19.ANTHOLOGY にも収録されたYour Mother Should Know のリメイクの目的は?

Your Mother Should Knowは一旦はレコーディングが完了したものも、一ヶ月後にリメイク(『ANTHOLOGY 2』)し、再び最初の録音に戻って完成させています。

ただし、「マーチ風にリメイクしてみたけどダメだった」という程度の認識でそれ以上の追求はされていません。

ところが、事実を集めて辻褄を合わせていくだけでも流れは掴めるもので、リメイクバージョンは正にこの手法で理解できます。

先ずはこの時期の流れを列挙してみます。

68年4月にポールはMAGICAL MYSTERY TOURの構想を思い付き、テーマ曲Magical Mystery Tourのレコーディングまで済ませています。

ただし、全世界衛星中継OUR WORLDのイギリス代表に決まると、6月末まではAll You Need Is Loveの作業が中心となり、その後は休暇に入ります。

ポールは自宅のリビング・ルームに親族を招いた家族的な雰囲気の中、ホールを挟んだダイニング・ルームのドアを開けてハーモニウム演奏を聴かせている内に‘Your Mother Should Know’が浮かんだと語っています。
ポールがホームパーティーを頻繁に開いていたのでなければ、この出来事は5月のAll Together Now と同じ日と思われます。それを完成させたのがAll You Need Is Love後の休暇中だったのでしょう。

当初から映画の挿入歌となる事を想定していたものの、どのように使うかは未定でした。それでも休暇明けの最初の作業として8月22日から23日にかけてレコーディングをしました。

その僅か4日後、8月27日にマネージャーのブライアン・エプスタインが亡くなり、状況が一変します。

そして舵を失ったビートルズはポール主導で『MAGICAL MYSTERY TOUR』の制作をスタートさせます。と言ってもボンヤリとしたアイデアのままクランクインして着地点のハッキリしない撮影が進みます。この点はアルバムに添付されていたブックレット内容との相違からも窺い知れます。

最初の撮影は以下の通りです。
9/11~9/15 ロンドンから西へバス・ツアー
9/11 出発、バスの中のシーン
9/12 ジョリー・ジミー・ジョンソンの登場シーン
9/13 ジェシーとブラッドベセルがビーチで戯れるシーン(BBCの初回放送ではカット)、ハッピー・ナットのシーンをジョンが撮影(BluRayに収録)、リンゴとジェシーがバス内で口論するシーンをポールが撮影、等
9/14 乗客が草原でテントに入るシーン
9/15 バスの中でアコーディオン伴奏に乗せて歌うシーン

Your Mother Should Knowのリメイクはこのタイミング(9月16日)です。つまり、ようやく曲の使い方(フィナーレでのBGM)を決めた事が分かります。

出来上がったYour Mother Should Know (Take 27)は「映画班がビートルズの振り付けを考えるために持ち帰った。」とされている以上、24日のフィナーレ撮影はこのリメイクバージョンに合わせた振り付けであり、撮影に使われたのもこの演奏と見るのが妥当でしょう。

再リメイクはフィナーレ撮影の後で(9月29日)、リメイク前の演奏に戻ってオルガンとベースを追加して完成させています。

ここからが本題です。

リメイクバージョンの曲構成自体は変更がなく、マーチ風にしてテンポをアップ(4%)しているのが特徴となっています。エンディングをフェードアウトにするというのは撮影の都合だったと思われます。

フィナーレ向きのアレンジにしたものの、やはり曲としては最初のアレンジが良かったのでしょう。リメイク前に戻ってオルガンとベースを追加して完成していますが、他にも最後のコーラス“yeah yeah”を足しているはずです。
映画で最後に右手を差し出す振り付けが繰り返されるのは正式リリース・バージョンとの辻褄合わせでしょう。 振り付けは1回ですが、映画では別テイク2つを足して調整しているのが分かります。

また、当然ながら映像とはテンポが合わないので、録音完了直後のモノ・ミキシングでは20%強もスピードを上げて作成しています(まだ謎がありそうな違和感ですが)。

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