Ryota Mikami 「東伊豆町稲取音楽記録(滞在まとめ)」
こんにちは!6泊7日、東伊豆町稲取にて、合同会社so-anさんをホストに滞在制作させていただいた音楽家のRyota Mikamiと申します。
滞在のまとめとして、今回滞在しながら作った音楽10曲についてご紹介しながら1週間の振り返りをできればと思います。
自己紹介
僕は、普段は「Vegetable Record」という「音楽の新しい楽しみ方・価値観を創る」をコンセプトに掲げた、音楽レーベル・音楽ユニットを同じくソロアーティストのSyotaro Hayashiとやっています。
デジタルや建築空間など、あらゆる対象をCDやレコードのような音楽のメディアのひとつとして捉えた「音楽を使った空間デザイン」「音楽を使ったプロダクトデザイン」などを手がけているのですが、今回はソロ名義「Ryota Mikami」として参加しました。
滞在制作「東伊豆町稲取音楽記録」について
今回の滞在では、印象的だった日々の記録を音楽の日記のような形で短い楽曲やフレーズに置き換えていって、最終的にそれら全てを渾然一体に組み合わせてひとつの楽曲「東伊豆町稲取音楽記録」にすることで、滞在全体を音楽で表現したいと考えていました。
過去にベジタブルレコードとして、富山県氷見と三重県伊勢にて滞在制作をしたことがありました。
氷見では、「HOUSEHOLD」という宿に4日間滞在しながら、氷見の街から着想を得て、6曲入りのミニアルバム「Songs for HOUSEHOLD」を制作して、インスタレーションとともに氷見の特産品に音楽QRコードを付けた「音楽付き特産品」としてリリースしました。
伊勢では1週間ほど滞在しながら、伊勢の街から着想を得て、楽曲「Song for 伊勢市」を制作、「音楽を使ったエリアデザイン」として滞在終了から1年後、伊勢市内の様々なエリア/場所で、その場所ならではの方法で楽曲をリリースしました。
今回はソロ活動ということもあり、もっと身軽で直感的・即興的な、これまでとは違う形の音楽のアプローチをしたいと考えていました。
以下は、滞在に先がけてなんとなく書き出していた大まかなメモ。
・滞在全体を音楽で表現
・ひとつの写真(文章) ひとつの音楽(フレーズ)
・日々の印象を細かく表現することで、滞在の全体像にアプローチする
・外に出て(周りの環境により左右されながら)音楽を作る
・フォトエッセイ 写真、文章
・ミュージックエッセイ 音楽日記
・カジュアル
・即興、直感
・いい意味で作りこまない 雑さ
・ハードルを下げる 続ける
・その日のうちに終える
・周りの世界をどうやって音楽で表現するか
・音楽でしか表現できないこと
・滞在の終わりにそれらのバラバラの断片をまとめて1曲にする
・東伊豆の滞在全体を音楽で表現する
・自然=カオス
・写真(囲み線)+音楽(フレーズ) note Bandcamp
・制作風景 写真または動画 Youtube
日々の記録を短い楽曲に置き換えていって、最終的に全てを渾然一体に組み合わせてひとつの楽曲「東伊豆町稲取音楽記録」にする。
とは言ってもどういうことか、というところですが・・・、
1週間の中で日々作った9種類の楽曲を一度バラバラにして再構築することで、滞在全体を音楽で表現しました。
そんな形で最終的にはこんな感じになりました↓
①鳥
②電線
③海
④石
⑤森
⑥魚
⑦すべり台
⑧風力発電
⑨つるし雛
それではこれができるまでの1週間を日々の楽曲とともに振り返りたいと思います!
