、モロにそういった音楽を聴いてました。リアルタイムでしたから。僕はしっくり来てましたね」
――松江さんの最初の印象はロックギタリストでしたが、このように話を聞いていると、音楽的な好奇心がすごく旺盛というか、色々な音楽を聴いて、取り入れようという気概を感じます
「そうですね、まず〈第一にリスナーである〉という意識があるんです。ギタリスト、コンポーザー、アーティストと、色々な肩書きはありますが、まずは〈リスナー〉であると答えます。もともとは音楽を聴くのが好きでしたし、そこから全てが始まっていったんですよね」
――90年代から日本の音楽シーンで活動されてきて、変化は感じますか?
「それはめちゃくちゃ感じますね。音楽や演奏そのものはそんなに変わらないんですけど、メディアが変わったんだと思います。ミディでデビューした当時は、音楽制作のやりとりが全てカセットテープだったんですよ。それでミディをやめて、SPOOZYSでの活動を始めたタイミングでMDが出てきた。自宅でのレコーディングも最初はカセットMTRでやってたんですけど、そのあとは8トラックのオープンリールを使い、次にハードディスクレコーディングが登場してきたんです。そこからCubase、Pro Tools、Logicという変遷をたどっています。携帯もない時代からやっているので、その変化が音楽に与えている影響はもちろん感じますよね」
――CDの売り上げが減るなど、〈音楽業界は厳しい〉と言われるようになって久しいですが、松江さんが仰ったように、DTMの登場によってパソコン1つで自宅レコーディングができたり、自分で作品をデジタルリリースできるなど、現代ならではのいい面もある気はします。松江さんはどう捉えていますか?
「僕はどちらかというとポジティブに捉えてるんですよね。今はサブスクで何でも聴けますし、おすすめもされる。それで知らないアーティストの曲を聴いて好きになることもあります。2000年前後はレコード屋に行って、アメリカとかイギリスのインディー系のアーティストの作品を買いまくってたんです。それでジャケ買いなどもして、新しい音楽を見つけてた。それが今はオンラインで(前述の)PREPといった海外アーティストとも繋がれる。僕はエレクトロニックミュージックも聴いているのですが、ストリーミングで聴いていると普通出会えないようなマイナーな音楽も紐づいて出てきますからね。それはすごく嬉しいことですし、逆に僕のことを全く知らない人がオンラインで取り上げてくれるのも同様に嬉しい。そこには偏見がないというか、本来の正しい聞かれ方だとも思います」
――最近日本人のアーティストで注目している人はいますか?
「Sweet Williamというトラックメイカーがいいですね。唾奇というラッパーにトラックを提供したりしている人です」
ーーヒップホップシーンは国内外ともに面白くなってますよね。パソコンとDTMさえあれば誰でもすぐに始められる点もヒップホップが持つDIY精神に通じるのか
「今はトラックの作り方とかもYouTubeにアップされているじゃないですか。ローファイヒップホップの作り方、とかもあるんですよ。使っているプラグインとかも紹介されていて。それが面白くて、例えば、テープに一度レコーディングして作っているのかと思いきや、テープの音質を再現してくれるシミュレーターのようなプラグインがあるんですよね。しかも無料でDLできてしまったり。そういうのには元気もらいますよね。技術とか頭の良さとかお金がなくてもやりたければすぐにできるという」
――松江さんからここまでヒップホップの話が出てくるとは思いませんでした
「僕はテクノなどのエレクトロニックミュージックが好きなので、ヒップホップは無関係じゃないんです。Afrika BambaataaがKraftwerkから影響を受けているように。なので、かなり最初期からヒップホップは楽しんでました」
――コロナ禍はどのように過ごされてましたか?
「去年は入っていた仕事も無くなり、大打撃でした。その分、このようなリリースの話があったので、そちらにシフトした感じですね。実は2019年くらいから暗い雰囲気のテクノのアルバムを作ろう、という考えがあったんです。だけど、コロナ禍になり、世の中のムード的にもそのような作品を出せるような状況ではなくなってしまい...。
それに、僕としても、もっと爽やかというか、シティポップやAORの要素が入った楽園的で前向きな音楽が聴きたくなってきたんですよね。そういうこともあり、去年出した3作はわりとそのコンセプトで統一されていると思います。気持ちよく聴けるというか。今回の『解体ディスコ』もそうですけど、楽しいというか、暗い感じのテクノにはならなかったんですよね」
――確かに世の中的にも、優しさとか、温かさとか、前向きな気持ちにしてくれるものが求められている気はしますね
「そうですね。意外と健全だからこそ、暗いものも受け入れられたりするんですよね。こういう状態になると、せめて音楽を聞いてる時、作っている時くらいは楽しくしたいと思いましたね」
――今後のアーティストとしての活動の展望を聞かせてください
「今作に続けてあと2曲出す予定で、曲ももう出来上がっています。残すところはミックスやアートワークのみなので、年内にはリリースできるかと思います。来年の5月くらいに出したい曲もあって、それがかなりシティポップ寄りの夏っぽい曲で、そのころにアルバムのリリースも考えてます。そこに収録したい曲を今作っている感じです。当面はミディで作品をリリースしていく流れになっていますね」
――今回リリースされたシングルの延長線上にあるような作風ということでしょうか?
「そうですね。そうなると思います。もっとはっきりと歌が入るものや、インストも収録される予定です」
ーー非常に楽しみなニュースです。ありがとうございます!