[ゼミログ]演劇の情報保障について
まえがき
SFC演劇自主ゼミは、演劇系のゼミや授業が無いものの遠からず近からずの研究会(アート/デザイン/音楽/人文科学/認知科学など)があるSFC(慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス)で、演劇を研究したりしようとしている学生が学年・研究会を越えて週一1コマ持ち寄って勉強している自主的なゼミです。2021年春学期から夏休み中も含めてコツコツ活動していますが、「いつかSFCに演劇の先生を…!」の悲願を叶えるためには学内外へのリーチが必要ということで、ゼミのログをnoteで公開することになりました。
もしSFC在学生で興味のある方がいたら、noteのコメントや私のTwitterなどでご連絡ください!ぜひ一緒に盛り上げていきましょう…
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今週のテーマ : 演劇の情報保障について
春学期は戦後演劇史をメインに取り上げてきたので、秋学期は演劇の要素や演劇に関わるトピックに焦点を絞った話題を取り上げていきます。今回は「演劇の情報保障」を取り上げました。
個人的な理由ですが、最近たまたま耳の聞こえない方の観劇ブログを拝見しました。私は障害を持たない身で普段演劇を見たり作ったりしていますが、耳が聞こえない方が観劇するときの観劇方法や劇団などとの交渉の様子を知り、私は「演劇や表現をみんなにとってもっと身近にしたい」をモットーの1つにしており興味を持ちました。そして、ブログに書かれていた以下の文章に胸が打たれ、演劇の情報保障の必要性を把握した上でより良い策を考えられればと思い、秋学期1回目のテーマとしました。
東京宝塚劇場でも、聞こえない観客が舞台を楽しむことが出来るよう、1年以上前から交渉を続けてきました。とうとう、「はいからさんが通る」で、聞こえない観客向け対応として、セリフや歌などの文字を見ながら観劇することが叶いました。
(中略)
以前よりサポートがなくても観ていましたが、端末をお借りして観た宝塚は、何日も前から、ワクワクとした気持ちで心が満ちあふれ、当日は、素晴らしい舞台を楽しむことができる、夢のような空間でした。
(中略)
帰り道には舞台を一緒に観に行った家族と、楽しかった時間を反芻するように、素敵だなと思った役者さん、良かった演技、心に残った歌やセリフを沢山語り合いました。
これは、今まで宝塚を観劇してきた中で、初めての体験でした。
(涙。。。)
その他、8月に配信アシスタントさせていただいた「隅田川怒涛夏」で、常時450人くらい視聴者のいたメインチャンネルに対して、手話付きのサブチャンネルに常時80人くらいに視聴されていて、驚きと同時に必要な施策であることを認識するなど、私の中で今エンタメコンテンツの情報保障がアツいです。
(さて、この調子で書いていくと読んでくださっているあなたが疲れてしまうし次回ログを書く人が困ってしまうので、ゼミで使ったスライドを貼りながらサクサク進めていきます)
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ゼミではまず、人間の知る権利を保証するための「情報保障」の概念に触れたあと、2021年6月に可決・成立された改正障害者差別解消法を確認しました。
この改正法が施行されたら、民間事業者でも障害者から情報保障を求められた場合は合理的配慮をすることが今までの努力義務から義務となったようです。「今まで障害者がうちみたいな小さな劇団見に来たことないし〜」って言っている場合ではないのです。いち表現者として、求められたときに自分の表現に適した情報保障を選択し、準備して提供できなければならないのです。
その後、現状一般的に提供されている情報保障方法をざっくり確認しました。
そして、今まで見たり調べたりした演劇の情報保障の実例や、やってみたいことなどを議論しました。
2019年に東京芸術劇場で来日公演されたレッドトーチ・シアターによる「三人姉妹」は、そもそもフル手話+字幕で演出されていたようです。画期的な取り組みであると話題を呼ぶ一方で、手話が視覚言語なのに舞台が広くて物が多く見えにくい、物語のいいところが音楽=聴覚情報でいい感じになっているところに聴覚障害の文化盗用なのではないかという意見も当時出たようです。
また、何気なく手話通訳者を置くと、その人の存在に意味が出てきてしまうことを話したり…(コンテンポラリーダンス的表現では登場人物の気持ちを代弁する周りのダンサーたち、という構造は表現としてちょくちょくあるらしい)(実例のリンクがどっかにいってしまったのであとで貼る)
聴覚障害者への情報保障としてだけでなく、オペラや他言語の舞台では舞台の両端で字幕を表示することがありますが、視線が舞台を見たいのについ字幕を見てしまうという意見から、字幕はどこにあるのがベストかという議論が出たり…(1枚目の写真の左右にある字幕)
情報保障と言っても聴覚障害者への保証例ばかりが見つかる中、ダンス表現をディスクライバーによるディスクライブによって視覚障害者に伝えるワークショップが行われた記事を読んだり…
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作り手として先んじた調査・勉強が昼用な演劇での情報保障について短いながらも議論ができたと思います。
次週は「劇場」の予定です!!
次回は「劇場」をテーマにします。「劇場」の範囲としては、演劇専用の劇場のみならず野外劇場・公共ホール・公園などを含むものだと考えてください。
劇場については、そもそも劇場とは何かという演劇学的な問いや公共ホールの在り方、海外と日本の文化比較・劇場史など多岐に渡った議論が行えるテーマだと思います。
最近では伊丹のアイホールの問題などがホットだったり、全国小劇場ネットワークが法人化したりなどの話題があるかなと思います。