私の日常は誰かの特別 SEKAI HOTEL│大阪ホテル #HOTELIST
SEKAI HOTELは、大阪の下町「布施」の一画にある少し変わったホテルだ。
布施(ふせ)駅は大阪駅から御堂筋線に乗り、近鉄奈良線に乗り換えて30分ほどで着く。
東京でいえば蒲田駅か、いや鶯谷駅か。商店街があり活気のある下町。観光地らしい観光地は、特に無い。
もともと近鉄奈良線は、奈良駅と布施駅をつなぐ路線だった。開業は1914年と大正時代まで遡る。
もともと近鉄奈良線の終点駅だった布施は、当時この地域で一番活気のある街だった。今でも高架を挟んで、商店街のアーケードが南北に伸びている。
1970年に近鉄難波線が開通し、奈良から直通で難波に出られるようになってからは乗降客数もだいぶ減ったと聞く。
けれど今でも街には人がいて、近郊の大型スーパーではなく、商店街で買い物している姿も見かける。
大阪でもディープな街、布施。SEKAIHOTELはそんな布施の日常を体験できるホテルなんだそう。
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■街に溶け込んだチェックインカフェ
Google Mapをもう一度見る。
確かにこのあたりなのだが……。目的地を示す赤いアイコンは、大きな通りから一本入った路地の中ほどを指している。けれど、ホテルらしき建物は見あたらない。
どういうことだろう。
3度ほど往復した道を、今度はじっくりと1店舗ずつ見ながら歩く。
「ん?」
閉店してる洋服やかと思ったら、どうやらここがホテルのようだ。すっかり見落としていた。
「こんにちはー・・」
「あ、こんにちは」
カランカラン。という音とともに、カウンターの奥から白Tシャツの青年が出てきた。胸にはSEKAIHOTELのロゴがある。
どうやらここで間違いないようだ。カウンターでチェックインを済ませてもらっている間にカフェを見渡す。
表情豊かなグレイの壁に、黒く塗装された直線的なライト。木目の床や天井にはあたたかみがある。
どこかレトロなオレンジ色のソファがアクセントになっている。
「では、SEKAIHOTELについて簡単にご説明しますね。
SEKAIHOTELでは布施の日常を過ごしてもらいたく、宿泊者の皆様にSEKAI PASSをご用意しております。ここに掲載されているお店は、通常よりもお得に利用できますので、ぜひ遊びに行ってみてください。
ちなみに、なぜ布施の日常体験を勧めているのかというと、僕たちの思いとして"私たちの日常は、誰かにとっての非日常であり、世界中の何処もが旅行先になる"と考えているからなんです。
じゃあ、お部屋までお連れいたしますね。」
青年はカウンターからぐるっと周り、扉のほうへ近づいていく。
「あれ?ホテル、ここじゃないんですか?」
「部屋は商店街の中にあるんです」
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■商店街のどまんなかにあるホテルの部屋
そう言うと、彼はずいずいと歩き始めた。八百屋さんの角を曲がり、商店街の奥へと進んでいく。私は慌てて彼について行く。
時々立ち止まりながら、「ここの酒屋さん、実は隣に角打ちがあって、あの看板が出てるときだけやってるんですよ」
「ここを曲がった先に銭湯があるんで、よかったら夜行ってみてくださいね」「あっ。ここのおばあちゃんの七味、すっごく香りがいいんです。目の前でブレンドして、作ってくれます」
歩いている時間にして5分もかからないのだが、溢れんばかりに布施のスポットを話してくれる。
「お部屋はここです」と、彼が立ち止まったのは商店街のど真ん中。
「ここはもともと空き店舗だったんです。SEKAIHOTELで改修して、宿泊者のお部屋にしたんです。はい、鍵はこれです。なにかあったら、カフェにいますのでご連絡くださいね。」
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ホテルが商店街の中にあることは、想像できた。
けれど、今日泊まる部屋が商店街にあるとは思わなかった。本来なら建物に入り、入り口でチェックインして、廊下を通って、部屋に辿りつく。部屋にはいる瞬間は、ホテルに泊まるときの醍醐味の1つだ。
これじゃ、家じゃないか。
けど、なんだか妙に緊張する。
そうっとドアを開けると、シンプルな1Rの部屋だった。目の前にカフェのようなローテーブル。奥には簡単な水回りとミニ冷蔵庫。
玄関がないので、個室空間と公共との間の空間だ。カフェのような、部屋のような。なんだか曖昧な空間がおもしろい。
ベッドは少し奥まって置かれており、外からは見えないような配置になっている。
カフェと同じテイストのペンダントライトに、黒く塗装された金網が無骨な雰囲気を醸しておりかっこいい。秘密基地のようだ。
漆喰風の壁や、寝室部の床や天井に木材を使用したりと、インテリアの細かいところにもこだわりが感じられる。まだ新しく、とてもきれいだ。
外を歩いている人たちの声、自転車が鳴らすベルの音、キャッキャ駆け回っている少年たちの声。そんな生活音が微かに聞こえてくる。少し防音は弱いのかもしれない。
部屋が商店街の中に溶け込んでいる。
そうか、これは布施の人たちの日常なのか。
夜になれば彼らの声や足音は聞こえなくなるのだろう。もしお店をもったらこんな感じなのだろうか…なんて考えながら荷物をおろし、一息ついた。