①鳥 / Bird - 1日目(2023.10.08)
音楽記録①。
町のランドマークの鳥(の写真)。海側から山を見ると鳥になるように9種類の植栽でデザインされてるという新しいスタイル。特に展望台にあったやや時代を感じる写真がよかったです。
今回の滞在である意味一番印象に残ってます。自分の街にも欲しい。
ピアノやバイオリン、シェイカー、ハープシコードを使った楽曲。
初日はあいにくの小雨が降る中、駅で待ち合わせ。
ホストの荒武さん、アーティスト仲間のあまるさん、早渕さん、早渕さんのご友人沼下さんと対面。
先ずは蕎麦屋「誇宇耶」にてお昼。さんが焼きがとても美味しかった。スーパーとかでは買えず(地元の方々は家で作るそうです)。
途中でホストの新井さん、梅田さんも合流。
「so-an 赤橙」「ダイロクキッチン」「so-an morie」「細野高原」「so-an 錆御納戸」「EAST DOCK」と、ホストにゆかりのある町の色々な場所をご案内いただきました。海と山、アップダウンのが激しさ、家の密集(海風をやわらげる目的もあるらしい)がユニークな町の風景を形成してました。
「so-an morie」の近く、稲取ふれあいの森の展望台にて教えていただいた町のランドマークの鳥。
町のどこからでも見える鳥はとても印象的で北極星のような存在でした。近づくと何だかわからない(風景と一体化してて気がつかない)けど、引いて遠くから見ると形をなしている(しかも抽象的なシンボルとかではなく、誰が見ても分かる鳥)という点がすごく興味深かったです。
こういった形の町のシンボルは初めて見たのですが、日本各所であるものなのかな。
細野高原では新井さんより「山焼き」のことや、珍しい絶滅危惧種の植物などを教えていただきました。中でも「ヒメハッカ」はすごく印象的でした。
夜は「かもめ食堂」にてアーティスト仲間3名や梅田さんたちと。
そして、2日間宿泊する「so-an 赤橙」へ。
部屋で1曲目を作って初日は終了。
②電線 / Electric Wire - 2日目(2023.10.09)
音楽記録②。
海風がすごいから弱めるためもあって家が密集しているなんて話もあって、なるほどと。それの影響もあるのか、街の高低差も相まって、電線の形がユニーク。来た時から街の特徴をある意味表してるのかしらと思ってました。
7:30/11:00/16:00に鳴る町の音楽(聴く場所によっては音の伝播のズレによるディレイ効果でもはやダブみたいになっててメロディーの原型がほとんど分からなかった)をサンプリング。そこにチェロやパーカッシブな音を加えた楽曲。
2日目は7時の音楽を起き抜けの中ボイスメモで録音したのち、豪雨の中、役場近くの港の朝市へ。とにかく海風がすごい。住民いわく、本気を出したらこんなもんじゃないそうです。体感では台風並みで傘は吹っ飛ばされてレインコートが必須ということに気がつきました。
そのあとは3時間くらいかけて町を散策。
町のいたるところにある消火ホースの赤色と形と数字がいいデザイン。家屋が密集してるし、昔に大火事があったそうで、それの影響もあるのでしょうか。
どんつく祭りの由来が直接的すぎるだろ、とか、江戸城の築城石に使う予定だった石を鳥羽一郎個人の愛恋岬の歌碑に使っていいのか、とか、内心思いながら歩いてました。
夜は同じ宿に泊まっているアーティスト仲間の美術家の早渕さんと廊下でバッタリ。立ち話を3時間くらい。いや、いい話でした。
3日目からは宿を移るので、荷物の整理をしつつ、宿で2曲目を制作して終了。
③海 / Sea - 3日目(2023.10.10)
音楽記録③。
今日から4泊する山のコテージから歩いて数分、稲取の街を一望できるところから見た、来てから初めての晴天の海。霞んで見える島々がなんとも美しかったです。
コテージで弾いたアコースティックベースやキーボード、パーカッションの音にピアノやコーラスの音を加えた楽曲。
