関根愛「十月三十日」(3日目)
《今日の朝兼昼ごはん》
にんじんと赤たまねぎのめかぶ和え
キャベツ、*筍、*ハヤトウリの*ハーブ醤油パスタ
(*は南伊豆産)
《今日の夜ごはん》
アナグマ肉と野菜炒め
南伊豆のお米の白ごはん
宿のオーナーと思しき方の朝のあいさつが昨日も今日もすごい。ただのおはようございますなんだけど、野球部の朝練みたいによく通る声で威勢がよく足裏から地面をつたって地球の真ん中まで届きそう。昨日アナグマを解体するのを見た話をしたら、ハクビシンもうまいんだって!木の実と果物ばっかり食べてるから。とのこと。朝から洗濯物とパソコン仕事。洗濯物干しは好きな家事のひとつです。朝食兼昼に昨日会ったじゅんぺいさんの作るはぐくみ農園の玄米麺でパスタを作る。自然栽培の玄米粉と馬鈴薯澱粉でできた半生麺はつるつるもちもちで、今まで色々なグルテンフリー麺を食べているけどいちばん美味しいんじゃないかと思った。味が絡みやすそうなのでこってりラーメンとかにしてもいいだろうし、寒い日は煮込みおうどんにもしたい。帰るときまた余分に買っていこう。宮ん谷ふぁ〜夢のハーブセットも買ったので、ローズマリーとセージ、タイムをちょっとずつ入れてハーブ醤油味に。みずみずしいたけのことはやとうり、持ち込んだキャベツで春っぽいパスタの完成。日なたで食べるご飯おいしい。ストロベリーグァバという黄色くて小さくて鈴みたいなグァバも食べた。これも南伊豆産。初めてみるフルーツ。たしかに味はグァバだった。
弓ヶ浜近くの若宮神社に抱き合う大木があった。正確にはいっぽうがいっぽうを完全にのみ込んでいて頭のてっぺんしか見えないみたいになっていた。なんでそうなったんだろう。あと何百年、何千年このまま抱き合って生きつづけるんだろうか。日本最北端のマングローブにも遭遇。まさかこんなところで。青野川沿いの散歩道は日本昔話の風景みたい。山の向こうまでどこまでもつづく川が流れて、柿の木がいくつも実をつけてしだれて、みかんがなって、空が低くて、秋の草が風に揺れていて。日本の原風景みたいなものかもしれないけどちょっと別世界みたいな感じがする。昨日アナグマをさばいたまことさんの店へ行き、ひと晩塩揉みして寝かせた肉を調理するようすを撮影する。まことさんは中華料理人。手さばきが見ていて飽きない。アナグマの肉を三種類の料理に。生姜野菜揚げ炒め、明日葉のジェノベーゼ炒め、香草焼き。わたしはふだん肉を食べないが、アナグマを食べることは一生ないかもしれないからと経験のために少しだけいただいた。アナグマといわれなければ分からない、おいしい。目の前でまだ体温があったいのちがこうしてお皿のうえにあること。店で売られている肉には顔がついていないけど、この肉にも顔があって、その顔には色んな表情があったということ。水色のタライに体を丸めた状態でそっといれられて、穏やかに眠るように目をつむっていたアナグマ。たとえ肉のひと欠片でも私がそれを食べ、この体に入っていったこと。ひとは生きているのではなくいつもいくつもの何かに生かされているのだから、この体は自分のものなんかではないのだから、大切にしていかなくてはいけないと思う。