
音楽プロデューサー澤田信二が語るギタリスト和田アキラの魅力と「Ballads」シリーズ
今年3月に死去したギタリスト、和田アキラ氏。日本のフュージョンシーンにおける先駆的バンド、プリズムのメンバーとしての活動に加え、多彩なアーティストとの共演やコラボレーションを通じて、多くのレガシーを残してきた。
ミディでもソロ名義で『Ballads』シリーズ、そしてPRISMとしてはライブレコーディングアルバム『三位一体』をリリースしている。これらの作品は2017年に配信も開始され、iTunes Storeやレコチョクなど各種プラットフォームにてダウンロード可能だ。
本記事ではフュージョン黎明期から和田氏と親しく、仕事をしてきた音楽プロデューサーの澤田信二にインタビューし、同氏との思い出や、エピソードについて語ってもらい、その魅力を振り返る。
――まず、澤田さんのご経歴について教えていただけますか?
澤田「職歴でいうと、新宿に〈帝都無線〉という楽器やレコードを売っている店があったんです。もともとミュージシャン志望だったのですが、仕事もしなければいけない、ということでそこで働き始めました」
――年代的にはいつ頃ですか?
澤田「1971年。ニューミュージックがものすごく売れている時期で、吉田拓郎なんかがエレック(レコードレーベル)でやっていた頃じゃないでしょうか。音楽産業が一気に大きくなり、21歳の時には八王子の支店長をやっていました。その次は立川店、と店を任されていました。
1975年に吉田拓郎と井上陽水、泉谷しげる、小室等がフォーライフレコードを作ったんです。そこで社員を募集していたので、入社しました。最初は営業、その次に制作にいき、原田真二や水谷豊の制作に携わりました。僕が最初にやった企画は松武秀樹。まだ、YMOでシンセサイザーのプログラマーを担当する前のことで、松武のリーダーアルバムを2枚作りました。
松武は富田勲の一番弟子だったんです。冨田勲によるドビュッシーをシンセサイザーで解釈したアルバム『Snowflakes Are Dancing』がアメリカで発売され、ビルボードにもチャートインしていたので、僕もシンセサイザーものがやりたいと思ったんです。ウェンディー・カーロスの『Switched-On Bach』とか知ってますか?」
――いえ、ちょっと存じてないです…
澤田「これはシンセサイザーものとしては最初のアルバムでエポックメイキングでした。そういったことを知り、それなら自分もやってみようと思っていた時に、ちょうど松武と仕事をしていたので実現したんです。制作した2枚のアルバムは『SPACE FANTASY+LIVE SPACE FANTASY(紙ジャケット仕様)』としてリマスター再発もされてますよ。
このライブ盤の方は亡くなったポンタも参加しています。参加メンバーのうち、深町純(キーボード)、乾裕樹(キーボード)とポンタの三人が亡くなっています。もう一人のキーボードプレイヤー、江夏健二は「ウォン・ウィンツァン」という中国名に戻して活動しています。
その後、79年か80年にはフォーライフから独立しました。それで最初に仕事をしたのがカシオペアだったんです」
――なるほど、それは音楽プロデューサーとして独立されたということですか?
澤田「そうです。その頃、カシオペアはアルファレコードに所属していて、同じくアルファでYMOを担当していたのが大藏さん(ミディ創業者)だったんです」
――そこでミディに繋がるんですね
澤田「一緒に仕事をしたことはないものの、大藏さんはもともとキングレコードにいた人なので、お互いレコード会社上がりで同じ仕事をしているということで、存在は知っていましたね」
――なるほど
澤田「そして、カシオペアから和田アキラとも知り合うわけです。あの頃のフュージョンのシーンはみんな知り合いでしたし、カシオペアでダブルブッキングのトラブルが発生したときに、ギターとドラムをプリズムのアキラとリカ(当時のドラマー)に頼んだりしていたので。アキラに振れる仕事は全部振っていました。
1992年にバルセロナオリンピックがあって、寺田恵子の『PARADISE WIND』という曲がNHKのテーマソングになりました。カシオペアの後にプロデュースしたのがSHOW-YAというロックバンドで、寺田はそのボーカリストでした。バンドを脱退し、ソロとしての復帰第一作がこの曲だったんです。そして、彼女の1stソロアルバム『BODY & SOUL』でもアキラにギターを弾いてもらってます。
あとは、ISAOというBABYMETALにも参加している8弦ギターを弾くギタリストがいて、彼がやっているbright-NOA(ブライトノア)というバンドのデビューアルバムはアキラと共同でプロデュースしています。アキラには他の新人のアルバムでも弾いてもらっています」
――本当に色々な仕事をされていたんですね
澤田「1996年くらいに高円寺に住んでいて、アキラも高円寺に住んでいたのでなぜかよく会ったんです。それで一緒に何かやるかということで、ミディからリリースされている『Ballads』のシリーズだったり、プリズムの『三位一体』が生まれたわけです」
――フュージョンバンドの数も限られていたからこそ、強固なコミュニティがあり、交流が盛んだったということでしょうか?