3日目はようやく雨は止んで曇り。
海沿いを散歩したあとに、足湯で本を読んでるとあまるさんに会いました。昨日も坂を登る途中でバッタリ会ったりしてたのですが、近所で予期せず知り合いに会うってのは小学校以来なかったような気がして、なんか不思議な気持ちになりました。
午後、ホストの新井さんの車にて町中にある宿から山森の中、周りに民家や宿が一切ない、個人的に一押しの宿「so-an morie」へ。
下山して町に降りるのに歩くと30分〜1時間ほどかかるのと、夜は灯が全然なくホントに真っ暗になるので、4泊分の食料などを買い込んで行きました。
夜にはアーティスト仲間のあまるさん、早渕さんと細野高原へ(あまるさんの運転にて)。星と遠雷が見えてとても綺麗だった。
帰ったあとは、森の宿は夜でも(周囲がなにもなく)音が出せるので、持ってきた楽器を使って3曲目を制作しました。
④石 / Stone, ⑤森 / Forest, ⑥魚 / Fish - 4日目(2023.10.11)
音楽記録④。
昨日の散歩中に見つけたもやい石(上部に穴があけられてた船が流されないようにつなぎ止めておくための石)。
ガムランの楽器やサックス、破裂音を使った楽曲。
音楽記録⑤。
宿からの景色。日中は窓を開けると風が心地よく、たくさんある窓からの眺めが印象に残りました。
部屋になぜかあった立派な木琴を使った楽曲。
音楽記録⑥。
初日にみんなで行ったかもめ食堂の刺身の盛り合わせと焼き金目鯛。森では買い込んだ食料を自炊してたので、また訪れたときは行きたいです。
ガムランの楽器2種類とノイズを使った楽曲です。
4日目は、前日までの散策をベースにほとんどの時間を作曲に当ててました。
森の宿に来たらやってみたかった、絵画ではなく「音楽の屋外制作」。
制作中の音楽の欠片のような7曲を7台の小型スピーカーから再生して(キーだけ揃えてるだけなので、それぞれは独立してバラバラに流れ、調和し合いながらもズレ続ける)、周りの環境を取り込みながら、スピーカーの間を歩いてそれを録音してみました。
これは日々の記録的な音楽とは別で今回チャレンジしてみたかった試み。
自然の中とはいえ、他人がいると中々やりづらいことなので、今回の環境はうってつけでした。
明日の朝日をアーティスト仲間で見にいく約束をして就寝。
⑦滑り台 / Slide - 5日目(2023.10.12)
音楽記録⑦。
宿泊してる森のコテージの近くにある、いいロング滑り台。個人的に無類の滑り台好きなのだけど、以前札幌でいい滑り台を何回も滑ってたらズボンが摩擦で破けたことがあるので(隠しながらすぐにユニクロに行った)、ジーパンではない今回は慎重に降りるのみにしました。
スライドギターを組み合わせた楽曲。
朝4時に起床。
アーティスト仲間3人で朝日を見に行きました(僕だけ徒歩5分ほどの距離)。
何気にしっかりと日の出を見るのが初な気がする。
日中は滑り台を慎重に滑ったあと、近所のみかんワイナリー、ツリーハウスあたりを散策。
宿に戻って、作業をしてると猿が宿の目の前の木をすごい速さで登って屋根へ。あまりに素早すぎて撮影は出来ず。喧嘩中なのか数頭が声を出して上でドンドンと音を出して追いかけまわってました。
浅草にいたころにネズミが天井裏とか電線を歩くのは見ましたけど、ニホンサルは新しすぎて面白かった。
のんびりと作曲して終了。
⑧風車 / Windmill - 6日目(2023.10.13)
音楽記録⑧。
街のどこにいても見えるシンボルマークの鳥と同じように、山にいるとどこにいても見える風力発電の風車。時間帯や天気、見える角度によって感じ方が異なって面白い。朝日を見に行った時の色合いがとてもよかったです。
ボイスメモで録音しておいた町ブラ中の風の音、波の音、シャッターが軋む音をサンプリング。そこにサックスの逆再生とエレクトリックな音を足した楽曲。
