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配信演劇でバリアフリー字幕を付けた話

 このnoteは、3/26~28に上演された配信演劇「反復かつ連続」(柴幸男原作)公演のマガジン記事です。

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 新緑の季節ですね。みなさんいかがお過ごしでしょうか。

 3月に配信にて上演した「反復かつ連続」から1ヶ月経ってしまいました。本noteでは全6公演のうち2公演で実験的に行ったバリアフリー字幕付与の取り組みについて、まとめようと思います。上演前はバタバタして詳しく案内できなかったので…アーカイブは今日4/28までの公開なので、まだの方はぜひ御覧ください(公開終了後は編集して短くした動画を上げるつもりです)。

【公演アーカイブ】(YouTubeにリンクします)
金子晴菜出演・バリアフリー字幕回
髙橋宙出演・バリアフリー字幕回


バリアフリー字幕を付けることにしたきっかけ

 今回の配信公演は、一軒家を借りきり、実際の生活空間を5台のカメラから配信して上演しました。この演出を行うため、快くおうちを貸してくださったのが、家主の藤尾さんでした。藤尾さんは、ろう学校の教師や手話通訳といった、少し珍しい職歴・経験をされていました。
 話を聞いたり、家主さんの活動を知るうちに、自分たちでもできることなら耳の聞こえない人・聞こえにくい人にも演劇を届けたい…!と座組が団結し、今回の取り組みを行うことにしました。

 家主さんとの座談会のうち、字幕に関する記事はこちらです。


演劇での字幕上演の先行事例

 演劇の字幕上演自体は、前々から行われているようです。そもそも聞き取りにくい歌舞伎やオペラでの、観客全員に向けた字幕表示の取り組みは有名かもしれません。小劇場のような小さな規模での舞台演劇でも、英語字幕上演の場に立ち会ったことがあります。
 下の絵は、私がロロ「四角い2つのさみしい窓」東京公演で見た、英語字幕の様子のスケッチです。観客席の端の方からだけ、字幕が見れるようになっており、「字幕が必要な人」「字幕は必要じゃない人」両方が同時に楽しめる観客席構成に唸りました。

名称未設定のアートワーク 6

 最近では、2021年2月にTHEATRE for ALL(アクセシビリティを意識した舞台パフォーマンス等のオンライン配信サービス)がローンチされました。舞台表現を研究の目線で見ているものとして、興味深く動向を観察しています。というのは強がりで、悔しいながら普通にコンテンツ面白いし字幕の付け方などの参考にするために見ています。


補助手段→表現手法??

 個人的には、表現にアクセスできるようにするための手段、通訳であったり字幕であったり音声補助であったりが、表現を拡張する可能性を持っているのではないかと思っています。

 私が学部1年のとき、当時筧研に在籍されていた和田夏実さんという方と知り合いました。ちょうど研究室を探していたのもあって、筧研の研究発表を聴講したり、和田さんのICCでの展示を拝見したりしていたのですが、手話を「視覚的状況を言葉の枠に落とし込みきらず視覚・身体表現で伝えられる視覚言語である」と捉えられることを知って、手話に対する思いが「仕方なしに使う手段→優れた表現言語」に変化したのを覚えています。

和田さんの作品「Visual Creole」

 また今回上演した「反復かつ連続」は、本家である劇団ままごとの上演では、素舞台の背後に英語字幕が「演出」として付けられていました。本作品は、一人の役者が1役ずつ全6役分の演技をし、前の演技と重なっていくことで徐々に会話の全容がわかるような構造になっています。英語字幕を一定の場所ではなく、その役がいる・いた場所に表示することにより、英語話者への補助としてだけでなく、舞台に残した前の役者の動作や導線を思い出す手がかりとして、効果的に字幕が使われていました。


 私はもともとメイカームーブメントに興味があり、作品制作→委託販売をしたり、過去にはメイカーフェアに出展したりしています。多分そこからだと思うのですが、「一部の人のための表現活動」より「みんなのための表現」「みんなが表現やものづくりをすること」に興味があります。

