空飛ぶストレート
「調子はどうかね? 新人くん」
部長が僕の肩をポンと叩き、去っていった。
今日はご機嫌のようだ。
部長の髪は長い。そしてサラサラしている。
ちょっと違和感のあるくらいに。
先輩社員たちは部長のいないところで口々に言う。
「部長の髪、今日もサラッサラだったな」
「まだ若いのに……でも俺だっていつかは」
誰も部長の前では髪のことは話題にしない。
でも、部長は髪のことに触れてほしがっている。
そんな気がする。
きっと誰も触れてくれなくてもどかしい思いをしている。
圧さえ感じる。
ここは無邪気を装って、言ってあげるのが良いのではないだろうか。
僕は部長にそっと近づいて、つまづいたふりをして、髪に触れて言った。
「ぶ、部長。すみません。いやー部長の髪、サラサラで素敵ですね」
その途端、部長の顔がぱあっと明るくなったかと思うと、すぐに紅くなり、次の瞬間僕は空を飛んでいた。
「んもう新人くんったら!」
部長のストレートが見事に決まった。