さとうなつみ「空と山と川のあいだ (一日目)」
愛知、長野、静岡、の県境に位置するこの龍山に今日から約一週間滞在させていただきます、
さとうなつみです。
最近は近代以前の巡礼道をスケッチしたり、植物画を描いたり、また植物を素材としてインスタレーションを試みたりと、複数のメディアを扱いながら静岡県東部を拠点として制作しています。
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今朝は静岡県東部の富士山の裾野に位置する自宅から車を3時間弱走らせ、ここ天島邸(宿)に着いた。富士山を半周ほどぐるり、高速道路は左に海を、右に山々を臨みながら、東から西へ。
高速を降りると天竜川に沿って北へ進む。途中、ボワンと薄暗い、年期の入ったトンネルから川を渡る別れ道に入り損ね、何度か同じ道を往復したりしながら到着。14時少し前にもかかわらず、既に体感的には夕方のような陽の加減。
早速ホストメンバーの長谷山くんに、近場の白倉峡から湧水の出る場所、町の商店、床屋さん、寺尾というお山の頂上付近のお宅まで案内してもらった。千陽さんと合流し天島邸に戻る頃にはすっかり真っ暗。
山に落ちる陰影や天竜川に注がれる光のコントラストが強いからなのか、谷合いのこの辺り特有の日照時間の短さは、太陽の存在をより近くに感じる。
龍山の中で標高的には一番高いところに住まわれているという“ねーぼさん”を尋ねた。
長谷山くんが運転するハスラーで、蛇のようにぐねぐねと続く急な坂道を上り、紫色の夕焼けに白い月が見える頃、茶畑が続く急斜面と天竜川を見下ろす景色の中に、“ねーぼさん”が「かや(すすき)」を刈っている小さな姿があった。
あぁ、空の下で、山と川のあいだに、人がいるなぁ。
と思った。
当たり前のことだと言われればそれまでなのだけれども、ただその景色が私には何か圧倒的な実感をもって、立体的に響いてきた。
今日半日で白倉峡の日陰で冷たい岩場をゴソゴソと歩きまわっていたかと思えば、今度は山の頂上付近まで上り、風にビュウビュウと吹かれて川を見下ろしている。
こんなに一度に高いところから低いところへ移動して景色をみるということが久しくなかったからなのか、
普段自分の生活している地上から空まではこんなに広くて高くて遠かったのかと、思い出したようにはっとした。
明日は一人で山を登ったり下ったりしながらこの場所をうろうろしてみる。
地名に“龍”ともあるように、152号線以外道という道は蛇のようなぐねぐね道ばかり。
運転のいい練習にもなりそう。