癸生川栄(eitoeiko)「賀茂地区をめざして」(1日目)
二度目のしずおかマイクロアートワーケーションである。
前回、滞在した下田市役所のスーパー公務員F氏より、伊豆半島の南側は賀茂地区と呼ばれることを教えていただいた。下田市、河津町、南伊豆町、松崎町に西伊豆町、東伊豆町を加えたエリアである。今回はこの領域をもう少し知りたいと思い、松崎町にお伺いすることとなった。
半島の西側の末端にある松崎町には、当初東京から清水経由で駿河湾フェリーに乗船し、土肥からバスで西回りに南下する計画をたてていたが、台風による静岡市清水区の断水の影響を鑑み、予定を変更、前回同様に東回りで伊豆急下田駅を目指した。車内では座席を対面にしてお弁当を使う女性の旅行者グループがいた。半年前は座席の回転が禁止されていたので、かつての日常がいまは戻りつつあるようだ。
下田駅からは東海バスを利用する。下田駅前は、タクシー乗り場、バス乗り場、そして一般車のロータリーの三つの区分が順番に行儀よく並び、空間が開けていて大変気持ちがいい。そして前方の奥にはロープウェイで登れる寝姿山、後方には徒歩で走破できる下田富士があり、眺望もカッコ良いのだ。
松崎町までは一時間足らずの道のりである。バスが出発するとすぐ、下田市の中心を流れる稲生沢(いのうざわ)川を越える橋がある。前回の滞在の際に自分が書いた滞在記がわりの小説の舞台にしたことを思い出して、笑ってしまった。束の間のひとり聖地巡礼だ。地元の方にはぜひ昨年のMAWノートから探して読んでみてほしい。
蓮台寺を過ぎたところで稲生沢小学校の生徒が数名、バスに乗り込んできた。そしていくつか先のバス停で降り、家路についた。微笑ましい日常を垣間見た気がした。バサラ峠を越えると、そこはもう花とロマンの里、松崎町である。
私が小学生のときだったと思うが、家族で千葉県から松崎へ旅行したのだ。どこでも寝てしまう特技を保持していた私は、バスに乗った早々に寝てしまい、下り坂で目を覚まし、カーブを繰り返していたことで酔ってしまい吐いた記憶がある。そのことを乗っていて思い出したのだが、こんなに短い道程だったとは。
私の父は伊豆半島が好きだったのだと思う。小中学と毎年家族旅行をしていた。初めは熱海、稲取、今井浜、下田など東伊豆を順番に南下していたが、次第に沼津から戸田、土肥、堂ヶ島、松崎と西伊豆に行くようになった。35年から40年前のことである。当時、東伊豆を南下して「大きな」下田の町に出るように、西伊豆を南下して「大きな」松崎の町に出た、という記憶がある。現在松崎町は静岡県で一番人口の少ない町になっているということだ。