27.シングルGet Backを制作したのは誰?
今年の話題、ゲットバックセッションですが、情報があやふやなのが難点となっています。その主たる原因は記録の整備されているアビイロードを離れて作業した事です。
マーク・ルウィソーン氏はEMIの収支資料からレコーディング過程を掴もうとしたようです。
現在判明している情報の大半はブートレッグを根拠としています。それをどの程度信用するかは各自の判断ですが、少なくとも今夏にはオフィシャル情報が提供される事になりますので大幅に改訂されるものもあるでしょう。
そして、現時点で最も信頼できるのはエンジニアとして中心人物となっていたグリン・ジョンズの自伝です。そこでは自身のミックスがリリースされたと語っています。
と言ってしまうと終わってしまいますが、先ずは公知の経緯を確認します。
69年3月にGet Backのシングル盤用ミックスをビートルズがEMIに依頼し、3/26にアセテート盤が作成されています。ただし、プロデューサであるマーティンは関与せず、作業したのはジェフ・ジャラットでした。
注:ジェフ・ジャラットは『MAGICAL MYSTERY TOUR』の時期(67年秋)にセカンド・エンジニアを務めた人物です。
しかし、このミックスにポールがNGを出し、改めてグリン・ジョンズに依頼しています。
スティーブ・ミラー・バンドのアルバム制作(ゲットバックセッション直後に着手)が一段落したジョンズは、この時期にオリンピック・サウンド・スタジオでストーンズの『LET IT BLEED』を再開していました(3月9日以降)。更にジョージがプロデューサとなっているビリー・プレストンのアルバム『That's The Way God Planned It』にも協力しています(4月)。
作業はそれらと並行してオリンピック・サウンド・スタジオで行われます。当然、この詳細は謎に包まれてしまいます。
ここからが「音で読み解く」の本領発揮です。
先ず、B面となるDon't Let Me Downはジョンとポールがボーカルの差し替えを行っています。この時にポールとジョージのコーラスを消しているのでジョージが参加していなかった事は確実です。
本題のGet Backは、1/27の本編をフェイクエンディングとして1/28のリフレイン部を繋いでいます。これがグリン・ジョンズ・ミックスの特徴となります。
4/6、BBCラジオ1で‘Get Back’のアセテート盤を放送してニュー・シングルのリリースを発表しますが、その音に満足できなかったポールは再ミキシングを決めます。
翌4/7、ジェフ・エメリックの回顧録はこの日と思われます。
エメリックによると、この時、オリンピック・サウンド・スタジオにマーティンは居らず、ジョンズはスピーカーを3つ使って(センターのスピーカーはスネア専用)バランスを取っています。ジョンズのミキシングはそれくらいスネアを重視していたという事でしょう。
このようにしてモノ・バージョン(イギリス向け)とステレオ・バージョン(アメリカ向け)が作成されますが、プロデューサ名のクレジット無し(マーティンでもない)という異例の形でのリリースとなります。
話はここで終わらず、さらに興味深い事実も判明します。
アメリカではステレオ版シングルとなりますが、この公式音源から決定的な事実をひとつ追加する事ができます。
少し脱線します。
ミックス違いは聴いて気付く人もいますが、「同じ」と確証を持てる人はいません。人間の能力を超えてしまうのです。
ところがミックス違いを調べる方法において「違いが無い」という事は同じである事を意味します。特にミキシング時にボーカルにかけるエコーのニュアンスまで同じとなると同一音源と断言できます。
つまり、ミックス違いは制作過程を知るための手段であり、同一であることは歴史を知る手段になるという事です。
閑話休題。
結論を先に述べると、アルバム『GET BACK』に使われたのはアメリカ盤シングルと同じバージョンです。
ジョンズは5月にアルバム『GET BACK』を編纂していますが、この時に‘Get Back’の再ミキシングをすることなく、アメリカ盤シングル用ステレオ・バージョンを流用したと断定できます。
ブートレッグとして流出した『GET BACK』には複数バージョンがあり、中には音像が左右反転したものがありますが、アメリカ盤シングル用ステレオ・バージョンを基準に判断すれば本来の姿に近付ける事が出来ます。
まだ続きます。
映画製作は遅れに遅れて、7/20と10/3の内輪の試写で内容が大幅に変わり、年末にジョンズは『GET BACK』の修正を依頼されます。
その際もSEを追加しただけで本編は同じミックスを使っています。
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