 その他、座組のメンバーそれぞれに違った思いがあったかと思いますが、自分たちの表現の挑戦として、バリアフリー字幕の制作を決めました。


バリアフリー字幕を作る : データの作り方

※少し技術的な話が登場します。

 そもそも字幕とバリアフリー字幕の違いは何でしょうか。 

バリアフリーという言葉の通り、音が聞こえない、聞こえにくい人でも、その映像作品を楽しむためのもの、簡単に言うとこういうことです。でも、それは日常的に見ている洋画についた翻訳字幕のように、台詞のみでは、楽しむことはできません。音楽や効果音の説明、話者表記等が必要となります。これがバリアフリー字幕です。(シネマテーク動画教室より)

 つまり、通常の字幕のようにただセリフを文字に起こすだけではなく、聴覚障害者が作品の理解に必要な音情報を全て文字化して表示したものがバリアフリー字幕です(と理解して制作しました)。

 バリアフリー字幕について、丁度字幕上演を悩んでいたときにTwitterで話題になって、私も参考にしたツイートを貼っておきます。

 実際のデータ作成では、音情報を文字に起こすためのルールが必要となります。下記サイトを参考にしました。

 公演で使用した字幕データの一部がこちらです。

 演出の都合上「話者表記はしない」ことにしましたが、その変わり以下のような工夫をしました。特に③では、一般的な画面下部帯字幕に対して、役者の位置を視覚化することで理解の手助けとなれたのではないかと思っています。ままごとさんの英語字幕から着想しました。

① 登場人物で表示色を分ける
② 読みやすいようにセリフが詰まっているところは同時に表示する
③ 会話のやりとりが分かりやすいように、役者の発声位置を目安にして字幕の表示場所を左・中央・右に振る


バリアフリー字幕を作る : 字幕合成方法

 バリアフリー字幕データを事前にKeynoteで作成し、配信ソフト(OBS)のクロマキー合成によって配信画面に表示する手法で実現しました。配信時は、字幕用のオペレータを一人確保し、劇の進行に合わせて400枚を超えるスライドを切り替えていきました。

【人物の立ち位置を参考に、表示場所を決める】

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【表示色を変える・発話が詰まっているところはまとめて表示する】

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【合成の様子】

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上演してみて

 字幕が必要な人もいれば必要ではない人もいるという状況を踏まえ、全6回公演のうち最後の2回のみで字幕上演を行いました。

 告知が直前になりすぎたために、聴覚障害を持たれている方へのリーチが足りなかったという制作的反省点はありつつ、耳の聞こえない・聞こえにくい方からの「劇が面白かった」という感想を人づてにお聞きしたり、年配の方から「字幕があったから聞きやすくてよかった」といった感想をいただくなど、一定の効果はあったかなと思います。


まとめ・これからについて

 長々書いてしまいましたが、所感として字幕の実現に多大な労力は必要ありませんでした。本公演やこの記事を見た誰かが、バリアフリー字幕に挑戦しようと思っていただければ幸いです(この記事からご相談や疑問等あればお気軽にご連絡ください)。また、今回は字幕でしたが、色んな人にとって鑑賞の妨げになるものを一つずつほどいていく取り組みを今後していければと思いますし、そのような流れになっていけば…と思います。

 私は学部での卒業研究に引き続き、修士研究で配信と演劇・舞台パフォーマンスについて実践&考察をしていく予定です。脚本や演出や演技や舞台技術それぞれについては、プロの方々には到底及びません。しかし、学術組織に属する一人として、今後の表現のきっかけやアイデアになるような試行を続けていきたいと思います。

さらにこれは個人的なお気持ち表明なのですが、困っていたり配信で新しいことをしたいアーティストの支援を!修士ではしたい!と考えています!ご相談お待ちしております!!


進学によって入れるようになった大学院棟より
モハこと松橋百葉




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モハ
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