澤田「そうですね、日比谷の野音でカシオペアやプリズム、あと、ギタリストの山岸潤史とこの間亡くなったサックス奏者の土岐英史のバンド、チキンシャックなど、バンドを4つくらい集めてライブをしたりしました。そのころは〈フュージョン〉ではなく、〈クロスオーバー〉と呼ばれている時代でした」
――その辺りはみんな知り合いということですね
澤田「そうですね、アキラは一時期体を壊したりもしたのですが、そのころも交流は続いていました。ジャズピアニストの松岡直也とのグループ〈ウィシンズ〉でもかなりやっていて、面白かったですね。
アキラの演奏が早くて上手いのはもちろんなのですが、僕としてはそれだけじゃないものがやりたい、ということでミディから最初にリリースされた『Ballads』はジョン・コルトレーンの作品『Ballads』の完全カバーアルバムで〈ゆっくり弾く〉ことがモットーでした」
――それはかなり新しい試みだったのでしょうか?
澤田「というよりも、早く弾かなくても十分にかっこよかったので。分かる人には分かるはずです。毎日新聞に川崎浩さんという音楽関連の記事をたくさん書いている記者がいるのですが、彼には分かったみたいです」
――ミディでリリースされた経緯はどのようなものだったのでしょうか?
澤田「それは僕と大藏さんの仲ですね。話をして、大藏さんは〈いいんじゃない〉と言っていたので。プリズムのライブアルバム『三位一体』(MIDI 2005)はリアルタイム録音されていて、編集もほとんど施していません。冗長な部分を切った程度です。トリオ編成のバンドであそこまでリアルに弾き倒したアルバムはあまりないと思います。ドラムスの木村万作ももちろんですが、ベースの岡田治郎も死ぬほど上手かったですね」
――和田アキラさんは楽器としてはギター一筋だったんでしょうか?
澤田「もうそれはギターバカですね。家に行ってもいつもギターを抱えていて、弾きながら世間話をするような人でした」
――他にはどういったコラボレーションがあったのでしょうか?
澤田「アキラはプリズム以外にもKEEPというバンドをやっていて、これはキーボーディストの深町純とドラムスに山木秀夫、ベースに富倉安生という4人編成で、フュージョンの局地のような音楽で面白かったですね。深町純もとても面白いミュージシャンで、アキラと同じで行けるだけ行くタイプだったので、相性も良かったんだと思います。深町なんかは全く遠慮しなかったので、セッションも面白かったですね」
――ミディからリリースされている『Ballads』シリーズですが、2作目以降もビートルズやサンタナなど、多彩な楽曲をカバーされています。選曲のポイントなどはあったのでしょうか?
澤田「特にはないですね。ただ、ビートルズの『A Day in the Life』なんかはジャズギタリストのウェス・モンゴメリーがカバーしていて、そのように他のジャズプレイヤーがやっていて面白かった曲をピックアップしてみたりもしました」
――なるほど。他にもシリーズにまつわるエピソードはありますか?
澤田「だらだらゆっくりやろう、という感じでしたね。早く弾けて上手いのは分かっていることだったので」
――澤田さんから見た、和田アキラさんのギターの魅力について教えてください
澤田「真面目にやっているというよりは、勝手に弾いてるとしか思えない感じでしたね。ただ早い、上手いということでは全くなく、中から出てくる感じがありました。〈こう弾いてやろう〉というようなところが全く感じられないんですよ。もちろん本人は一生懸命なんですけど、気負いがないというか、別格でしたね」
――そんな和田アキラさんが〈ゆっくり弾こう〉と取り組んだ『Ballads』シリーズはアプローチとしても独自性があったということなのしょうか?
澤田「そうですね、〈そのうち早く弾けなくなるんだから〉なんていう笑い話もしていました」
――アットホームな環境で気楽に制作されたということで、ある意味和田アキラさんのパーソナルな部分が滲み出たと捉えてもいいのでしょうか?
澤田「パーソナルというよりは、力んでいないので彼の音楽の本質的な部分が出せていることが良かったと思っています」
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