顕微鏡撮影にフラッシュは有効なのか? [生物顕微鏡編]
先日の『顕微鏡撮影にフラッシュは有効なのか? [実体顕微鏡編]』に続き、第2回の今回は[生物顕微鏡編]をお送り致します。
実体顕微鏡においては素晴らしい効果を発揮した、スレーブフラッシュ『ヒカル小町』を使用した撮影方法。
一方で同じ顕微鏡と言えども、全く異なる構造/観察方法を持つ生物顕微鏡に対してはどの程度有効に働くのか??
今回は生物顕微鏡(正立/倒立両観察方式)に対し、透過照明としてのフラッシュの有用性を検証してみました。
まず最初にスレーブフラッシュとは、カメラ内蔵フラッシュの発光に反応して同時発光するフラッシュユニットのことです。しかもケーブル等で接続する必要がなくワイヤレスで使用できるのが最大の魅力です。今回使用する株式会社モーリス製[ヒカル小町Di]は、単三電池2本で駆動する小型な本体で、非常に取り回しの良い商品となっています。
商品の詳細はこちら→ http://www.morrisccc.co.jp/shouhin/shouhin1.htm
一般撮影におけるヒカル小町の詳しい紹介はこちら→
http://k-tai.impress.co.jp/cda/article/stapa/19458.html
なお今回の撮影に使用したのは、キヤノン製一眼レフカメラEOS Kiss X6iを使用した『NY-X6iスーパーシステム』です。
1. 正立顕微鏡でのフラッシュ撮影
まずは正立顕微鏡で検証してみます。正立顕微鏡とは、対物レンズが下向きに付いているタイプのもので、ステージ上の試料を上から観察する最も一般的な構造の顕微鏡です。その際の透過照明の光源は顕微鏡下部に内蔵されており(実際の電球そのものは顕微鏡背面に設置されていますが)、その上にコンデンサーと呼ばれる集光器が付いてるのが一般的です。
さて、早速ヒカル小町を使用して撮影したいところでだったのですが、ここで一つ問題が発生しました。
下写真のように、光源とコンデンサーの間が狭く、ヒカル小町が入らないのです。
そこで、ヒカル小町を分解→発光部を取り出し延長することで、光源とコンデンサーの隙間に収まるサイズに小型化してみました。
[注意]
この記事を読んで行なった行為によって生じた損害に対して、マイクロネットはその責を負いません。
また感電の恐れもあるため、改造に際しては安全に注意し、あくまで自己責任でお願い致します。
思いつきで行った改造ではありましたが、動作は良好。早速、試料の撮影を行いました。
フラッシュは撮影の際にしか使用しないので、位置決めとピント合わせについては通常のハロゲン照明を使用することになります。
撮影したい像が決まったら、小型ヒカル小町を光源の上に乗せてシャッターを切るという手順で撮影を行います。
通常のハロゲン照明を使用した写真(下)と比較してご覧ください。
・ヒカル小町を透過照明に使用した顕微鏡写真 [正立顕微鏡]
[ISO:400 シャッタースピード:1/60]
[拡大]
・通常のハロゲン照明を使用した顕微鏡写真[正立顕微鏡]
[ISO:125 シャッタースピード:1/60]
[拡大]
いかがでしょうか。まず結論から言うと、結果に大きな違いは見られません。
むしろ通常のハロゲン照明を使用した写真の方がノイズも少なく奥行きがあり、色の濃淡も豊かに写し出しており、高品質な写真に仕上がっていると言えます。
その理由については、次の倒立顕微鏡での検証の後に述べたいと思います。
なぜなら、倒立顕微鏡では全く逆の結果が得られたからなのです!
2. 倒立顕微鏡での顕微鏡撮影
続いては倒立顕微鏡での透過撮影です。
倒立顕微鏡とは、対物レンズが上向きに付いており、試料を下から観察するための構造を持った顕微鏡です。
この場合照明は顕微鏡上部に付いているため、最上部のハロゲン光源ユニットを外し、代わりにヒカル小町をあてがうだけでOKです。
この方法で撮影した写真は以下の通りです。
・ヒカル小町を透過照明に使用した顕微鏡写真 [倒立顕微鏡]
[ISO:400 シャッタースピード:1/60]
[拡大]
・通常のハロゲン照明を使用した顕微鏡写真[倒立顕微鏡]
[ISO:6400 シャッタースピード:1/50]
[拡大]
こちらは正立顕微鏡と違い、明確な差が出ています。
ヒカル小町を使用した写真の方がノイズは圧倒的に少なく、輪郭もクッキリとして細かいディテールまで鮮明に撮影できています。
3. まとめ
なぜ正立顕微鏡と倒立顕微鏡でこれほど極端な差が出るのでしょうか。
フラッシュが倒立顕微鏡では有効で、正立顕微鏡ではわずかながら不利となったこの結果には、コンデンサ(集光器)が深く関わっています。
まず正立顕微鏡での撮影で、フラッシュを使用した写真の方がノイズが多かった理由には「通常のハロゲン照明だけで十分な光量があった」という点が上げられます。これによりハロゲン照明での撮影ではカメラ側の自動設定でISO:125という非常に低い感度でノイズレスな写真を撮影できているのです。逆にフラッシュで撮影した方はオートでISO:400と高感度に設定されており、結果ノイズが発生した写真となってしまいました。これは決してフラッシュは光量が足りないということではなく、「フラッシュモードを使用するとカメラが自動でISO:400に固定してしまう」ため、十分に光量があり低感度で撮影できてる前者に比べて、ISOが高い分ノイズが多くなるという結果を生んでいるのです。
また、正立顕微鏡の場合はコンデンサーから試料までの距離が非常に接近しており、外部環境からの影響を極力受けないよう設計されています。このように緻密に設計された光路を光がたどって行く以上、光源がフラッシュに変わったからといって撮影された写真に大きな違いを生むことはないという結果になったのです。
一方で倒立顕微鏡はどうかと言いますと、まず倒立顕微鏡の場合にはコンデンサと試料の間にかなり広い空間があり、その空間を通過する間に光は拡散され弱まります。また倒立顕微鏡内の光路も、対物レンズからカメラ(もしくは接眼レンズ)へ至るまでに何度もプリズムで折り曲げられ、これによってさらに光が弱まっていきます。その結果通常のハロゲン光源では光が乏しく、カメラは高いISO:16800で撮影せざるをえず、ノイズの多い写真となったのです。逆にフラッシュはハロゲン光源で不足していた光量を補い、かつ強い光が輪郭を強調し、よりシャープな写真に仕上がったのです。
いかがでしたでしょうか。実体顕微鏡編とは違い、過程を含めて非常にシビアな検証となりました。
今回の検証を通し、生物顕微鏡は照明法を含めたトータルでの完成を目指して設計されており、言わば「付け入る隙」がないというのが非常に印象的でした。しかしながら、そんな中で倒立顕微鏡については“正立顕微鏡では出来ない観察法”を優先した設計上、透過照明については犠牲にしている部分があり「その点を補うもの」としてフラッシュには有用性があるのではと考えます。
それに、フラッシュは大きなエネルギーを一瞬だけ放出するという特有の発光構造から、熱を持たず、試料を傷める心配も軽減できます。
より繊細な試料を扱う生物顕微鏡だからこそ、フラッシュが生きる要素は他にもたくさんあるのではないでしょうか。
この記事は2013年02月15日に投稿されました。
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