屋根の上にサルたちが登る音で起床。昨日来て、気に入ったのだろうか。
2回目の屋外制作を実験しに、裏手の山道から森の中へ。
今回は周りの音を取り込みながら録音ではなく、単純に森の中でどうやって聴こえるのか、森の中だと無意識化にどんな影響があるのかを実験してみたかった感じです。
充電式ノートパソコンにBluetoothの小型スピーカー、技術の発展のおかげで手軽に自然の中でもこういったことが出来るというのはなんとも面白い。
今回作ろうと思っている音楽はほぼ完成。
宿泊先のコテージの裏手側の山道は観光客も地元の人もほとんど通らないエリアで近接した他の宿や民家もないので、自然の中で集中できる非常にいい時間を過ごせました。
このころには僕の中の伊豆のイメージは海から山や森にすっかり変わっていました。
「曲作りするから音も出したい」という要望をこういった形で提案いただいたホストの荒武さんにホントに感謝です。
その後、徒歩で下山。でも少し前の時代ならこの道を真っ暗でも歩くこともあったんだよな、とか、そもそも舗装されてるだけ全然いいよな、とか思いながら、かつての時代に思いを馳せてました。
夜は「ダイロクキッチン」にて滞在の報告会と町の方々との交流会。
同じ町を見ているのにみなさんのお話がそれぞれ違くて、とても有意義な時間でした。あらためて色々考えることが出来ました。
新井さんに車で送っていただいた帰りの道中ではイノシシとアナグマに出会いました。クマはいないそうで、リスとウサギは会えなかったですけど、中々に動物運がいいなと思います。
⑨つるし雛 / Hanging Dolls - 7日目(2023.10.14)
音楽記録⑨。
町のいたるところにあった、つるし雛。僕は吊るし飾りなるものを初めて見たので、パッと見た時はアートやデザインなどの文脈でよく用いられる「モビール」を連想しましたけど、全然違うルーツだろうし、ずっと歴史が古そう(ネットには江戸後期なんてありましたけどどうなんでしょう)。各所で見かけるたびに面白いなあと思って見てました。
ガムランの楽器、パーカッション、ピアノを使った楽曲。
最終日も快晴。
10時チェックアウトし、ホストの新井さんの車で細野高原へ。
アーティスト仲間のあまるさんが地元のイベントでパフォーマンスをされるとのことで見に来ました。トークも大道芸もホントに楽しませていただきました!めちゃくちゃ笑いました。
荷物がわりと多かったので、あまるさんをパフォーマンスを見たのちは寄り道せずに、細野高原から新井さんに駅まで車で送っていただき稲取を後にしました。
まとめ
東伊豆稲取はおそらく初めて来たので、ある意味なにも前情報がなく来たのですが、移住する方がいるのも分かるなあと思いました。
今回、初日2〜3日は天気が悪く、後半はずっと晴れでしたけど、ある意味荒天の稲取も体験できてよかったと思っています。1週間でなにが分かるっていう話ではありますが、この土地の美しい面と厳しい面、繊細な面と力強い面、自然豊かな面と不便さの面、それが少しでも身体的に理解できた木気がします。音楽としても反映できたと感じています。
ひと気が全くないような野生動物が普通にいる山林、向こうに見える島々、海風がすごい港、よくも悪くもある地域のコミュニティ、東京とさほど変わらないマックスバリューやマック、ザ・観光的な少し高めの旅館群、そういった多様な属性のものが1時間以内に行き来できるくらいコンパクトに収まっている。時々、時空が歪んでいるのかと思いました。いいカオス。
そういうグラデーションをひとつの場所で体験できるのは貴重なのではないかと思いました。普通に、また遊びに来たいと思います。
アーティスト仲間のお二人とのお話も非常に面白かったし、ホストの方々や交流会での皆さんとの会話もいい刺激になりました。
なんというか、参加してホントによかったなあと思っています。
みなさま、あらためてありがとうございました!!