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■布施を存分に楽しむ「和菓子づくり」
SEKAIHOTELでは、街を楽しむ体験プランを複数用意している。
この日はせっかくなので「和菓子作り体験」を予約していた。予約した時間にカフェに戻ると、女性のスタッフさんに声をかけられた。案内してくれるそうだ。
和菓子屋さんは、カフェから徒歩10分ほど。
店主のおじいさんに挨拶すると、手を洗うよう促される。まずは、おじいさんがお手本を見せてくれた。
おはぎがおじいさんの手元で、いとも簡単にころころと作られる。
「ほれ、簡単やろ。やってみ」
「あんこをまるめてな、そうそう。」
「もち米は手に付きやすいから、すぐにころころしたらええんよ。ほれ、こう」
「ええやん、簡単やろ」
基本のベースはもち米をころがして、それをあんこで包む。文字にすると簡単なのだが、実際に手を動かしてみると、これが思うように自分の手が動かなくて難しい。
「んじゃ次は、桜の花な」
白餡に2、3滴赤色着色剤を入れて、ピンク色にした餡を型に詰める。
木の棒で花びらの切り込みを入れ、
ザルで濾した黄色の餡をそっと花びらの中心に乗せる。
見様見真似でつくるのだが、楽しい。
まるで粘土遊びのようだ。
なんだかんだ、1時間半があっという間に立ってしまった。
体験プランでおもしろかったのが、和菓子づくり体験とは関係ないのだが、作っている途中で当然のように知らないおっちゃんが厨房に入ってきたことだ。
あまりに自然に私達に話しかけてきたので、ホテルの関係者かと思っていたのだが、どうやら和菓子屋おじいさんの同級生とのこと。
あとからスタッフさんに聞いたのだが、これくらいのことは日常的にあるのが大阪布施なんだそう。
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■タイムトラベルするなら夜の大阪布施へ
布施はディープな街だ。歩いているだけで、タイムトラベルしたような気分になる。線路を挟んで、南北で街の顔が違う。
SEKAIHOTELがあるのは南だ。生活用品店が多いので昼間に賑わうが、夜はシャッターが続く。
一方北は、飲み屋やちょっとあれなお店が集まっていて全く違う顔だ。綺羅びやかな袖看板を眺めながら散策をする。
あちら側は違う世界のようだ。
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夜は、そば粉を使ったガレット風お好み焼き。パスポートに掲載されいている「よしひろ」の名物だ。これがまたビールにあって美味しい。
この日は、SEKAIHOTELのスタッフさんたちと会う約束をしていた。2軒目は、彼らの行きつけの居酒屋さんに行く。
お店に入ると、懐かしい景色。
せまーい通路に肩がぶつかるほどの距離で座る客。
常連さんでいっぱいの居酒屋には、がちゃがちゃと幸せな音にあふれていた。スタッフの2人と並んで、角の席に座る。
関東で見たことのない「ひやしあめサワー」を見つけたので頼んでみた。
「ひやしあめ」は雑に言ってしまうと、あまーく煮詰めたジンジャーシロップである。関西では夏の定番の飲み物なんだそう。ぴりりとジンジャーの辛みもあり、さっぱりとして飲みやすい。
なんだか懐かしい味がする。
「あんた、どっから来たの~」
突然、隣の人に話しかけられた。彼、なのだが彼女は、どうやらマスターとは旧知の仲なんだそう。しばらく前まで、このあたりでママをやっていたとの話だった。
ここでは人と人の距離が近い。
24時になる少し前に、私たちはお店を出たが、本当は布施の夜の序の口だったかもしれない。
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■タバコの匂いのする朝の喫茶店
朝。寝起きの私の耳に、人が行き交う音が聞こえてくる。
「……。ああ、そうか。」と寝ぼけながら、街の音を布団の中で聞く。
そういえば、モーニングの美味しいお店があると言ってたな。着替えていこう。
店に入ると昔ながらの喫茶店。店内には少し埃っぽい匂いとタバコの匂いが入り混じる。席に着いて、私はモーニングを頼んだ。
「おおきに」という言葉と一緒に、置かれたのはたまごサンドだ。
ふわふわのたまごとハムと食パン。昔ながらのサンドイッチ。
まるで雑誌で見るようなレトロな喫茶店の空間に身を委ねて、ふと思う。きっと毎日ここに通う人もいるのだろう。布施の人たちの日常がここにあるのだ。
布施の日常は、私の特別なのか。彼が昨日教えてくれた言葉を思い出す。
つまりだ、私の日常も誰かの特別なのだ。
世界中飛び回らなくても、あなたにとって特別な体験って、実は身近にあるに違いない。
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布施を案内してくださったお2人。小林昂太さんと渡辺優さん。素敵な体験をありがとうございました!
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■大勢で泊まる部屋もありました
▲コンセントが各布団の上にあるの、めちゃくちゃわかってる。
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余談なのだが、ここで飲んだひやしあめサワーが美味しかったので、私はあの紹介してもらった酒屋さんでシロップを買いました。幸せのお持ち帰り。
ホテル紹介マガジン書いています。よかったら見てね。