関根愛「十月二十八日」(1日目)
はじめに。昨年につづき二度目の参加をさせていただくことになりました。十数年俳優として、また最近では映像制作やエッセイストとして活動しています。2021年に東京から鎌倉へ移りました。料理や食事を通して生きることを見つめるのが私のライフワークです。
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《今日の晩ご飯》
*金時草のねりごま和え
*たけのこと椎茸とピーマンの煮物
*トサカノリと*きくらげの味噌汁
*カリカリ小梅
*しその実の塩漬け
赤飯とちりめん
*は南伊豆産(道の駅湯の花にて購入)
旅先では必ず自炊をする。そのため台所がある宿を選ぶ。食物アレルギーが多くて外食がむずかしいからというのが発端で始まったルーティンだけれど、今では旅のいちばんの愉しみになっている。塩、醤油、味噌、出汁、みりんあたりの基本的な調味料などはふだん使っているものを持参し、その土地の食材を購入したりいただいたりして料理を作る。
遅いお昼は弓ヶ浜の青木さざえ店で。あわび丼を食べる。まあるく弓なりになった浜辺はやさしい雰囲気だった。道の駅で食材を買い出して宿に着くともう暗くなり始め、足がないので移動はやめて宿で晩ご飯を作ることに。くたくたに煮込んだピーマンとたけのこと椎茸の煮物が疲れた体に染みた。緑と紫の葉をもつ金時草を調理するのは初めてなような気がするのだけれど、ねりごまあえにしたら美味しそうだと思いしてみたらねっとりとして美味しかった。茹で汁が野生的な紫色で本当にきれいだった。トサカノリも粘り気がすごく、こりこりのきくらげと一緒に甘いお味噌で味噌汁にしたのも滋養満点の味がして元気が出た。しその実の塩漬けは母が炊いて持たせてくれた赤飯と一緒に食べたが、これがあればご飯がいくらでも食べられそう。地産の食べものには土、水、太陽、風、雨、虫、鳥や動物、そしてそこで育てた人の汗や手垢などまでその土地のすべてがつまっている。南伊豆に暮らす人たちの手で育てられた食材を食べて初めて、初めましてよろしくお願いします少しの間お世話になります、という気持ちになる。直接育てた人にはお会いしていないけれど、目に見えるものより見えない繋がりを確かに感じることで人は生きていると思うのだ。